駆け出し百人一首(37)皆人は花の衣になりぬなり苔の袂よ乾きだにせよ(僧正遍昭)

皆人(みなひと)は花(はな)の衣(ころも)になりぬなり苔(こけ)の袂(ころも)よ乾(かは)きだにせよ

訳:皆は華やかな晴れ着になったそうだ。私は粗末な僧衣のまま変わらないけれど、せめて袖が乾くだけでもしてくれよ。無理だろうけれど。

Now everyone wears bright clothes as if he forgot the late Emperor. I became a priest, so I won't change clothes, keeping wearing sober priest's garb. However, I wish my sleeves dried.


六歌仙の一人でもある僧正遍昭は、出家前の名前を良岑宗貞(よしみねのむねさだ)といいます。プレイボーイとして鳴らしたようですが、親しく仕えていた仁明天皇の死(数え四十一歳の若さでなくなりました)を経験し、出家の道を選びます。
世間は新年になって、天皇の喪に服する意味での地味な色合いの服を脱ぎました。新春の晴れ着で華やいだ雰囲気になっています。そんな世間に対し、「もうみんな先帝のことを忘れちゃったのかい? 僕はまだまだ悲しみに暮れているよ」と詠んだ歌。
悲しみの涙で濡れた袖が乾くように願っていますが、さぁどうなるでしょうか。「苔の衣」(僧衣のことを言う)だけに、苔がしっとり湿るように、いつまでも濡れているのかもしれません……。


文法事項

なりぬなり:詞書「聞きて詠める」から判断し、「なり」を伝聞とする。ラ四「なる」連用形、完了「ぬ」終止形+伝聞「なり」。
乾きだにせよ:副助詞「だに」は命令形や願望とセットのとき「せめて〜だけでも」の意味になる。今回もサ変「す」の命令形「せよ」がある。せめて乾くだけでもしてくれ。


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