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”漁夫の利” イスラエル、「ウクライナ戦争」で高まる脅威感で新ミサイル防衛システムの売り込みに成功~ドイツが購入へ


【画像① 多用途迎撃ミサイル・システム「アロー3」。米・イスラエル共同開発で次世代型ミサイル防衛システム。通常の航空機迎撃はもちろんのこと、上空100kmの大気圏外での弾道ミサイル迎撃も可能で、軽便な移動・展開が地上で出来る従来のイージス・システムをも超える防空システムだ。】


◆イスラエルとドイツが新ミサイル防衛システム「アロー3」導入協定を締結


「ウクライナ戦争」は、世界各国の安全保障のあり方、軍装備体系の見直しへの契機を作り出している。昨年2月24日、ロシア軍は各方向からウクライナ全土にわたる軍事拠点百数十か所以上に同時多発的に戦術弾道ミサイル、巡航ミサイルで攻撃を敢行し、緒戦においてウクライナ軍に大打撃を与えた。

これまで我が国を含む西側諸国で考えられていた「相手側からの第一撃に耐えて、反撃に転ずる」という防衛ロジックでは、侵攻阻止が困難になることをウクライナでの戦いの実態は示した。航空戦力(作戦機と共に発着のための飛行基地)の大部分を瞬時に失ったウクライナ軍は、その後、少なくとも航空機による有効な反撃を侵攻するロシア軍に加えることはほぼ出来ないままで推移した(例外は、戦闘用ドローンによる反撃である)。

ウクライナは旧ソ連以来の汎用地対空ミサイル・システムS-300を持ち、これは緒戦における要地防空で威力を発揮した。しかし、数が限られていたことと、これそのものがロシア軍の攻撃目標となり、しらみ潰しで徐々に破壊されると、火力発電所や送電システムなどエネルギー供給インフラが無防備に攻撃に晒され、ウクライナの国全体としての抵抗力も削がれていくことになった。

NATOがライバル(仮想敵)としているロシア軍が、航空機のみならず大量の各種ミサイルで思うがままに要地や重要施設を同時多発で攻撃する様を目のあたりにしたドイツなどは、背筋が凍る思いがしたものと思われる。開戦後のやや過剰と思われるNATO周辺での反応(スウェーデン、フィンランドの加盟申請など)は、単に現在の事務総長ストルテンベルク氏がノルウェイ首相時代から極めつけの「反ロシア」主義者であることと無関係に、ロシアの”暴発”によって引き起こされた恐怖感、それに実際のミサイル打撃を受けた際に起きる事態の実例を見たことによる脅威感の現実化が底流にあるものと思われる。

こうした事態を背景として、ドイツはこの度、イスラエルから新しいミサイル防衛システム「アロー3」の導入を決定し、イスラエルとの間で導入(売却)協定を締結した。このシステムは、従来の西側における標準的な地上配置型のPACー3「ペイトリオット」汎用迎撃ミサイル・システムを更新するものだ。


◆高度100km以上の大気圏外での弾道ミサイル迎撃が可能な「アロー3」


米国、イスラエル共同開発のミサイル迎撃システム「アロー3」は、既に2017年には米国によってシリア空域での防空のために配置された実績がある。「アロー3」は、高度100km以上の大気圏外で弾道ミサイルを撃ち落とすことが出来るという。ちなみに、我が国も運用しているPACー3の迎撃高度は30kmだ。

ドイツは約40億ユーロ(約6280億円)で一連のシステムを購入する見込みで、これにより、ドイツが主導する欧州の共同防空構想「欧州スカイシールド・イニシアチヴ」での中核的な役割を担わせる装備に位置づけられることになっている。

ドイツ・メディアでは、以下のようにこの取り引きについて取り上げられている。「Tagesschau」紙9月28日付だ。


<2025年までに運用開始~「アロー3」導入でドイツとイスラエルの国防相が協定に署名>

「ドイツのピストリウス国防相とイスラエルのガラント国防相は、ミサイル防衛システム『アロー 3』をドイツが購入する協定に署名した。同システムは2025年末までに運用が開始される。…並行して両国の装備調達当局はまた、『アロー3』の生産を開始する契約にも調印した」


(参考映像)「IAI アロー3迎撃システム」2023/3/23 IAI(イスラエル・アエロスペース・インダストリー) ※メーカーによる発射試験デモンストレーション映像
https://youtu.be/fe5eE3iA1MA?si=x1dTmfEHxd8YaPIk

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