専門医でも意見が分かれる!?肺癌に対する最適な手術とは?

肺癌って、どんな病気か知っていますか?
今回は肺癌の外科治療、いわゆる手術に関してお話ししたいと思います。

今日の結論は、肺癌に対する術式は、専門医の間でも意見が分かれることがあります、ということです。ポイントとなるのは肺を切除する量です。裏を返せば、どれだけ肺を残せるか、ですね。

※難しい話は抜きにして、たくさんの方に読んでいただける内容にしています。医学的知識がなくても大丈夫!

こんな人は必読
・肺癌で治療中の患者様及びそのご家族様
・肺癌に興味のある方
・肺の手術に関してざっくりと知識を得たい医療者の方
・外科医という生態に興味のある方

まず最初に、肺癌ってどんな病気か知っていますか?
その名の通り、肺に癌ができる病気です。

ちなみに、肺に癌があっても、肺癌ではなく大腸癌の可能性もあります。

、、、は?

ですよね。

これについてはまたの機会にお話しします。
今日は難しい話は無しで。

数ある癌の中でも、肺癌は日本での罹患数が第2位の癌(悪性腫瘍)になります。
ちなみに第1位は大腸癌です。

そして、ここからが大事。
癌で亡くなる方の中で、最も多い種類は肺癌なんです。
特に男性ではダントツの第1位。

怖い病気ですよね。

肺癌は自覚症状が出にくいため、発見した時には進行しており手術ができない方が大半です。
最近ではCTの発展とともに、検診や人間ドッグ、その他疾患の精査中に、肺癌が偶発的に発見されるケースも増えてきましたが、やはり手術適応とならない進行癌が多いのは事実です。

不謹慎な表現になってしまうかもしれませんが、肺癌を患って、手術ができる段階であるというのは、ある意味幸運なことなのです。

そんな患者さんたちにベストな手術が提供できるよう、肺癌を専門とする呼吸器外科医の先生方は、日々診療と研究に向き合っています。

肺癌に対する手術では、癌を中心としてその周りの肺を切除します。そして、その切除の範囲によって手術の名称が変わります。

肺を取る量が少ないものから順番に、部分切除、区域切除、肺葉切除、と名前がついていますが、難しのでここでは小切除(部分切除)、中切除(区域切除)、大切除(肺葉切除) としましょう。

ここには色々なせめぎ合いがあります。
癌のことだけを考えれば、手術後になるべく再発しないように、癌の周りの正常な肺をたくさん取る大切除が好ましいです。
しかし、そうすると残った肺の量が少なくなり、手術後の呼吸に影響が出ます。

反対に、手術後の呼吸のことを考えると、癌の周りの正常な肺をなるべく少なく取る小切除を選択したいところです。
しかし、癌から近い場所を切ることで、癌が再発するリスクが上がります。

なるべく少なく取りつつも、再発しにくいラインを見極めるために、これまで数多くの研究が報告されてきました。
そして、それが世界の肺癌治療の標準となっているのです。いわゆるガイドラインですね。

ガイドラインでは細かい条件に沿って、大中小のどの術式をすべきかが明記されています。

このガイドラインは、常に見直しが入り、数年に一度大きな改訂があります。
その中でも、非常にインパクトのある、世界に衝撃を与えた研究結果が日本から発表されました。

これまで、大切除を選択していた肺癌に対して、中切除を行なっても生命予後が変わらないのではないか、という仮説を検証した研究です(JCOG0802試験と言います)。
結果は、中切除の方が長生きできたのです。

誤解のないように解説すると、やはり大切除をした方が再発率は低かったのですが、生存率としては中切除の方が成績が良かった、という結果になったのです。

これはなぜか?
新しい薬が開発され、薬での治療成績が良くなったから。
つまり、手術後に再発しても、薬で治療することにより長生きできますよ、の時代になってきたのです。

ただし、この研究を正確に解釈するには、詳細な背景や結果を理解する必要があることを補足しておきます。
一概に、中切除が良いです、と言えるものでもないのです。

この研究が世界に衝撃を与えたことは事実です。
ただし、この結果をどう解釈して患者さんに還元していくかは、外科医それぞれの判断になります。
これが、専門医でも意見が分かれる理由です。

肺癌治療に限らず、医療に限らず、学術に限らず、物事をどう解釈するかは人それぞれです。
何事も白黒つけば良いのですが、グレーなことって世の中に溢れています。
そんな時、自分が判断した理由を明確にできることが大切です。

私も私なりにこの研究結果を解釈し、肺癌治療に向き合っています。

どうですか?
少しは肺癌の外科治療の世界を見ることができたでしょうか?
なるべく難しい言葉を使わずに話したつもりですが、いろいろと割愛したことも多く、逆にわかりにくかったら申し訳ありません。

ただ一つ、これだけは最後に言わせてください。
この日本から発表された研究は、本当にインパクトの大きいものでした。
日本全国を巻き込んで行われたこの試験で、予想を超える結果が出て、日本で1600人いる呼吸器外科専門医は本当にざわつきました。
周りから見たらマニアの世界でしょうが、あの興奮は忘れられません。

これからも、我々臨床医を心から驚かす医療の発展があることを楽しみにしています。

さて、最後に問題です。

序盤で出てきた、肺に癌があっても肺癌とは限らない、もしかしたら大腸がんかもしれない、というのはいったいどういうことでしょう?

暇な時に考えるネタにしてみてください。
今度その答えとなる話をしようと思います。

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