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「成果がない」との西側報道の裏でやけに親密そうなエルドアン=プーチン会談の気になる中身


【画像① 昨年4月13日、ウクライナ軍のミサイル攻撃で大きな損害を受け、沈没しかけているロシア黒海艦隊の旗艦・ミサイル巡洋艦「モスクワ」。昨年来のウクライナ戦争で黒海は第二次世界大戦から75年ぶりに戦場の海となった】



◆穀物輸出合意へのロシア復活求めてエルドアン大統領がソチでプーチン大統領と会談

昨年、トルコのエルドアン大統領はウクライナとロシアの間を直接とりもって、国連も引っ張りこんだ黒海を通じての穀物輸出合意をまとめるなど、国際政治の中でも目立った活躍をしてきた。この合意、結局、穀物輸送船の航路からウクライナ、ロシア両国軍の戦闘行為を排除するための措置が徹底できず(どっちにも言い分がある)、結局合意の実行が崩れてしまうのだが、世界の中でも有数の食料輸出国であるウクライナ、ロシアの穀物などをアフリカなど「グレートサウス」諸国が入手できるようにするためのイニシアチブだった。

この度、エルドアン氏がソチを訪問してプーチン氏と会談したのは、表向きこの穀物輸出合意へのロシアの再度の参加と取り組み再開を働きかけるためだが、代替の措置(後述)についても具体化する狙いがあった。ところで、この会談についての日本の代表的な報道は以下の通りだ。


「ロシアのプーチン大統領との会談を終えたトルコのエルドアン大統領は、ロシアとウクライナの『和平の見通しは全くない』と述べました。…エルドアン大統領は、プーチン大統領との会談後、記者団に対してロシアとウクライナの和平の見通しは現時点で全くないと述べました。…そのうえで、トルコは今後も外交努力を続けると強調しました。…エルドアン大統領は4日、ロシア南部のソチでプーチン大統領と会談し、ウクライナ産穀物輸出の合意への復帰などについて議論しましたが、進展はありませんでした」

(参考)「プーチン氏との会談終えたトルコ・エルドアン大統領『和平の見通し全くない』」2023/9/6 2:31 テレ朝news
https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000314566.html?display=full

テレ朝に言わせるなら、わざわざソチにトルコ大統領が出向いてロシアのボスと会談しても、あらゆる面でまったく「成果なし」だったとなるようだ。一方、ロイター通信(日本語版)も次のような報道をしている。


「ロシアのプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領が(9月)4日、ロシアのリゾート地ソチで首脳会談を行った。会談後、エルドアン氏は、黒海を通じたウクライナ産穀物輸出合意は近く再開可能だとの見方を示した。…エルドアン氏は会談後、『トルコとしては、短期間で期待に応える解決策に達すると信じている』と指摘。ロシアの期待は誰もが知るところであり、欠陥は解消されるべきとし、トルコと国連はロシアの懸念を和らげるための新たな提案に取り組んでいるとした。…ウクライナが穀物合意再開に関する交渉でロシアに対する態度を軟化させる必要があり、欧州向けではなくアフリカ向けの穀物輸出を増やすべきだとも述べた」

(参考)「トルコ、穀物輸出再開に楽観的 ロシアは『西側が妨害』 首脳会談」2023/9/5 12:04 REUTERS(日本語版)
https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-grain-idJPKBN30A0ZK

ロイターも西側報道の代表格なんですが、まるでロシアとの合意が何もないのを喜んでいるようなテレ朝とはだいぶニュアンスが違う。「穀物輸出合意が近く再開可能だ」というエルドアン氏の話は、180度違う内容だ(笑)

どうも、同じ西側でもウクライナ紛争絡みの報道は日本と欧米でずいぶん様相が変わってきたようだ。もちろん、ロシアの報道機関だと、また中身が違ってくる。違うというより詳しくなるというか…。

「ロシアはウソのプロパガンダばかり流している」なんて、洗脳されているつもりになって、以下の記事内容を読んでみるとよい。まず、リア・ノーボスチ通信が9月4日に配信した記事。ロシア語報道から翻訳したので、読んで見て欲しい。


【画像② ソチでアイスクリームを食べるトルコ、ロシア両首脳。率直に言ってこの間のプーチン氏とエルドアン氏のやりとりを見ると、「したたか」としか言いようのない臆面のなさを感じる。ウクライナにもいい顔をし、裏切りすれすれの対応をしたNATOでは自国の利益を損なってきたスウェーデンやフィンランドのNATO加盟に「拒否」を表明して粘り、ロシアとも取り引きするなんて日本人なら感覚的についていけないだろうが、国益第一という点ではアメリカ言いなりの岸田文雄首相とは好対照だ】



「ソチでは、ウラジーミル・プーチン大統領とレジェプ・タイイップ・エルドアン大統領が参加したロシア・トルコ拡大会合が実施され、会合は1時間半にわたって行われた。…会合の冒頭、プーチン大統領は、ウクライナ危機に関する諸問題に関し、首脳レベルで話し合うとした。…またロシアとして、穀物合意に関する交渉に向けた準備があるとした。エルドアン大統領は、黒海イニシアティブの継続に関する協議は、アフリカ諸国及び世界全体にとって重要なものとなると指摘。…そのほかプーチン大統領は、ガス・ハブ構想に関しても、ロシアとトルコとの間で交渉が妥結することへの期待を示し、エネルギーの安定化に貢献できるとの考えを示した。エルドアン大統領は、エネルギー分野におけるロシアとの協力が高い水準であることを指摘し、トルコにおけるハブの創設は、大きな意味を持つものだと述べた」

(参考)「プーチン=エルドアン会談 ソチで拡大会合」2023/9/4 リア・ノーボスチ通信(ロシア語報道)
https://ria.ru/20230904/peregovory-1894088153.htm

この内容、けっこう見落とすとヤバいものが含まれているの、お分かりだろうか? まず会談が単なる首脳会談ではなくて、実務者(閣僚クラスを含む)による拡大会合がメインでその上にウクライナ問題に関連する首脳会談が行われたことが記事から読み取れる。

さらに重大なのは「ガス・ハブ構想」。トルコにロシアから天然ガスを引っ張って、恐らく最終的には希望する東欧諸国を含む周辺国にガス供給網を建設する話となるものだ。昨年9月に愚かしくも爆破しちゃった(米ジャーナリストのスクープによると、ノルウェイ海軍と米海軍の特殊部隊がCIAと協力して実行)「ノルドストリーム」の2つのパイプラインに代わって南周りでヨーロッパにロシア産天然ガスを入れる計画で、トルコが仲介貿易で利益を永続的に上げることが出来る。

はっきり言えば、これが「ポスト・ウクライナ戦争」で重要な政治・経済ファクターになるプロジェクトだ。こんな重要情報を報道しないようなら、テレ朝を見たり、系列の朝日新聞なんかを金出して購読する意味なんか無い。



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