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「東京B-LINE構想」東京の舟運が動き出したが!?(1)〜その課題と可能性

東京の水辺/水路に秘められたポテンシャルは半端ない。そんな東京のウォーターフロントがネットワーク化され、その水辺の魅力が最大化された東京を「東京B-LINE構想」として提唱してきました。今、あらゆるところで水辺が再注目され始め、通勤船の実験も始まるなど、東京も動き出している感じはあります。しかし、その進め方に対して大きな課題も感じています。そのあたりの課題と可能性について複数回に分けて書いてみたいと思います。


社会実験、その先の都市ビジョンを明示することの大事さ

10月25日、東京で「らくらく舟旅通勤」という名のもとに日本橋と豊洲を繋ぐ舟運が開始されました。新しい交通手段として舟運を定着させようと東京都が補助金を出して舟運の運営会社を公募し決まった航路の一つで、観光汽船興業株式会社さんと三井不動産株式会社さんが共同で運営しています。週3日間の午後4時から1時間に一本程度運行されて、乗船料金は500円、日本橋から豊洲まで約20分程度で行けるそうです。これまで舟に乗ったことがない方々も乗られていて、初めて川から見る街の姿に感動したり、快適な移動手段として好評を得ているようです。東京の水路の魅力を一人でも多くの人々に感じて頂くには素晴らしい機会かと思います。

舟旅通勤で使われている東京観光汽船の船「アーバンランチ」

ビジョンなしに小規模な部分解の組み合わせても、必要な建設的な議論はなされない

人々が東京の都市河川の存在を再認識し、利用者が多少増えるということはいい動きだとは思いますが、大きな疑問はこの社会実験の先にどういった舟運ネットワークの世界があるのかが共有されていないということです。

通勤船というネーミングから恐らく観光船ではなく、通勤に使う船という意図は感じられます。ただ、それが単に豊洲から日本橋間だけを最大でも1時間に42人しか運べないとしたら、とても通勤の手段として人々が舟運を選択肢の一つとして持つライフスタイルを想像はできないと思います。

今年の春からは第二弾として野村不動産さんと東京湾クルージングさんが晴海5丁目と日の出桟橋を繋ぐ通勤船の営業をスタートしますが、それも点とてんを結ぶだけで、都市の交通体系を変えるような大きな動きにはならなそうな気がしています。

つまり、とにかくやってみる、という姿勢はいいのですが、その先の世界観を共有せずに部分的な実証実験を繰り返す、もしくは短期間的な実験だけでは、特に何も変わらないのではないでしょうか?

もし本気で舟運を東京の新しい公共交通の一つとしてサービスすることを考えれば、一番のネックの一つは船着場のオープンソース化です。東京には数多くの船着場が既にあり、そこをネットワーク化すれば公共交通としてのサービスになり得る土壌はあります。ただ、様々な利権や認識の差によってそのネットワーク化が一筋縄ではいきません。

そこで、船着場をオープンソース化してネットワーク化した時の世界がどのようなものであって、それが結果的にそれぞれの舟運会社のマーケットを拡大し、win-winの状況を創ることが可能になる、という世界観を共有することができれば、建設的な議論が始まるかと思います。実際に実現方法は色々あると思いますので、その手段は細かく議論すればいいと思いますが、その先の目標を共有できていなければ、一つ一つの細かい手段の部分だけの議論になってしまい、先に進まなくなっているのではないでしょうか?

その目標とするマスタープランを共有した上で、その仮説が正しいことを確認するために、この社会実験を行い、こういうデータを取得します。その上で、こういうデータが取れれば続行し、次のフェーズに進み、仮説が証明できなければ軌道修正します、といった将来と現在地の関係性を明確に示すことによって、初めて意義のある社会実験ができると思います。

新しい公共交通システムとして舟運を導入するメリット

新しい公共交通システムとして、東京に舟運を導入することのメリットは大きく分けて3つあると考えます。「公共交通の増強」、「災害への耐久性」、「未活用地の活性化」

「公共交通の増強」

年々深刻化していく地球温暖化問題。どの分野を語る上でもSDGs、ESGを抜きに語ることはできなくなっています。それは都市交通も同様で、単身で自動車で移動することはエネルギー効率、空間活用効率いずれにおいても無駄が多く、排気ガスも大量に放出しています。そこで公共交通を増強することによって都市全体の効率化をしようという動きがより大きくなっています。
その流れでウォーカブルという考え方が多く語られるようになってきていますが、その話はまた別の投稿で話したいと思います。

東京は世界屈指の公共交通を持っており、地下鉄や路線バスは都市のあらゆるところに張り巡らされています。しかし実は隅田川や東京湾の水辺周り、臨海部を見ると陸の公共交通ではアクセスが悪いところが多くあることがわかります。例えばお台場。ゆりかもめは走ってはいるものの、その移動を考えるだけで心が萎えかけます。

ただ、こういった場所に共通してあるのが水路。その既存のインフラを活用して船を走らせ、ネットワーク化することによって新しい公共交通システムを導入し、これらの場所の付加価値を高めることが可能になるかと思います。ここで大事なのは「ネットワーク化」であり、地下鉄や路線バスのように、点と点の連絡だけでなく、面として考える必要があるということです。

ニューヨークにおいて公共交通として導入された舟運システム

「災害への耐久性」

台風、地震、高潮、様々な災害が懸念される中、災害に強い都市を創ることは東京にとっても急務です。その要素の一つとして交通ネットワークの柔軟性が挙げられます。例えば何かしらの災害の影響で地下鉄が使えなくなってしまったとしましょう。そうすると公共交通はバスだけになってしまい、それだけでは人々の移動を捌くことは難しくなってしまいます。そこで、もう一つ公共交通として舟運ネットワークがあれば選択肢が増え、都市としての耐力が強くなります。こういった移動手段ネットワークの選択肢は少しでも多い方が、人々の移動という面だけでなく、物資の移動という面でも強力です。

「未活用地の活性化」

東京の臨海部や川沿いには多くの眠った経済があると思います。これまでは倉庫や工場地帯であった場所が時代の変化と共にその機能の必要性を見直される中で、公共交通の利便性が悪いという理由で開発機運が高まらずに眠らされている場所が多くあります。そいういった場所も含めて舟運ネットワークに取り込むことによって、新しい経済を呼び起こし街が活性化していくきっかけになると思います。

その流れが巻き起こったのがまさにここ10年のニューヨークであり、イーストリバーを中心に舟運ネットワークが確立されたことによって、それまで中々開発が進まなかった場所が一気に開発され、大きな経済効果を産んだだけでなく、人々の新しいコミュニティーができたり、スタートアップの拠点が生まれ、ニューヨークのイノベーション産業を盛り上げていたりします。
同様なことは東京にも十分に期待することができ、その経済効果は計り知れないと思います。

舟運ネットワークの活性化に合わせてそれまでの工場地帯が激変するニューヨークの水辺

次回は東京で考えられる潜在能力とネットワークについて書きたいと思います。

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