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肺に癌が見つかった。でも肺癌ではない!?

はじめに

CTで肺に影が見つかりました。
主治医の先生は癌を疑っています。

さて『なに癌』でしょうか。

もちろん『肺癌』。

というわけではないのです。

今日の結論は、肺に癌があっても肺癌とは限らない、他の臓器から転移してきた癌の可能性もある、ということです。

こんな人は必読

・肺に癌があるんだから肺癌に決まってるじゃん、と思ったあなた
・周りに癌を患ってしまった知り合いがいる人
・癌に関して興味がある人
・友達にドヤ顔で語りたい人

注)今回の記事における、担当医と患者さんの会話は、かなり簡潔にまとめています。
実際の臨床現場における、癌の告知の仕方とは大きく異なるのでご了承ください。

肺に影が見つかった

CTで肺に影が、、、
先ほどの状況を、もう少し詳しく見てみましょう。

頑固な咳がなかなか治らないので、家族の勧めで近くの内科クリニックへ。
自営業のため会社の健康診断もなく、10年くらいは健康で過ごしてきた。
風邪も引かないので病院とは無縁の生活。

風邪だと思いますけど念のため、、
なんて言って撮影したレントゲン。
なんと肺に怪しい影が。
もっと詳しく検査をしましょう、ということで総合病院に紹介。

翌日に総合病院を受診。
レントゲンを見た担当医の先生は、すぐにCTを手配してくれました。
その日はCTを撮影して帰宅。
結果は1週間後の外来で聞く予定に。

と、ここまではよくある話。
みなさんにとっては驚くような話かもしれませんが、肺の専門家である私たちにとっては、何度も経験したり耳にしたりする話です。

1週間後、結果を聞くために外来へ。
そして担当医の先生はCTを示して言います。

これがレントゲンに映っていた影ですね。
CTではこんなふうに見えます。
そして、、残念ながら癌を疑います。

そうですか、、、
私、肺癌ですか。。。。

いえ、実はそうではなくて、、、

、、、???
ちょっと待って。
肺に癌があるかもしれないって言うのに肺癌ではない?
大丈夫か?この医者は。

と思うのも無理はありません。
肺に癌があれば、それは肺癌ですよね、普通は。

でも普通ではないことも、決して珍しくないのです。

肺癌ではなく〇〇癌!?

どう言うことか?

ひとまず以下の会話をご覧ください。
(担当医→患者さん→担当医→、、、の順で会話が進みます)

「実は、肺のCTを撮るついでに、お腹のCTも撮りました。
今後の治療方針を決める上で重要ですからね。
そしたら、お腹にしこりを認めたのです。」

「ちょっと待ってください。
お腹?全然痛くないですよ?
しこりってなんですか?」

「ちゃんと検査しなきゃわかりませんが、大腸癌を否定できません。
消化器内科の先生に連絡して検査しましょう。」

「え?
大腸癌?
肺癌もあるのに大腸癌もあるの?
そんな不幸な偶然ありますかね?」

「いや、ですから、肺の影は肺癌ではない可能性が高いです。」

「さっき肺の影も癌を疑うって言いましたよね。
隠さなくてもいいですよ。
肺癌ですよね?」

「いや、そうではないんです。
肺の影は大腸癌の肺転移を疑います。
つまり大腸癌が肺に転移している可能性が高いんです。」

「んーと。
肺転移ってことは、肺に癌があるんですよね?
肺癌ってことですか?」

「肺に癌がある、と言うところまではあっているのですが、肺癌ではないんです。
肺癌ではなくて、大腸癌が肺にあるんです。」

「。。。
は??」

癌のお話

今の会話、理解できましたか?

もう少し基本的な、『癌』の話からしましょう。

みなさんもご存知の通り、癌は身体の色々な臓器から発生します。
上述のように肺癌、大腸癌もあれば、胃にできる胃癌、腎臓にできる腎臓癌、膵臓にできる膵臓癌などなど、たくさんの種類があります。

これらの癌は、一言で『癌』と言っても、それぞれ全く異なる性質を持っています。
例えば、肺癌と大腸癌は全く別の病気なのです。

癌なのに発生部位によって性質が異なるのはなぜか?

それは癌の始まりを考えると理解できます。

癌を構成する細胞の1つ1つ
いわゆる癌細胞って、どこから来ると思いますか?
空から急に降ってくる?
コロナみたいに誰かからもらってしまう?
生まれつきわずかな癌細胞を持っている?

そうではありません。
癌細胞も、元々は正常な細胞です。
人間の体を構成する正常な細胞が、何かしらの原因(喫煙などのリスク因子やウイルス感染など)を契機に、悪い癌細胞に変化してしまうのです。

つまり
肺癌を構成する癌細胞の元の姿は、正常な肺の細胞。
大腸癌を構成する癌細胞の元の姿は、正常な大腸の細胞。

このように、発生起源が違うから、同じ『癌』でも、性質が異なるのですね。

ということは、、、
性質が違えば治療も違うのです。
わかりやすいのはお薬(抗癌剤)。
肺癌に効く薬が大腸癌に効くわけではないのです。
逆も然り。

癌には発生部位によって違いがあることが理解できたので、次は転移について。

癌が転移する、とはどういうことか?

これはおそらくみなさんのイメージ通りで、
癌が発生した場所から、離れた場所に飛んでしまうことを指します。

なんとなくイメージできますよね?

繰り返します。
元々あった癌が、違う場所に『飛ぶ』のです。

と言うことは、
飛んだ(転移した)癌は、元々の癌と同じものですよね?

大腸癌が肺に飛んだ。
飛んだ先は肺だけど、飛んだものは大腸癌。
肺にあるけど、大腸癌。

これを『大腸癌の肺転移』と呼ぶのです。

この場合、肺に癌があっても、大腸癌として治療をします。
薬で治療をするなら、肺癌の薬ではなくて、大腸癌の薬を使うのです。

肺癌の薬を使っても、癌は小さくなりません。
だって、大腸癌ですから。

最後に問題です

今回のようなケース。
肺にできた影は『大腸癌の肺転移』ではなく、本当に『肺癌』である可能性もあります。
では、その違いはどうやって確認するのでしょうか?

血液検査でわかる?CTで一目瞭然?追加の検査が必要?

治療方針に関わる大事な局面です。
医師になったつもりで考えてみてください。

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