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どうせ無理だとわかっていても

ステンレスプレートのIH対応土鍋ではうまくご飯が炊けない。考えればわかることだった。考えが足りなかったのは事実だが、では十分に考えていたら購入を思い止まったかというと、そんなこともなかったと思う。

ダメ元でも試してみたくなる心理がある。禁止されるとやりたくなるカリギュラ効果とは違う。失敗を見越して損失を覚悟した上で、それでも実行しないと気が済まない。

以前、歩道を歩いていたら買い物帰りの親子が向こうから歩いてくるのが見えた。お母さんは両手が塞がっていて、男の子がその周りを不規則に蛇行している。

彼は隙間を通るミッションを遂行中のようだった。道案内の看板の裏を生け垣に触れないように通過して、車道側のフェンスと街灯の支柱の間を華麗に潜り抜けた。

次に電柱へ向かっていったが、ブロック塀との隙間は10cmほどしかない。さすがにそこは無理だぞ、少年よ。

しかし、彼は躊躇うことなくチャレンジした。顔から行った。かわいいシャイニングが見られた。

僕はあの少年に共感を覚える。大人になればなるほど分別がついて多くの失敗を未然に防げるようになる。それによって無駄なコストを費やさなくて済む代わりに、失敗することで得られたはずの小さな何かが指の間をすり抜けていくのだ。