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プロモデラーの師匠と情けない俺の話 第九話~純真とは~

先日オフハウスで組立て済のHGシリーズのZZ(ダブルゼータ)ガンダムを見かけて購入した。かなり前から改造したくて欲しかったものなので素組み済で1300円というのは非常にありがたいお買い得商品だった。

ダブルゼータを見ると師匠と作業中のある日の出来事を思い出す。
季節は、ちょうど今頃の暑い時期で子供たちは夏休み真っ只中だった。いつものようにくだらない雑談を時々はさみながら師匠は仕事のプラモの作成を、自分は持ち込んだプラモを作っていた。そんな作業中に作業場の玄関をノックする音が聞こえた。この頃は師匠のところに通い始めた頃で師匠の作業場はリホーム前なので以前説明した作業場と間取りが違っていて作業場に直接玄関があったのでダイレクトに入れるのだ。

師匠が「はいよー」と言ってガチャっとドアを開けると一人の小学生低学年くらいの男の子が入ってきた。男の子の手にはダブルゼータのプラモデルが握られていて
男の子「見て見て!出来たー!かっこいいでしょ!」
師匠「良く出来たね!」
男の子「へへへ!じゃーねー!バイバーイ!」
というようなやり取りをして男の子は出て行った。師匠も何事も無かったように作業を黙々と続けた。一瞬の出来事だった。
俺は驚いて思考停止して何が起きたかわからなくなった。この作業場には企業秘密の発売前のプラモデルの設計図やらなにやら資料やらガンダムやプラモデル好きが見たら大喜びするような一般に見せてはいけないものがたくさんあった。自分も当然情報漏洩致しません的な念書を書いてサインして入らせて頂いていた場所である。

えーーー????普通の子供が気軽に入ってきて師匠に自分で作ったガンプラを見せて満足してエッヘン!みたいな顔して出てったーーー!!!!!!いいのか?大丈夫なのか?近所の子か?親戚の子か?

当時師匠は独身だったから師匠の子ではない事は確かだった。もしかしたら念書を書かせてたかも知れないが師匠があまりにも自然体に当たり前に接して事が過ぎ去ったので何故か俺はその子の事を聞けなかった。

今思えば師匠も男の子も純粋だったんだと思う。作業場の非公開の貴重なものには目もくれず、自分で作ったカッコいいプラモデルを純粋に誰かに見せたいという思いで師匠のところに来て見せて満足して帰る。この純真さをわかっていたから師匠は受け入れていたんだろう。
「子供の頃に出会った純粋な感動や夢中になる感じは大人になったら子供の頃の様な感じ方はもう出来ない。だからそれに近い感じ方に近づけるように意識してアンテナを張ってる。」
誰の言葉か思い出せないがラジオで聞いた言葉を思い出した。

歳を重ねて素敵なものをたくさん見たり経験値が増える事、貴重であるとか儲かるとか付加価値でものを見てしまう事など大人になると純粋に感性だけでものを見ることが出来なくなっていることが多い事に気が付く。ツイッターなどSNSで転売ヤーやガンプラをUPしアンチコメントをされてるのをみたり、ガンプラって塗装しなきゃだめですか?みたいな書き込みを見ると悲しくなる。プロじゃないんだから楽しくやらなくてどーする?他人の批判してどーする?競技をしてるんじゃないんだぞ!

この男の子のように好きなプラモデルを好きに作って純粋にかっこいいと自分が思えばそれでいいと思う。
師匠のように誰かが自分で作ったもの批判せずに見てあげればいいと思う。
俺はこの事で純粋な気持ちを大切にする師匠の純粋な優しさに感動した。

純真
心にけがれのないこと。邪心がなく清らかなこと。また、そのさま。
goo辞書より抜粋

自分も邪心の持ち主なので純真に近づけるよう意識して生きていきたい。


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