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有機農業への転換時期を見極める、指標とは?

収量・品質を落とさずに慣行農業から有機農業に転換するために必要なことは?
作物の栽培に化学肥料や農薬が欠かせないと考えている農家に、有機農業の本質(しくみ)を理解していただき、農地の生物密度を高めたうえで、有機農業への転換を図ることが必要です。


化学肥料や農薬を使用しないから必要としない生産システムへ

2006年に施行された「有機農業の推進に関する法律」において、有機農業とは「化学的に合成された肥料および農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業」(第2条)と定義されています。
しかし、「化学肥料や農薬を使用しない」という行為より、「化学肥料や農薬を必要としない」生産システムを創り上げることに、有機農業の本質があります。

農地の生物群集が安定するには、時間が必要

有機農産物の収量、品質が安定する農地になるには、有機農業への転換後、少なくとも2~3年は必要と言われています。
農地の生物群集が安定するには、それ相応の時間(歴史性)が必要なのです。

転換前に多種多様な生きものが棲息できる管理から始める

安定した収量が得られるまでの時間を短縮するには、転換前に農地の生物群集の多様化を図ることです。
栽培規模や地域の栽培条件や経営形態によって、すぐにできること、できにくいことがあります。まずは、農薬を減らし、農地に有機物を還元することから始めましょう。

生物生産力の大きいところには、多種多様な生きものが棲息しています。
多様な捕食者(天敵)がいる農地になるには、その生物の餌や棲みかが欠かせません。ミミズやササラダニ、トビムシなどの農地に年中棲息している土壌動物の密度が高まると、作物を栽培していない時期でも、クモなどの広食性(多種類のものを対象に食べる性質をもつ)天敵の餌となり、農地に天敵が常駐できるようになります。したがって、作物を栽培後、作物を餌とする植食者(害虫)が来ても、害虫の棲息数を抑制することが可能となるのです。

農地に多種多様な生きものを増やすには

農地の近くの野山から、落ち葉、枯れ草、腐葉土を農地に搬入することで、そこに棲息している土壌生物(動物や微生物)を農地に移入することができます。
転換前に農地の有機物(腐植)を増やし、餌や棲みかを確保したうえで、これら地域の環境に適応した土壌生物を移入することで、多種多様な生物を農地への定着を速めることが可能です。
生態学的な視点で、農地に棲息する多様な生きものに配慮した栽培管理をすることが、結果として持続可能な栽培、安定した有機農業への近道になります。

有機農業への転換を支援する体制の整備を

有機農業への転換とは、農地に生息する生きものを貧弱な状態に留めてきた栽培から、農薬・化学肥料をやめ、そこに多様な生きものの棲息を保証する栽培への移行です。
作物が栽培可能な生態系に落ち着くまでには、それ相応の時間が必要です。この期間が有機農業への転換期間です。

事前に準備をして転換すれば、そのリスクはある程度軽減できます。しかし、この時期は肥料の種類を化学肥料から有機肥料に変えただけではなく、農地生態系そのものの転換期なのです。一定のリスクは覚悟し、行政担当者、消費者ともに、リスクを実施者のみに負担させることのないシステム(支援体制)も必要です。

※栽培管理によって農地に棲息する動物の種類や生息数の変化については、「慣行農業から有機農業への転換はどのようにすべきか?」を参照してください。

参考資料

西村和雄(2013)「有機農業とは」『有機農業を仕事に!!』全国新規就農相談センター:4-6.
藤田正雄(2010)「健康な土をつくる―有機農業における土と肥料の考え方」『有機農業の技術と考え方』(中島紀一・金子美登・西村和雄編著)コモンズ:140-162.

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