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■マーベル・ゾンビーズ

■Marvel Zombies
■Writer: Robert Kirkman
■Penciler: Sean Phillips.
■翻訳: 田中敬邦
■監修: idsam
■カラー/ハードカバー/1,999円 ■ASIN: B0BLPBPCCM

「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第22号は、大ヒット作『ウォーキング・デッド』の原作者であるロバート・カークマンをライターに迎え、ショーン・フィリップスがアートを担当した『マーベル・ゾンビーズ』シリーズの第1作(なお、「マーベル グラフィックノベル・コレクション」では第2作目以降の翻訳予定はない)。

 まあ、要するに「マーベル・ヒーローがゾンビと化して、超能力で人類を襲う」という悪趣味な話であるが、後半にマーベルの“飢えたる者”の究極であるギャラクタスを登場させ、ゾンビーズとの衝突とその先を描くことで、マーベル・ユニバースという宇宙的な広がりを持つ世界におけるゾンビものとして、充分以上のワンダーを提示した快作である(その後、無数の続編が作られて、当初のワンダーが徐々に褪せていくのは、人気ホラーシリーズの宿命ではある)。

 収録作品は、『マーベル・ゾンビーズ』#1-5。

 本書は、おそらく上にあげた、ソフトカバー版単行本が底本となっていると思われる。こちらも収録している号は同じ。

 ちなみに、本作が刊行された2006年頃のマーベル・コミックス社が刊行するコミックブックの単行本化の流れは、一連のストーリーラインが終わってから数ヶ月と間を開けずにハードカバー単行本が刊行され、しばらく置いて、ソフトカバー単行本が出る、という具合だった(アメリカの一般書籍の売り方を真似した感じ)。

 で、当時、筆者はヘル高いハードカバー単行本などは買う気もなく、ソフトカバー版の刊行を待っていたのだが、『マーベル・ゾンビーズ』は、先行して出たハードカバー版が売れに売れてしまい、カバーアートを変えて5回も再版され、その度にソフトカバー版の発売が延期されるという悪質なループに陥り、予約したソフトカバー版が届くのに偉く待たされたものだった。なんたるヘルか(いまだに根に持ってここで書く位に恨んでいる)。

 しかもマーベルは、ソフトカバー版発売の翌月には、まったく悪びれずに、『マーベル・ゾンビーズ』の一連のカバーイラストをまとめた画集、『マーベル・ゾンビーズ:ザ・カバー』なんて代物も刊行している。


 こちらがその画集。元々『マーベル・ゾンビーズ』は、単刊のコミックブックが大人気で、これらの号も幾度もカバーを変えて再版された結果、こんな単行本まで出せるほどにカバーアートが貯まっていた。なお本書はハードカバーのみでソフトカバー・電子書籍版は刊行されてない。

 どうでもいいが、カバーアーティストの Arthur Suydamの名字は、古いオランダ語に由来しており、「アーサー・スイダム」ではなく「アーサー・スーダム(sü- dam)」と読む。

 閑話休題。


 参考までに、本作は2012年にヴィレッジブックスから邦訳版が発売されている。

 収録内容はやはり『マーベル・ゾンビーズ』#1-5。

 同作は日本でもヒットし、続編である『マーベル・ゾンビーズ2』と、前日譚を集めた『マーベルゾンビーズ:デッド・デイズ』も刊行された。


 さて以降は、『マーベル・ゾンビーズ』のタイトルを冠した作品・関連作品を、刊行年順に紹介していく。

 そもそも『マーベル・ゾンビーズ』の物語の舞台となる世界(アース-2149)は、2005年に刊行された『アルティメット・ファンタスティック・フォー』#21-23(9-11/2005)にて展開されたストーリーライン、「クロスオーバー」にて初登場した。

 この話は、同作の主人公であるアルティメット・ユニバース版のリード・リチャーズ(ミスター・ファンタスティック)が、平行世界に住む自分自身(外観は、本来のマーベル・ユニバースのミスター・ファンタスティックとそっくり)と接触し、彼の導きでそちらの世界に行くが、実はそちらの地球は、ゾンビと化したヒーローらによって文明が崩壊した、ポスト・アポカリプスな世界であった……という内容。

 その後、ゾンビ・ファンタスティック・フォーがアルティメット・ユニバース(アース-1610)に到来する一方、アルティメット世界のリードがゾンビ世界に囚われるという苦境に陥るが、最終的にどうにか事態は収束し、ゾンビ・ファンタスティック・フォーの4人は、アルティメット・ユニバースのバクスター・ビルディング(ファンタスティック・フォーが身を寄せている政府運営のシンクタンクの拠点)に収監される。

 上はこの話を収録した、『アルティメット・ファンタスティック・フォー:クロスオーバー』(単行本5巻)。収録話は『アルティメット・ファンタスティック・フォー』#21-26(※以降、各ストーリーラインをまとめた単行本へのリンクを適宜貼っていくが、『マーベル・ゾンビーズ』の物語をきちんと追いたい場合は、本稿の最後の最後で紹介する『マーベル・ゾンビーズ:ザ・コンプリート・コレクション』全3巻を購入することを勧める)。


 で、この話に登場した、「ヒーローらがゾンビと化した世界」に可能性を感じた『アルティメット・ファンタスティック・フォー』の編集者ラルフ・マッキオは、この世界を舞台としたスピンオフのリミテッド・シリーズを立ち上げることとした。そして、当時ゾンビもののコミックの大ヒット作『ウォーキング・デッド』で気炎を吐いていたロバート・カークマンに白羽の矢を当てたのだった(分かりやすい)。

 当時刊行された情報誌『マーベル・スポットライト』のカークマンのインタビューによれば、『マーベル・ゾンビーズ』に関わることになったきっかけは、以下のような具合だったという。

──その少し前、カークマンはマーベル・コミックスの編集者トム・ブレボートと電話で話をしていた。この時カークマンはブレボートに対し、散々『ウォーキング・デッド』の売上げの自慢をした末に(※当時『ウォーキング・デッド』の単行本は、マーベル、DCの単行本以上に売れていて、各巻が年間ベスト100にランクイン。「大手出版社の刊行物でも、ヒーローものでもないのに大ヒットしてる、すごい」という感じの評価を受けていた)、「君らんとこでもゾンビものをやる時は、声をかけてくれよ!」とジョークを飛ばした。すると3週間後、ブレボートから話を聞いたラルフ・マッキオが、カークマンに『マーベル・ゾンビーズ』の企画を打診したのだという(大ヒット作家はうっかりジョークも飛ばせない)。

 で、カークマンは『マーベル・ゾンビーズ』のプロットを練り(まだ『アルティメット・ファンタスティック・フォー』の完成原稿もできていない時期に仕事をオファーされたため、同号の脚本を参考に案を考えたとのこと)、やがて2005年後半から『マーベル・ゾンビーズ』リミテッド・シリーズ全5号の連載が開始された(12/2005-4/2007)。

 この『マーベル・ゾンビーズ』は恐るべきヒットを飛ばし、各イシューは繰り返し繰り返しリプリントされ、その後に刊行されたハードカバー版単行本にも予約が殺到したため、マーベル編集部は間を開けずに『マーベル・ゾンビーズ』関連の新作を複数同時に送り出すこととした。

 その第1弾が、リミテッド・シリーズ『マーベル・ゾンビーズ/アーミー・オブ・ダークネス』#1-5(5-9/2007)である。

 この作品は、当時ダイナマイト・エンターテインメント社が刊行していたコミック『アーミー・オブ・ダークネス』(カルト映画『死霊のはらわた』シリーズが原作)との会社間クロスオーバーで、ダイナマイトが刊行していた『アーミー・オブ・ダークネス』#13(1/2007、最終号)のラストから、直接話が続いている。

 ──同話のラストで、邪悪な儀式によって殺されたはずの主人公アッシュ・ウィリアムズは、何故だか次元の彼方に飛ばされ、マーベル・ユニバースのアース-2149に顕現する。そこで、魔導書ネクロノミコン(死者の書)に憑依されたホームレスから、まもなくこの世界が滅亡し、死者の軍団が顕現することを告げられる。急いでアベンジャーズに連絡を取り、その事実を告げたアッシュだったが、彼の大雑把な説明は誰にも信用されず、するうち次元の彼方からゾンビ化したセントリー(ロバート・レイノルズ)が到来。出動したアベンジャーズはセントリーに嚙まれ、ゾンビに変じてしまう……。

 物語的には『マーベル・ゾンビーズ』の前日譚で、アース-2149の地球がいかにゾンビによって壊滅させられたかが描かれていく(「異界から飛来したゾンビ・セントリーがアベンジャーズをゾンビに変えた」というオリジン自体は、既に『アルティメット・ファンタスティック・フォー』#22の作中で描かれていたもので、本作はそれを拡張したものとなる)。

 で、紆余曲折の末に、アース-2149のドクター・ドゥーム(もはや滅亡は避けられぬと悟り、自身の統治するラトヴェリアの民を別次元に逃がすことにする)の協力で、別次元に脱出したアッシュだったが、行きついた先は人狼と化したヒーローらが人類を滅ぼした世界だった……というお約束なオチで、このリミテッド・シリーズは幕を閉じる。

※その後アッシュは、まあなんとか次元間移動に成功し、元いた世界に帰還するが、前シリーズラストの儀式によって誕生した邪悪なアッシュ、エビル・アッシュ・プライムによって、故郷デトロイトは壊滅していた……という具合に、ダイナマイト・エンターテインメント刊の新リミテッド・シリーズ『アーミー・オブ・ダークネス:フロム・ザ・アッシュズ』#1(8/2007)に続く。

 ちなみに『マーベル・ゾンビーズ/アーミー・オブ・ダークネス』は、会社間クロスオーバーということもあり、権利関係上、電子書籍化はされていない(上は当時刊行されたハードカバー単行本。本作唯一の単行本になる)。


 また、このクロスオーバーと同時期に、本家『アルティメット・ファンタスティック・フォー』の#30-32(7-8, 10/2006)で展開された「フライトフル」ストーリーラインで、ゾンビ・ファンタスティック・フォーが再登場する。

 この話では、「ゾンビ・ファンタスティック・フォーが脱走し、ゾンビ世界とアルティメット・ユニバースの間に次元門を開こうとする」「ヒューマントーチの体内に太古の邪神が憑依していたことが判明」「邪神に対処するため、ファンタスティック・フォーは魔術に精通した仇敵ドクター・ドゥームの援助を求めるが、ドゥームは援助の見返りにリードと肉体を交換する」と言った未曽有の危機が同時に勃発し、最終的に「リードの肉体を奪ったドゥームが、邪神をヒューマントーチの身体から祓うが、誤ってドゥームの肉体(精神はリード)に邪神が憑依してしまう」「ドゥームの肉体に囚われたリードは、魔術を駆使してゾンビ・ファンタスティック・フォーを(割とアッサリ)倒した上で、邪神が憑依したドゥームの肉体を、ゾンビ世界に放逐しようとする」「誇り高いドゥームは、自身のミスをリードにフォローされるのが我慢ならず、肉体の交換を解消。邪神をその身に宿したまま、ゾンビ世界に消える」という具合に決着が付けられる(なおこの話は時系列的には『マーベル・ゾンビーズ』のラストで、ゾンビ・ヒーローらがギャラクタスを食った前後の出来事になる)。

※ちなみにその後ドゥームは、いつの間にかアルティメット・ユニバースに戻って悪だくみをしていた……と思ったら、「実はロボットでした」オチだったり、今度こそ帰ってきたと思ったらシングに殺され、いつの間にか復活したと思ったら、「復活したのではなく、今度こそゾンビ世界から帰ってきたドゥームである」「シングが殺したのは別人だったのだ」という説明がされ、その後大した活躍もせず、2015年の『シークレット・ウォーズ』でアルティメット・ユニバースが消滅して以降、再登場していない(シュレディンガーのドゥーム)。


 この「フライトフル」の話は、『アルティメット・ファンタスティック・フォー:フライトフル』(第6巻)に収録。収録話は『アルティメット・ファンタスティック・フォー』#27-32。


 そして、本家マーベル・ユニバース(アース-616)が舞台の『ブラックパンサー(vol. 4)』誌でも、#28-30(7-8, 10/2007)にかけて展開されたストーリーラインで『マーベル・ゾンビーズ』とクロスオーバーした(詳細は、こないだ紹介した『ブラックパンサー(vol. 4)』についてのエントリを参照。時系列的には『マーベル・ゾンビーズ』のラストで、ゾンビ・ヒーローズが宇宙の彼方に旅立った後の話)。


 で、これら3本のストーリーラインと同時期に、カークマンが再びライターを務めたワンショット(単発の増刊号)、『マーベル・ゾンビーズ:デッド・デイズ』#1(7/2007)も刊行された。こちらはゾンビ・セントリーによってアベンジャーズがゾンビと化した直後に勃発した、ニック・フューリー率いる残存ヒーローらとゾンビ・ヒーローらとの一大決戦と、『アルティメット・ファンタスティック・フォー』、『マーベル・ゾンビーズ』、『マーベル・ゾンビーズ/アーミー・オブ・ダークネス』の各作品に繋がる各キャラクターの去就が描かれた。


 で、こちらの単行本『マーベル・ゾンビーズ:デッド・デイズ』は、この時期の『マーベル・ゾンビーズ』のストーリーを一冊にまとめた単行本。収録作品は『マーベル・ゾンビーズ:デッド・デイズ』#1、『アルティメット・ファンタスティック・フォー』#21-23、#30-32、『ブラックパンサー(vol. 4)』 #28–30。ちなみに『マーベル・ゾンビーズ』人気のお陰で、こちらの単行本の電子書籍版は、かなり格安で販売されている。ありがたい。


 で、これら一連のストーリーラインも大好評を博した結果、マーベル編集部は、2007年秋からリミテッド・シリーズ第3弾、『マーベル・ゾンビーズ2』全5号(12/2007-4/2008)を刊行する(ライターは引き続きカークマン)。

 ──『マーベル・ゾンビーズ』のラストから40年後、全宇宙を喰い尽くしたゾンビ・ヒーローズらは、かつて破壊された次元転移装置を再生して、別の宇宙へ侵攻することを思い立ち、全ての始まりの地・地球に帰還する。一方、地球では、ゾンビの猛襲を生き延びたブラックパンサーが、生き残った市民を集めてニュー・ワカンダを築き、細々と文明を復興させていたが、40年の歳月は、彼のカリスマに陰りを生じさせていた。やがて、ゾンビの“人肉への無限の渇望”を解消する手段が発見されたことで、ゾンビ・ヒーローズらは2派に分かれ、戦いを始める……。

 で、紆余曲折を経て、ゾンビと人類は和解するのだが、最終盤の裏切りによって、生き残ったゾンビ・ヒーローズは、次元の彼方に放逐されてしまうのだった。


 こちらは『マーベル・ゾンビーズ2』の単行本。全5話を収録。

 この『マーベル・ゾンビーズ2』をもって、マーベル・ゾンビーズ世界からはゾンビの害が永遠に除かれることとなり、物語には一応の決着が着いた。……のだが、人気があればどうにでも理由をつけて続編が作られるのはヒット作品の常である。


 そんな訳で、2008年秋から、ナンバリングタイトル第3弾、『マーベル・ゾンビーズ3』全4号(12/2008-3/2009)が刊行された。本作のライターは、カークマンに代わり、当時マーベルで『インクレディブル・ハーキュリーズ』の連載を手掛けていた(共著:グレッグ・パック)、フレッド・ヴァン・レントが担当。で、本作からはゾンビ側でなく、それを撃退しようとする人間側が主役の、まあ、普通のパンデミック・ホラーとなる。

 ──フロリダの沼沢地帯にある、平行世界との交錯点「ネクサス・オブ・オール・リアリティ」(マーベルの古参怪奇キャラクター、マンシングのコミックに登場する特異点)を通じてアース-2149のゾンビ・モービウス、ゾンビ・デッドプールがアース-616こと本家マーベル・ユニバースに顕現。対応に向かったフロリダのイニシアティブ(『シビル・ウォー』後に各州に置かれることになったヒーローチームの総称)「コマンドー」は壊滅するも、辛うじてゾンビ・デッドプールの撃破とゾンビ・モービウスの捕獲に成功する。
 やがて多元宇宙関連の事件の監視組織「A.R.M.O.R.(アーマー)」に協力するモービウス(マイケル・モービウス博士)は、ゾンビがウィルスによって感染することを発見。アーマーに協力するマシンマン、ジャコスタをアース-2149に派遣する。その目的は、ゾンビ・ウィルスのワクチンを開発するため、あちらの世界でゾンビ・ウィルスに未感染の人間を確保することだった(なおマシンマンらは機械生命体なので、ゾンビ・ウィルスには感染しない)。
 マシンマンらが顕現したのは、『マーベル・ゾンビーズ』第1作のラストの後(コズミック・パワーを得たゾンビ・ヒーローが地球を離れた後)のニューヨーク市──ゾンビ・キングピンが、ゾンビ・ジャッカルに製造させたクローン人間を餌として他のゾンビに供給することで、歪な秩序を築き上げた死の都だった。
 他方、アース-616では、モービウス博士と入れ替わったゾンビ・モービウスにより、アーマー基地内でゾンビ・パンデミックが発生していた……。


 こちらがその単行本。『マーベル・ゾンビーズ3』全4話を収録。

 で、この『マーベル・ゾンビーズ3』は、ラストでなんとか事態は収拾したものの、「実はアース-2149からやってきていたゾンビが、テレポーターを用いてこの世界のいずこかへ逃走していた」ことが判明。モービウス博士がワーウルフ、ヘルストーム、ジェニファー・ケールといった怪奇系ヒーローを集めた新生ミッドナイト・サンズを創設し、逃げたゾンビの跡を追う……というところで、「『マーベル・ゾンビーズ4』に続く!」とアオられて終わる(続編を前提にシリーズを展開していくのは、「かつての人気ホラー映画シリーズの末期」みがある)。

※「ミッドナイト・サンズ」は、元々1990年代にゴーストライダー(ダン・ケッチ)&ジョニー・ブレーズ、ナイトストーカーズ、モービウス、ダークホールド・レディーマーズらが結成した対オカルトチーム。

 そうして『3』の終了から間を開けずに、リミテッド・シリーズ『マーベル・ゾンビーズ4』全4号(6-9/2009)がスタートする。ライターは引き続き、フレッド・ヴァン・レントが担当し、アーティストも前作と同じくケブ・ウォーカーが務めた。

 物語は『3』のラストで予告された通り、モービウス博士率いるミッドナイト・サンズが世界のいずこかに転送されたアース-2149のゾンビを追う話。やがて、一連の事件の元凶が、『3』の冒頭で死んだはずのゾンビ・デッドプール(現在は頭だけになっている)であり、偶然、沼沢地帯で彼と遭遇したゾンビ―(サイモン・ガース、マーベル・コミックスの古参怪奇系キャラクター。なぜか死後も肉体に魂が宿ったブードゥー系ゾンビ)が、デッドプールの首を持ってテレポートしていたことが判明する。
 他方、当時の『ニューアベンジャーズ』誌などで暗躍していたヴィラン、ザ・フッド(パーカー・ロビンズ)と、彼の魔力の供給源である異世界ダーク・ディメンジョンの支配者ドルマムゥは、デッドプールを確保しようと思案。絶海の孤島にてフッドの部下たちとミッドナイト・サンズが交戦する。
 その後色々あって、「血の様な雨を降らし、それに打たれると人間をゾンビに変えてしまう雨雲」が発生し、「雲が文明社会に流れて行かないよう、数時間後に雲めがけて核爆弾を投下する」とかいう、パンデミックものお定まりのピンチが勃発する。

 で、最終的にミッドナイト・サンズとマンシング、ゾンビ―らの尽力によって、パンデミックの拡散は阻止されるのだった。


 こちらが『マーベル・ゾンビーズ4』の単行本。全4号を収録。

 ちなみに、『4』の事件の発端となったゾンビ・デッドプールは、その後“親友”のゾンビーと別れ、流浪の末に南極の奥地サベッジ・ランドに流れ着く。その先の彼の運命は、『ゾンビーズ』シリーズではなく、本家デッドプールを主役に据えたリミテッド・シリーズ『デッドプール:マーク・ウィズ・ア・マウス』全13号にて語られることとなる。

 こちらは過去の『デッドプール』のコミックのシリーズを年代順に再録した単行本『デッドプール・クラシックス』の第11巻で、『デッドプール:マーク・ウィズ・ア・マウス』全13話(9/2009-9/2010)と、同シリーズからスピンオフしたワンショット『レディ・デッドプール』#1(9/2010)を収録。


 なお、『デッドプール:マーク・ウィズ・ア・マウス』は、2013年に小学館集英社プロダクションから邦訳版が刊行され、2018年には電子書籍版もリリースされている。『マーベル・ゾンビーズ』からのスピンオフ・キャラクターとしては最も有名になったゾンビ・デッドプール(ヘッドプール)の雄姿を日本語で堪能したい方はこちらを読むのもいいだろう。


 さて、『マーベル・ゾンビーズ』シリーズがスマッシュヒットを飛ばしたのを受け、マーベルはこの種のキワモノなシリーズをさらに送り出すこととする。そうして、2008年秋に送り出されたのが、サル系の擬人化動物の住む世界を舞台にしたリミテッド・シリーズ、『マーベル・エイプス』全4号(11-12/2008、隔週刊)である。

 こちらはその単行本。『マーベル・エイプス』全4号と、シリーズ終了号に刊行された特別号#0、それと本作の主役ギボン(マーティー・ブランク、猿に似た風体のミュータント)の初登場話である『アメイジング・スパイダーマン』#110-111(4-5/1972)を再録。

 ベテランライターのカール・ケセルを迎えて、送り出されたこの『マーベル・エイプス』だが、あんまり思ってたほどはヒットしなかったらしく(偶発的なヒット作の2匹目のドジョウを狙って作られた作品の必然の末路)、とりあえず、2009年初頭から第2弾となるワンショット群を刊行し、そこで『マーベル・ゾンビーズ』とクロスオーバーをすることで、まあ、最後の花火を打ち上げつつ、早々に風呂敷を畳むこととなった。

 そうして、『マーベル・エイプス:スピードボール・スペシャル』#1(5/2009)、『マーベル・エイプス:アメイジング・スパイダーモンキー』#1(6/2009)、『マーベル・エイプス:グラントライン・スぺシャル』#1(7/2009)と、毎月1号ずつ刊行されていった特別号の作中で、『マーベル・エイプス』の舞台である平行世界に、『マーベル・ゾンビーズ』世界のゾンビたち(時系列的には『デッド・デイズ』の直後)が徐々に侵攻していく様子が描かれていき、ついにリミテッド・シリーズ『マーベル・エイプス:プライム・エイト・スペシャル』#1-3(9-11/2009、デジタル版で全3号が配信された後、それらをまとめた紙のコミックブック『マーベル・エイプス:プライム・エイト・スペシャル』#1が刊行)で、ゾンビ・ジャイアントマン&ゾンビ・ワスプに導かれたゾンビ・ヒーローらが『マーベル・エイプス』の世界に乗り込んでくる。
 これに対し、『マーベル・エイプス』世界のエリートである、アイアンマンドリルやチャールズ・エグゼイピア、シルバーバックサーファーらが「プライム・エイト」なるチームを組み、立ち向かっていく。最終的に、プライム・エイトの合力によりゾンビたちは元の世界に戻されるが、実はプライム・エイトのメンバーの一人がゾンビと化しており、火種は消えていなかった(ゾンビもののオチとしてありうべき奴)……という具合に、物語はいったん完結する。

 で、1月間をおいて、2009年末に刊行されたワンショット『マーベル・ゾンビーズ:エビル・エボリューション』#1(1/2010)で、『マーベル・エイプス』vs.『マーベル・ゾンビーズ』の物語は完結する(こちらもライターはカール・ケセル)。

 ──プライム・エイトのメンバーの一人の裏切りにより、次元の門が再び開かれ、『マーベル・エイプス』世界に大量のゾンビが流入してくる。一方、オリジナルの『マーベル・エイプス』の物語で主役を務めていたギボン、エイプX、ゴリラガールら、アース-616出身の「ゴリラ系ヒーロー」ら一行は、よりにもよってこのタイミングで『マーベル・エイプス』世界に再び顕現してしまう……。

 と、言った具合な状況設定で、ギボン、エイプXらが事態の収拾を試み、最終的に時空間のアレで、『マーベル・エイプス』世界と『マーベル・ゾンビーズ』世界の遭遇は、うまいことアレされるのだった(連綿と続いている『マーベル・ゾンビーズ』側の世界観をイジることを良しとせず、アレな具合にオチを付けたカール・ケセルの賢明さに敬礼)。


 上は『マーベル・エイプス:スピードボール・スペシャル』~『プライム・エイト・スペシャル』までのストーリーラインを取りまとめた単行本『マーベル・エイプス:ジ・エボリューション・スターツ・ヒア!』。しかしなぜかこの単行本には、肝心の最終章『マーベル・ゾンビーズ:エビル・エボリューション』が収録されてない。


 幸い、Kindleには、『エビル・エボリューション』が単話発売されているので、こちらのみ単独で買うのも良いかもしれない。


 で、この『マーベル・エイプス』の展開と平行して、2009年秋から新たな『ゾンビーズ』のシリーズ、『マーベル・ゾンビーズ・リターン』全5号が始動する(11/2009、週刊)。

 ……ナンバリングタイトルではなく、あえて「リターン」とつけるあたりに、手詰まりしかけた人気ホラーシリーズ感がある。ちなみに、当時の読者もそろそろ本シリーズに飽きてきていて、本作のレビューには「一発ネタをここまで長く引っ張ってきたことを評価したい」的な感想も散見された。

 そして本作は、『3』、『4』の物語の続きではなく、『マーベル・ゾンビーズ2』の直接の続編となっており、『2』のラストで異次元に放逐されたアース-2149のゾンビ・ヒーローズのその後を描く物語となっていた(なお面倒くさいので、一部のゾンビ・ヒーローが持っていたギャラクタスのコズミック・パワーは“次元転移の影響で”消失した<B級ホラーの設定なんて、こんなモンでよろしい)。

 ……なんでも、編集部内で「次の『ゾンビーズ』をどうするか」について話し合ってたところに、たまたま通りかかった営業の偉い人から「最近のシリーズには、初期の人気ゾンビが登場しないので、彼らを再登場させてよ」との要望があったため、ゾンビ・スパイダーマンやゾンビ・ウルヴァリンといったキャラクターを帰還(リターン)させる流れになったらしい。

 で、本シリーズは、『4』に引き続き、フレッド・ヴァン・レントがライターとして起用されたのだが、当時の彼はそこそこ忙しかったため、全5号のうち1、5号の脚本のみを担当し、間の2-4号は各号別のゲスト・ライターによる読み切りを挟むという構成の話となった。

 ──平行世界「アース-Z」に顕現したゾンビ・スパイダーマンは、自らの行いを悔い、ゾンビの食欲を抑えるワクチンを開発して仲間たちの治療を試みる。他方、同様にアース-Zに顕現したゾンビ・ジャイアントマンは、この世界のウォッチャー(宇宙の運命に関わる事象の観察・記録を目的とする種族の一人)が持っていた次元間転送機を用いて、他の世界への侵出を目論む。かくてこの2人の思惑に、アース-Zのヒーローらが巻き込まれ、世界はゾンビの食欲に飲み込まれていく。

 最終的に、ゾンビ・スパイダーマンはゾンビ・ジャイアントマンの凶行を止めることに成功する一方で、とあるアース-Zのヒーローが時間と空間を跳躍し、『マーベル・ゾンビーズ』の物語は円環を成す(シリーズ末期のオチが第1作に繋がる、というのもシリーズものではよくある話だ)。


 こちらが『マーベル・ゾンビーズ・リターン』の単行本。全5話を収録。

 ……なお当時、『マーベル・ゾンビーズ』シリーズを追っていた筆者は、この『マーベル・ゾンビーズ・リターン』をもって「割といい具合に大団円を迎えた」と思い、以降の作品は熱心に追わなくなった。ので、以降の作品の説明は割と雑になるがご容赦いただきたい。


 さて、『リターン』で良い具合にオチが付いたはずの『ゾンビーズ』だったが、だいたい半年後の翌2010年夏に、新たなリミテッド・シリーズ『マーベル・ゾンビーズ5』全5号(6-10/2010)が刊行された。本作は再びナンバリングタイトルに戻り、話的には『4』の続きとなっている。ライターはやはりフレッド・ヴァン・レント。

 物語は、平行世界間を襲った「ブレーンストーム(次元嵐)」の影響で、方々の平行世界に局地的にゾンビ・ウィルスが撒かれた、という状況下で、おなじみマシンマンと、相棒H(割と出オチなので正体は伏す)、それに#1で初登場したガンマンのクイック・ドローの3人が、平行世界(時代設定は中世、西部開拓時代、コミック『キルレイヴン』や、『アイアンマン2020』をベースにした近未来と多様)を旅し、ゾンビの被害をだいたい抑えつつ、とある目的のためにゾンビたちのサンプルを集めてく……という具合。

 1話で1つの世界のゾンビ渦をサッと解決するシンプルな話で、従来の様な「ゾンビを何とかしないと、我々の世界が大変なことに!」という切迫感は薄れ、軽いノリで話は進む。最終的に主人公らは目的を達成でき、ゾンビもののお約束にツッコミを入れる会話をしつつ、元の世界に帰還していく(シリーズが進むとメタに言及しだすのも、シリーズもののホラーにはありがち)。


 こちらが単行本。全5話を収録。……あ、表紙に相棒Hが描かれてるわ。


 次、2011年春に開始されたリミテッド・シリーズ『マーベル・ゾンビーズ・スプリーム』全5話(5, 5-8/2011)。手短に言えば、DCコミックス社のジャスティス・リーグを元ネタとしたヒーローチーム「スコードロン・スプリーム」がゾンビになって暴れ回る話。

 これまでの『マーベル・ゾンビーズ』と物語的な繫がりはなく、ゾンビが登場する話に『マーベル・ゾンビーズ』のタイトルを冠してブランドにしてる感じである(適当なジャンル映画に『ゾンビ』だの『アルマゲドン』だのといった邦題を付けて人気作品のイメージに寄せる感じのアレだ)。

 アース-616の先進の科学を研究する機関プロジェクト・ペガサスで、とある科学者がヒーローチーム、スコードロン・スプリームの残した遺伝子サンプルを元に実験を行っていたところ、実験が致命的に失敗し、ゾンビ化したスコードロン・スプリームのクローンが誕生する。
 これに対してペガサスのセキュリティチーム、「ガーズマン・アルファ・スクワッド」(本作で初登場、ごく普通の特殊部隊)とヒーローのバトルスター(この人も、キャプテン・アメリカに毛が生えた程度の身体能力)らが対処していく話。なんていうか、これまでの湿度の高いスプラッター・ホラーから、『バイオハザード』系のカラッとしたゾンビものに振った感じの話。

 で、本作の半ばで、『アベンジャーズ・ディスアッセンブルド』で死亡したはずのジャック・オブ・ハーツが復活するというイベントがあり(とある科学者は、ジャックの持つゼロ・エネルギーを利用してゾンビ・スコードロンを生み出していた)、最終的にジャックのエネルギー操作能力で、ゾンビ渦は終結。ヒーローとしてのアイデンティティを取り戻したジャックとアルファ・スクワッドの女リーダー、ジル・ハーパーがキスをして、物語は幕を閉じる(この終わり方も、『バイオハザード』系の明るいゾンビ映画っぽい)。


 こちら単行本。全5話を収録。


 続いて『マーベル・ゾンビーズ・クリスマス・キャロル』は、やはり2011年夏、『マーベル・ゾンビーズ・スプリーム』に少し遅れて刊行された全5号のリミテッド・シリーズ(8, 8-10, 10/2011)。

 こちらは当時ヒットし、グラフィック・ノベルまで刊行されていたマッシュアップ小説『高慢と偏見とゾンビ』をヒントに、チャールズ・ディケンズの古典『クリスマス・キャロル』にゾンビを混ぜ込んた話。

 ……おそらく、『マーベル・ゾンビーズ』とは全く関係ないところから立ち上がった企画に、営業上の理由で『マーベル・ゾンビーズ』のタイトルを冠した感じ。

※ちなみに本作のクレジット上の正式なタイトルは『マーベル・ゾンビーズ・クリスマス・キャロル』なのだが、表紙に記載されているタイトルは『ゾンビーズ・クリスマス・キャロル』で、この辺からも何か複雑な事情が伝わってくる。

 ──クリスマス・イブの夜、守銭奴の富豪スクルージの枕元に、クリスマスの精霊(のゾンビ)が現われる。彼らは、スクルージの利己的で強欲な行いのために、今やロンドンの街にゾンビが溢れかえっていることを告げ、ゾンビにまつわる過去・現在・未来の出来事をスクルージに見せていく……という話。

 個人的には、ゾンビ・マッシュアップものとしてはそこそこ上出来な内容で、『マーベル・ゾンビーズ』とは関係なしに、マッシュアップ物の好きな方に読んで欲しいと思う。


 こちらがその単行本。全5話を収録。前述の通り、表紙は『ゾンビーズ・クリスマス・キャロル』となっている。

 紹介しといてなんだが、個人的にはこれは『マーベル・ゾンビーズ』シリーズにはカウントしたくない(後述する単行本『マーベル・ゾンビーズ:ザ・コンプリート・コレクション』にも本作は収録されていないし)。


 続いては、2012年に刊行されたリミテッド・シリーズ『マーベル・ゾンビーズ・デストロイ!』全5号(7-9/2012、隔週刊)。ライターは『マーベル・ゾンビーズ・スプリーム』を手掛けたフランク・マラフィーノが担当。

 アース-616の古参シールド隊員、ダムダム・デュガンが、アーマーの要請を受け、特務部隊「ダッキー・ダズン」に参加。ゾンビによる不死の軍団を擁するナチスドイツが世界を征服した平行世界アース-12591に赴く。部隊はゾンビと化したアメリカのヒーローや、北欧神話の神々のゾンビ(ナチスと北欧神話は縁深いので)、マーベルの定番ナチス・キャラクターのゾンビ等々と遭遇した末に、ナチスの次元間移動のソースを発見→最終決戦→爆発オチ→様式美の「THE END?」で終幕(雑なまとめ)。

 なお、ダッキー・ダズンには、『マーベル・ゾンビーズ・スプリーム』に登場したバトルスターも参加しているため、本作は『マーベル・ゾンビーズ5』から続くアーマー関連の話であると同時に、『マーベル・ゾンビーズ・スプリーム』とも接点を持つ話となっている(結果、『マーベル・ゾンビーズ・スプリーム』は、後述の『ザ・コンプリート・コレクション』に収録され、『マーベル・ゾンビーズ』シリーズにカウントされることとなる)。

 こちらが単行本。全5話を収録。


 次、『マーベル・ゾンビーズ・ハロウィーン』#1(12/2012)。2012年10月に刊行されたワンショットで、ライターはお久しぶりのフレッド・ヴァン・レント。

 舞台はゾンビ渦後のアース-2149と思しき世界(作中で明言されていないが、『ザ・コンプリート・コレクション』に本作が収録されたところを見るに、アース-2149の話と見てよろしい)。荒野の一軒家に立てこもり、ゾンビと戦い続ける母親と、その息子のピーター、そして黒猫のブラッキーが、ハロウィーンの夜に遭遇したゾンビと怪異の物語。

 母子が遭遇した(マーベル・ユニバースならではの)怪異の正体と、“彼”によって明かされる母親の素性……と言う、小品ながら「なるほど」と思わせる構成の妙が好き(個人的感想)。

 こちらは単話版の電子書籍。


 でー、その後2015年のマーベル・コミックス社の社を挙げての大型イベント『シークレット・ウォーズ』の第1号で、アース-616やアース-2149を含む、全ての多元宇宙(マルチバース)は消滅した。──んでもって続くストーリーで、全能のパワーを獲得してたドクター・ドゥームによって、ただ一つの宇宙が再生される。

 この、ドゥームによって再生された世界「バトルワールド」は、過去に存在した平行世界の残滓をパッチワークして再生された世界であり、そのパッチワーク世界の中には『マーベル・ゾンビーズ』世界の残滓が盛り込まれた領域も存在していた。

 で、『シークレット・ウォーズ』のタイイン・タイトルとして、それらバトルワールドの辺境を舞台としたリミテッド・シリーズが刊行され、その中には、『マーベル・ゾンビーズ(vol. 2)』#1-4(8-10, 12/2015)と、『エイジ・オブ・ウルトロンvs.マーベル・ゾンビーズ』#1-4(8-11/2015)という、『マーベル・ゾンビーズ』のタイトルを冠した作品もあった。


 こちらが『マーベル・ゾンビーズ』の方の単行本。収録作品は『マーベル・ゾンビーズ(vol. 2)』全4号と、オリジナルの『マーベル・ゾンビーズ』#1を再録。

 バトルワールドの辺境、知性あるゾンビたちが闊歩する「デッドランズ」が舞台で、「シールド(諜報組織ではなく、デッドランズと他の世界との間に築かれた巨大な壁)」の警備を務めるヘル・レンジャーズの指揮官エルザ・ブラッドストーンが主人公。

 任務中に、デッドランズの奥深くに転送されてしまったエルザは、記憶を失った少女と共にシールドを目指しつつ、ブラッドストーン家の縁者を狙う謎のゾンビとの因縁に決着をつける。


 こちらは『エイジ・オブ・ウルトロンvs.マーベル・ゾンビーズ』の単行本。収録作品はシリーズ全4号と、『エイジ・オブ・ウルトロン』#1を再録。

 ──悪の人工知能ロード・ウルトロンによって支配される辺境の地「パーフェクション」は、長らく「デッドランズ」と不毛な対立を続けていた。だが突然に、ウルトロンとゾンビたちは手を組み、機械化されたゾンビ軍団がパーフェクション内に存在する人間たちの避難地、サルベーションへ侵攻を始める……的な話。

 あらすじからも分かるように、両作とも従来の『マーベル・ゾンビーズ』とは全く関係のない話である(ついでに言えば、『シークレット・ウォーズ』以降、かつての『マーベル・ゾンビーズ』シリーズの系譜を継ぐ物語は描かれていない)。


 次は、2018年秋に刊行されたワンショット、『マーベル・ゾンビ―』#1(12/2018)。

 ゾンビ渦によって人類が滅亡の縁に立つとある平行世界で、生き残りの少年が、ゾンビー(サイモン・ガース)との間にささやかな友情を育む短編。従来の『マーベル・ゾンビーズ』とは関係のない世界の話。


 こちらは単話版電子書籍。


 次は2019年に刊行されたワンショット、『マーベル・ゾンビーズ:リザレクション』#1(12/2019)と、その続話である2020年始動の『マーベル・ゾンビーズ:リザレクション(vol. 2)』。

 太陽系の縁でギャラクタスの遺体が発見され、アベンジャーズ、ファンタスティック・フォー、X-MENの合同チームが調査に赴く。巨大な遺体の口内に入り探索を行う一同の前に、知性あるゾンビの群が現われ、ヒーローらは1人また1人とゾンビと化していく……的なスペース・ゾンビ話がワンショット版の内容。

 で、この話は、1年後に刊行されたリミテッド・シリーズ『マーベル・ゾンビーズ:リザレクション(vol. 2)』全4号(11, 11, 12/2020, 1/2021)に続く。

 ──宇宙からのゾンビの襲来によって、地球の文明は崩壊。辛うじて生き延びたスパイダーマン、フランクリン&ヴァレリア・リチャーズ(ミスター・ファンタスティックとインビジブルウーマンの長男長女)、それに猫のチューイらは、ゾンビ渦を止めるために、全ての元凶であるギャラクタスの遺体の元に向かう。しかし、生前の知性・記憶に加え、全ての個体間で意識を共有する「ハイブ・マインド」を持つゾンビたちは、スパイダーマンらの前に的確に立ち塞がり、生前の記憶で彼らを翻弄していく……。

 こう、やはり『マーベル・ゾンビーズ』シリーズとは異なる世界観の話ではあるが、本作に登場するゾンビ風の怪物「リスポーン」の起源がマーベル・ユニバースのとある宇宙種族だったり、ゾンビ渦に対抗するためにマーベル・ユニバースの様々なキャラクター、ガジェット、宇宙種族を習合させるという対抗の仕方が、オリジナルの『マーベル・ゾンビーズ』とは真逆のアプローチながら、「マーベル・ユニバースを舞台としたゾンビもの」としての基本に立ち返ったワンダーを提示しており、これはこれで快作であると思う。

 ただ、物語としては、ネタを出し切ってやり終えた感があるので、かつての『マーベル・ゾンビーズ』の様に続編が書き継がれることはないだろうとも思う。


 こちらの電子書籍版単行本は、ワンショット版『マーベル・ゾンビーズ:リザレクション』と、リミテッド・シリーズ『マーベル・ゾンビーズ:リザレクション(vol. 2)』全4号を収録。


 さてようやくラスト。『マーベル・ゾンビーズ:ブラック、ホワイト&ブラッド』全4号(予定)。

 ウルヴァリン、カーネイジ、エレクトラ、デッドプール、ムーンナイト(あとダース・ベイダー)といった、血の匂いのするヒーローらを主役に、人気作家が書いた短編を収録したアンソロジー・シリーズ『ブラック、ホワイト&ブラッド』シリーズの『マーベル・ゾンビーズ』版。タイトル通り本編のアートは、モノクロ+赤の2色印刷で統一されているのが特徴。

 なおこのシリーズは、日本では小学館集英社プロダクションから、『ウルヴァリン:ブラック、ホワイト&ブラッド』と『カーネイジ:ブラック、ホワイト&ブラッド』の2作が刊行されている。

 こちらの表紙を見れば、本シリーズのコンセプトがだいたい分かるだろう。こんな具合なアートの短編で構成された1冊。


 でー、この『マーベル・ゾンビーズ:ブラック、ホワイト&ブラッド』は、今年の10月発売予定で、内容はまだ不明。本稿を描いている時点では、Amazonで1号のみ予約受付中。


 さて、長々と『マーベル・ゾンビーズ』のタイトルを冠したシリーズを紹介してきたが、これらの作品をそこそこの値段で揃えたい場合は、2019年に刊行された、各巻400ページ越えの単行本、『マーベル・ゾンビーズ:ザ・コンプリート・コレクション』全3巻を購入するのが良いだろう。

 この単行本は、オリジナルの『アルティメット・ファンタスティック・フォー』以来、連綿と紡がれてきた『マーベル・ゾンビーズ』のメインシリーズを取りまとめたもの……なので、『マーベル・ゾンビーズ・クリスマス・キャロル』の様な、『マーベル・ゾンビーズ』のタイトルを冠しつつも、世界観の異なる作品は除外されている(あと『アーミー・オブ・ダークネス』とのクロスオーバーも、さすがに未収録)。

 まずは『ザ・コンプリート・コレクション』第1巻。収録作品は、『アルティメット・ファンタスティック・フォー』#21-23、#30-32、『マーベル・ゾンビーズ』#1-5、『マーベル・ゾンビーズ:デッド・デイズ』#1、『ブラックパンサー(vol. 4)』#28-30といった初期の作品群と、カークマンのインタビューも掲載されてる情報誌『マーベル・スポットライト:マーベル・ゾンビーズ/ミスティック・アルカナ』#1。


 続いて『ザ・コンプリート・コレクション』第2巻。収録作品は『マーベル・ゾンビーズ2』#1-5、『マーベル・ゾンビーズ3』#1-4、『マーベル・ゾンビーズ4』#1-4、『マーベル・ゾンビーズ・リターン』#1-5、それに『マーベル・スポットライト:マーベル・ゾンビーズ・リターン』に掲載された記事の抜粋。.


 最終第3巻。収録作品は『マーベル・エイプス:プライム・エイト』、『マーベル・ゾンビーズ:エビル・エボリューション』#1、『マーベル・ゾンビーズ5』#1-5、『マーベル・ゾンビーズ・スプリーム』#1-5、『マーベル・ゾンビーズ・デストロイ!』#1-5、それに『マーベル・ゾンビーズ:ハロウィーン』#1。

 以上。

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