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ヴィオニエな女

ヴィオニエほど、花の香りでいっぱいの品種を私は知らない。

ヴィオニエは白ワインの品種。リースリングが果実の酸味と果実の甘さを追求し、ソーヴィニヨン・ブランが草原を馬に乗って走り抜けた時に感じる、風の匂いを持つのに対して、圧倒的に「花」を持つ品種。世界中の比較的温暖な地域で育てられ、ユリ、フリージア、ジャスミンなど様々な花の香りを振りまく。それは熟成した女性の香水ではなく、お風呂上がりの若い女の子のシャンプーの香りのように、どこか清らかだ。

そう。ヴィオニエは、俗な言い方をすれば「恋する乙女」なんだ。

自分の内に咲く色とりどりの花達の様子を、誰かに伝えたい。自分の花達を愛でてほしい。そしてあなたのお花も知りたいし、愛でたい。

誰よりも、人を好きになったり、好かれることに一所懸命な女、いや品種と言える。

もちろん、「花」の要素は、すべての品種に現れる特徴であるし、ウイスキーにだってたくさん現れる特徴だ。ただ、圧倒的にたくさんの「花」を抱えるのが、ヴィオニエ。

当然、自分の花々の存在を見つけ、毎日水をやり、肥料を与え、台風がくる時は身を呈して守ってくれる人を、愛する。そして、自分も相手をできうる限り愛そうとする。その状態が、彼女にとって一番安定していて、内なる花は百花繚乱となり、美しい花々の香りで満ちる。

ただ、それは相手の言動に依拠するとも言える。なんらかの理由で、水さえも与えられなかったら、途端に花々は正気を失い、一気に枯れ始める。

少女はグレーの世界へ一変した庭園で、シクシクと涙を流す。

「どうして、こんなひどいことができるのだろう。愛し、愛されることがなぜできないのだろう」。

花の香りは、悲しみを含んだ匂いへと変わってしまう。

私は彼女に一杯の水を差し出して、泣き止むまで側にいてあげよう。

そして、重要なことを伝えてあげなければならない。

落ち着いて、花を見てごらん。こんなにたくさんの花は誰も持ってないの。もちろん、誰かに手入れをしてもらうことは、大切なこと。だけど、その記憶をもとに、あなた自身が自分の花を愛し、手入れをすることはできるのよ。花々は神が作った、美しい創作物。きちんと愛することができれば、必ず咲くの。

その事に気がついたヴィオニエは、驚くほどの生命力を見せると信じて。

大好きな人との美しい記憶は、私はドライフラワーにして保存する方法しかない。けど、ヴィオニエは、ドライフラワーにする事なく、永遠に咲き続ける花を持つことができるのだ。熟成した後の何十年先でも。

そう、自分をしっかり愛でながら、同時に誰かを愛することができたら、例えその時に、自分を愛してくれる人がいなくとも、永遠に咲き続ける庭園を持つことができる。

それが、ヴィオニエ。


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