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半身

他の好きには順位がつけられる。犬より猫が好き。秋より春が好き。ナポリタンよりミートソースが好き。

一方、この恋心と思しき感情は特定の一人にだけ向けられていて比較対象がない。別の女性と比べてどのくらい好きだと相対化することができない。ナポリタンしか知らない状態なのかもしれないが、だとしたら確率的にミートソースを知るのは今からさらに50年後になる。

テレビを観て笑っていても、コンビニで買ったパンが美味しくても、それでは足りないと感じるようになった。同じものを見たり食べたりしたときに彼女ならどう思うのだろうかと考えてしまう。意見が揃わなくてもいい。共感を得たいのではない。体験を分かち合いたい。

同様に彼女の身の回りで何が起きて、何を感じているのかが知りたい。Webラジオはこの願いを部分的に叶えてくれたが、すでに番組は終了している。そもそも僕が彼女の名前を知ったときにはもう声優業を引退された後だった。

普通に考えれば女性が仕事を辞める理由なんてひとつしかない。同じ道を共に歩むパートナーを見つけて幸せに暮らしているのだろう。

祝福したいが、ちょっと誤魔化しようがないほど嫉妬している。脳の後ろのほうがチリチリと熱い。その場所にいるのは僕でありたかった。