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【三題噺 お題】 ショッピングモール 完璧 楽園


 Pにフラレてから一年が経つというのに、まだ頭の片隅には彼女のやさしかった笑顔が残っている。Pのやさしさに依存しきっていたAのこころは寂しさで破裂寸前のところまできていた。自分でもコントロールがきないほど傷んでしまっていた。
 そのこころの辛さは誰にもわからないのだろうが、とうとう衝動買いというかたちで爆発したのだった。寂しさは、人によっては買い物に現れるという。
Aはそのタイプであったようだ。
気がつくと、財布を握りしめて、一人ショッピングモールへと車を走らせていた。
ショッピングモールはその時のAにとっては、完璧なまでの楽園であった。Aは財布の許す限り欲しかったものを、片っ端から買っていた。

数日後、買い物しまくった荷物が続々と家に届けられた。
Aの妹が何事かと二階から降りてきた。
「おにいちゃーん。大量の荷物来てるよー」
Aも二階から降りてきた。
「え。こんなに買ったっけ?」
「まだ、ありますよ」と、シロネコさんは次々とダンボールを運び込んてきた。
家の玄関はダンボールで山積みになっていった。
「まいどー」とシロネコさんは帰っていった。
Aは届いた大量の荷物の積み上がった玄関を、しばらくの間、ただ呆然と眺めていた。前から欲しかったものは、全て眼の前に積まれているのに、何か奇妙な感覚だった。
「なんか、虚しいなこれ……」
冷静に財布の中身を見ると、虚しさは更につのるばかりだった。
呆れながらそれを見ていたお年頃の妹は、Aにとどめを刺すように、勝手に荷物を開けながら、無遠慮な一言を言い放った。
「お兄ちゃん重症ねー。しかも、私からしたら、こんなの全部ゴミだし……」
「オマエニ、オレノ、ナニガワカルンダヨ……」

今の妹と共有できそうなのは、数日前まで財布の中にあった紙の価値だけだと、そう思った。


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