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【短編小説】通りと黒猫


情報が溢れている
私たちの体に入ってくる情報は必要か


私は椿 
三年前上京してきた

東京の街はいつでも忙しい

眠らない街

睡眠不足のようだ

今日明日の繰り返しを過ごしている

橋の上から見た川は光が反射して綺麗だ

私はまた明日への一歩を踏み締める

鉛のような身体を引きずった

静かな通り

月と星は輝いている

鉛はいつの間にか消えていた

「綺麗」

道の端に一匹の黒猫

頭を撫でた

「温かい」

「にゃー」

猫に手を振る

温もりはしばらく残ったままだった

夢を見た

泣いている男の子

朝日の眩しさで起きた

今日のはじまり

窓の向こうでヒバリは飛んでいた

楽しそうに歌っていた

人の流れに沿って歩く

黒いモヤが見えた

それは足が沢山生えていて鋭い棘で覆われている

タッタタタタタ

人を追いかけ刺す

チクチク

誰一人気づいていない

その内の一匹と目があった

タッタタタタタタタタタタタタ

私の方に向かってくる

昨日来た通りに居た

地面に座り込む
     
「見間違いだったんだ」

「見間違いじゃない」

昨日の黒猫が居た

「昨日僕を撫でたから見えるようになり存在するけど普段は見えない」

「無意識間しか存在しない」

「この通りには入ってこないから平気さ」

「僕はアン」

「私は椿です」

「どうして話せるの」

「同じ種族だから」

私はアンのことは不思議と怖くなかった

「心配だから一緒に居て」

「わかった」

アンを鞄に入れ通りを出た

椿とアンは穏やかな日々を過ごした

「おはよう」から
「おやすみ」まで

ある日テレビから遊園地の広告が流れた

ジー 
ブンブン

目を輝かせて尻尾を振っているアン

「ふふ」

「遊園地楽しそう」

「行ってみる?」

「うん」

アンは嬉しそうに笑った

遊園地は眩しい

夏だから余計そう感じた

「楽しかった」

「私も」

夏の日暮れ心地よい風が吹いた

黒いモヤがアンの前に

「何か用か」

「私たちと人は無意識間しか交わってはいけない」

「椿」

アンの声が聞こえた気が

嫌な予感がして探した

「アン」

アンは身体が固まって動けないみたい

「何があったの」

「僕は君に会えて本当に良かった」

「暗闇の僕を救ってくれた」

アンは消えた

家に帰り部屋を眺めた

アンが居る気がした

「アン」

部屋は静か

アンはもう居ない

泣きながら眠りにつく

何日経ってもアンには会えなかった

私は通りを歩く

「あなたは夢で見た」

「椿」

アンの声がした

私は思わず抱きしめた

「アン」

「僕は人間だったみたい」

「幼い頃、黒いモヤが見えて僕は一人泣いていた時椿が現れた」

「どうしたの」

「黒いのが居て怖い」

「そして僕たちは再び巡り会った」

「撫でてもらったあの瞬間温もりを思い出した」

「椿に影響されて僕は人間性を取り戻せて戻って来られた」

「アン」

「良かった」

「もう会えないかと」

「私も暗闇で後ろを向いていた」

「黒猫を撫でると温かくて忘れていた温もりを思い出した」

目の前に明るい光が見えた気がした


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