見出し画像

ウクライナ難民受け入れ推進策の終わり(ドイツ)


【画像① ドイツに到着して支援組織から軽食のパン類を受け取るウクライナ避難民の人々。日本ではウクライナ難民受け入れはせいぜい2000人程度だが、ドイツは陸続きということもあり、100万人前後の受入数まで膨らんでいる】




◆ヨーロッパ諸国で湧き上がる「難民受け入れはもうゴメン」の声

これはウクライナ紛争がロシア=ウクライナ間の本格的な戦争に発展する以前から、ヨーロッパでは表面化していたが、EU各国がアフリカ他の紛争地域から受け入れた難民が社会混乱、治安悪化を招き国民多数の不満を掻き立て、これ以上の難民受け入れを抑制する動きに向かっている。特に先行的に難民を受け入れたドイツでは、受け入れを抑制するどころか、”難民追い出しを始めている。

しかし、実態的には「人道的観点」から受け入れた難民を、受け入れ地で問題を起こしたとしても”追い返す”のは制度上も困難を伴うようで、それはそれで矛盾を来していることが最近のドイツ報道で分かる。今頃になって、不法滞在者を”難民”として受け入れることに積極的になろうとしている日本は、状況に対して明らかに一回り以上遅れていることをドイツなどからの情報から知るべきだろう。

ドイツで今、まず問題になっているのは、「非行行為」(女性に対する暴行や強盗のような凶悪犯罪から、軽犯罪の常習犯のようなものまで)をした難民の強制送還だ。国民の批判から、当局も厳正な措置をめざしているが、「人道上の観点」を盾に難民支援するグループが抵抗を組織したり、これらに影響を受けた労組(航空労組ほか)や警察当局(ドイツでは警察官も労働組合に加入していることを考慮すべき)が措置を拒否することもあり、なかなかうまく行かないようだ。

以下に現状に関するドイツ現地報道を示してみよう。


<ことし前半、難民の強制送還数は大幅増加も、「国外追放」措置の3分の2は失敗>

「今年上半期、ドイツから強制送還された人の数は大幅に増加した。しかし、連邦内務省によると、国外追放の3件に2件は実際には失敗に終わっている。ドイツからの強制送還数は今年上半期に4分の1以上増加した。2023年1月から6月までに7,861人が強制送還され、前年同期比でほぼ27%増加した。…そのほとんどの出身国がジョージア、北マケドニア、アルバニア、モルドバ、セルビアである。報告書によると、6月30日現在、これらの国からの出国を余儀なくされた279,098人がドイツに滞在している。このうち、224,768人が滞在許可証を持っていた。このため、国外追放義務者(※不法滞在者)の数は久しぶりに減少した」


<強制送還手続きのうち3回に2回は失敗>

「しかしながら実際には、難民としての滞在に相応しくないとして強制送還手続きに入った対象者の3件に2件は強制送還出来ずに手続きが失敗している。連邦内務省によれば、今年上半期だけで520件もの航空機による強制送還の試みが、本人の抵抗、パイロットや航空会社の拒否、連邦警察の拒否などにより、直前に中止された。ドイツ社会民主党(SPD)、緑の党、ドイツ自由民主党(FDP)の連立政権は、より一貫した強制送還を実施するため、連立協定の中ですでに送還推進計画を発表していた。ナンシー・フェーザー連邦内相は、強制送還規則の厳格化を望んでいる」


<多くの人が自主的にドイツを去るように…>

「一方で、難民の中では自主的にドイツを離れる人の数も増加した。連邦政府からの資金援助で4,892人が再出国し、州と自治体からの資金援助で2,309人が出国した。また、データによると、今年最初の半年間に、許可なく入国を図った2,186人が国境から直接所属国へ送り返された」

<「人道的攻勢」を呼びかける左派>

「左翼党の難民政策担当スポークスマン、クララ・ビュンガー氏は、難民の強制送還数増加を批判した。『戦争や極度の貧困に脅かされ、見通しの立たない場所に強制的に戻される。それは無責任だ』~そして、強制送還の代わりに、彼女は連邦政府に『人道と人間性のための作戦』要求した。
ここ数年、国外追放はー主にコロナパンデミックのためー2019年以前よりも大幅に減少していたものの、2022年全体では、12,945人がドイツから強制送還された」

(参考)「進まぬ拒否された難民申請者の送還措置」2023/8/19 Tagesschau(ドイツ語報道)
https://www.tagesschau.de/inland/innenpolitik/abschiebungen-154.html

シリア内戦などで長期にわたる「人道尊重」の旗印での難民受け入れ促進策は、治安悪化や社会福祉全体の水準の後退(地方自治政府の予算負担増のしわ寄せ)で多くのドイツ国民を疲弊させてきた。強制送還や「自発的な帰国」促進は、そうした国民動向を踏まえてのものだが、やはり一度踏み切った政策の転換は人の命に関わるものでもあることから容易ではなく、”抵抗勢力”もあってうまくいかないことを示しているといえる。

外国人の受け入れを促進するとは、現在の世界情勢を見るなら直結的に「困っている人の受け入れ」、すなわち難民受け入れの拡大に直結することになる。日本では、現在「難民認定」がほとんどされず、人道上の配慮で日本滞在が必要な外国人に対してはほとんどの場合、「特別滞在許可」で対応されている。確かにこれは不安定な立場で日本滞在をすることにはなるが、安易に「難民認定」して我が国での滞在や就労を認めるなら、EU諸国で起きたような混乱を招くことになりかねず、慎重な配慮が必要なのは明らかだ。

その点で、外国人居住者受け入れに前のめりな岸田政権の姿勢には、大きな不安を覚える


【画像② ウクライナの応召兵と志願兵たち。ウクライナでは現在、総動員令が発令中で16~70歳の男性は出国禁止で徴兵当局から召集されたら軍事務所に出頭して訓練を受け軍部隊への配属を受け入れなくてはならない。兵員不足は深刻で、50代以上はおろか60代の兵士も前線に送られている他、軽度の身体・精神障がい者や女性志願兵も戦闘部隊に参加させられている。この厳しい状況に対する不安が、海外に出たウクライナ避難民の帰国意欲を削いでいる】

ここから先は

3,056字 / 2画像

インテリジェンスウェポン正会員

¥1,500 / 月
このメンバーシップの詳細

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?