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【短編小説】ないもの


自分にないものははっきり見える

aには自由ががある
bにはお金がある
cには愛がある
dには安心がある
eには常識がある
fには綺麗な容姿がある

g(私)には何もない

aは言った
「dが羨ましい 自由だけど安心はないんだ」

dは言った
「僕は安心はあるけど自由がなくてaが羨ましいよ」

次々声が上がる

bは言った
「お金ならあるけど愛はないよ 愛なんか分からない」

cは言った
「愛はあるけどお金がないんだよ」

愛やらお金やら常識やら綺麗やら

みんな散々話している

私はただ聞いていた

一人が私に聞く

「あなたは何かある?」

私は言った
「全部ない」

その場が静まる

聞こえてきたのは夕暮れのチャイムだけだった

私は夕暮れの道を歩く

公園のベンチに座り夕焼けを見ていた

aがベンチの隣に座る

静かな時間が流れた

aが言った
「gには優しさがある」

「自分にあるものはよく見えないから
でも見えている人には見えてるよ」

私は思った
私のあるものは見えづらいけどわかる人には伝わっている

涙が溢れる

視界が霞む

眼鏡を外し目を擦る

あれ?

かけ直す

あれそういえば皆眼鏡をかけていた

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