侍JAPAN、感動をありがとう!〜WBCから振り返る手術におけるチーム力〜

はじめに

みなさん、WBCはご覧になりましたか?
侍JAPAN、感動をありがとうございました!!

試合を見ていると、チーム力の高さに驚かされました。
選手一人一人が、その時の役割を正確に把握し任務を遂行していく。
誰かのパフォーマンスが低ければ、全員でそれをカバーする。
チームの力になれるのであれば、普段は担わない役割も引き受ける。

結果、世界一。
軽い表現ではありますが、本当に最高のチームでした。

そんな侍JAPANを見てて、なんとなく手術を思い浮かべてしまった自分は、完全に職業病でしょう。
今回は、手術におけるチーム力に関してお話ししたいと思います。

今日の結論としては、手術は執刀医の力だけでは成り立たない、上手くいくかどうかはチーム力である、ということです。


こんな人は必読

・外科医に憧れて医師を目指す学生さん。
・手術に興味があるあなた。
・身近に手術を受けたことのある人がいる、もしくは手術を受ける予定の人がいる方。
・WBCに感動して、なんでも良いから共感したい人。


手術に取り組むチーム力とは

上述したように、手術を成功させるための鍵は、執刀医だけではありません。
手術が上手い先生にやってもらえれば、それだけで安心じゃん?
そんな気持ちもわかります。

ただ、手術は執刀医一人でできるものではありません。
周りでサポートしてくれる人がいるからこそ、執刀医はその実力を存分に発揮できるのです。

ということは、手術を成功させるために、最も重要なのは何か。
それは、手術に関わるメンバー全員によるチーム力です。

私たち外科医は、週に何件も手術を行います。
本当のことを言えば、毎回毎回、このチーム力が重要だ!なんて意気込んではいません。

定型的な手術、つまり普段から日常的に行う術式での手術は、チーム力をあまり意識しません。
ある意味、暗黙の了解なんですね。

それぞれが、それぞれの役割をしっかりこなして当たり前。
その中で、手術から何が学べるか、常にアンテナを張って、経験と知識を積んでいきます。

チーム力が最も発揮されるのは、非定型的な手術の時。
難易度が高い症例、年に1回あるかないかの術式、患者さんの状態が良くない手術、などはメンバー全員が緊張感を持って手術に臨みます。

チーム力は手術前から試されます。
具体的には、術前に職種を超えてミーティングを重ね、入念な準備をします。

まずは外科医。手術をどう進めるか、どんなプランで行うか、どのように視野を確保するか、この位置で血管が確保できなければ次の手はどうするか、出血した場合はどう対処するか、、、などなど、執刀医だけでなく助手として入る全ての外科医一人一人が真剣に考え、チームとして方針を統一させます。

麻酔科医は、その中でどのような麻酔をかけるか計画し、外科医が提示した手順を把握し、起こり得るトラブルを予測し、その対処を検討してくれます。
また、併存疾患を考慮し、どのような麻酔管理がベストか、リハビリを視野に入れた術後の鎮痛方法なども考えます。

看護師は、外科医のプランに合わせて手順を確認、使用する器具は何か、どの順番で使用するのか、トラブルが起こった際に臨時で用意する器具は何か。
器具と一言で言っても、手術で使用するものは無数にあります。
何かを縫うための針と糸だけでも、縫う対象によって、どの針を使うのか、どの糸を使うのか、すべて術前に外科医に確認し準備するのです。

こうやって、入念な準備を重ねて手術当日を迎えます。
この術前の準備ができていなければ、手術は上手くいくはずはありません。


外科医について解説

私は呼吸器外科医ですので、肺癌手術を元に解説します。
胸腔鏡を用いた手術、いわゆるカメラの手術ですね。

まずは執刀医。
言わずもがな、手術におけるリーダー的な存在。
手術を安全に進め、目的を達成することに全力を注ぎます。

時には、手術中の分岐点でいくつかの決断を強いられます。
手術状況に応じた術式の変更、カメラの手術から開胸手術へのアプローチ変更、さらには患者さんの状態によっては手術の中止を決断せざるを得ない場合があります。

本当に色々な責任とプレッシャーを抱え、手術を行うのです。

続いて第一助手。前立ち、と言われるポジションです。
第一助手は、執刀医を直接サポートします。

執刀医が行いたい操作を理解し、手術の『場』を作ります。
視野を展開し、組織に適切な緊張をかけます。
この視野出しが上手だと、執刀医のストレスは最小限で済みます。

また、時には糸を結んだり、血管を切る作業をしたりと、手術の要所要所で執刀医の右腕となって働きます。

皆さんの想像では、執刀医が最高学年者(上司)かもしれませんが、実際にはこの第一助手が上司であることも珍しくありません。
執刀医にその手術を任せられる知識と技量があると判断すれば、上司は第一助手に回ります。
後輩に執刀医としての経験をさせながら、時には適切なアドバイスをくれます。
これを第一助手の中でも『指導的助手』と呼びます。

最後に第二助手。
肺癌手術では胸腔鏡というカメラを持つことが多く、スコピストとも呼ばれます。

胸腔鏡手術では、術者は全員モニターを見て手術を行います。
だから、スコピストは術者全員の『目』の役割を担います。

実際に術野に手を出し、対象臓器を操作するわけではないので、一見退屈そうに見えますが、手術中の危険をいち早く察知するため、常に気を張ってます。

また、スコピストが手術を十分に理解していないと、手術はスムーズに進みません。
同じ操作をするにも、その対象を、その手元を、その針糸を、どの角度から、どれくらいの距離感で見るのが適切かわかっていないと、執刀医に多大なストレスを与えてしまいます。

また、手術の進行具合や手術状況を見て、後述する器械出し看護師に、次に使うもの、準備しておくべき物品を適宜確認します。
この作業1つで、手術のリズムを作ることができるのです。


麻酔科医について解説

麻酔科医は、手術中に患者さんの前進管理をしてくれる重要な立場です。
手術とは直接関係ないと思うかもしれませんが、外科医の立場からすると麻酔科医が誰かによって、手術のやりやすさは全く違います。

例えば、手術中に外科医と同じモニターを注意して見てくれているか。
麻酔科の先生が手術中に見なければならないモニターは、いわゆる心電図モニター。
心電図や、酸素の状態、血圧などが常に表示されたもの。
麻酔科の先生の中には、このモニターだけ見て術中の麻酔管理をする先生もいますが、外科医にとって非常に助かる麻酔科の先生は、外科医が見ているモニターも一緒に見ながら麻酔をかけてくれます。

手術中に、麻酔の深度が浅くなり、患者さんが無意識に軽い咳をしてしまうことがあります(もちろん患者さんに意識は全くありません、手術操作に伴う咳嗽反射と呼ばれるものです)。
咳をすれば体が少し動きます。
我々外科医は、それを麻酔科の先生に伝え、麻酔を深めてもらいます。

この一連こと、状況によっては手術中の大きなアクシデントの元になりかねません。
肺癌の手術では、肺動脈という血管を切ります。
この肺動脈、損傷すると大出血です。
リカバリーが大変なだけでなく、患者さんの術後に悪影響を及ぼすこともあります。
だから、呼吸器外科医は肺動脈の操作には細心の注意を払います。

そんな肺動脈の操作の時、患者さんが咳をして体が動くようなことがあれば、我々外科医にとってはものすごいストレスとなります。
集中が途切れ、リズムが崩れ、少し嫌な空気になります。

だから、本当に優秀な麻酔科医は、手術のモニターを見ながら状況を把握し、肺動脈の操作をするときは、絶対に咳をしないよう麻酔を深めてくれます。

この何気ない気遣い1つで、手術がスムーズに進むかどうかが決まります。

手術はこんなことの繰り返し。
麻酔科の先生は、陰で手術を支えてくれる重要な存在。
だからこそ、細かい気配りができる先生が担当してくれる時は、大きな安心感があります。


看護師について解説

手術に深く関与する看護師は2人。

まずは器械出しと呼ばれる、手術中に器械を渡してくれる看護師。

この器械出しという役割も本当に重要で、かなりの知識と技術を要します。
器械出しによって、手術のリズムが作れるかどうか決まると言っても過言ではありません。

手術の流れで次に何が必要か、どんな状況だから何が欲しい、などの情報は手術中に外科医から伝えるよう意識しています。
でも、緊迫した場面や集中した場面では、それを口に出すことができないこともあります。
そんな時、次に欲しい器械を伝えて、スッとそれが出てくると、執刀医は本当に助かります。

もっと言うと無言で手を出しても、欲しい物を渡してくれたりすると、この人が手術に入ってくれてよかった、と心から思います。

これ、なぜできる人とできない人がいるか。
それはモニターを見て手術を理解しているかどうかなんですね。
看護師だって、一緒に手術をしているメンバーなのです。

器械の渡し方1つとっても、それは技術なんです。
自分が執刀する時に上手な器械出し看護師が付いてくれると、本当に手術がやりやすい。
器械の渡し方だけで、手術って本当に変わるのです。

そしてもう一人の看護師が、外回りの看護師さん。
手術着を着ないで、術野の周りで色々なサポートをする役割です。

例えば、手術の状況から途中で必要になった物品を出したり、手術の状況を逐一記録してくれたり、手術中にかかってきた電話の対応をしてくれたり。

こちらも本当に重要な役割で、事前に準備ができていないと、必要物品を取りに行くため手術室から出て、1-2分手術が止まったりします。
優秀な外回りは、手術の状況を見て、適切なタイミングで外科医に話しかけ、〇〇は必要ですか?この後使う針糸は〇〇で大丈夫ですか?など確認してくれます。

この手術を把握した確認が本当に重要。
そして、もっと言えば適切なタイミングで確認、と言うのがさらに重要。

上述のように、手術には波があります。
山場では、外科医の集中はmaxであり、余計なことで気を散らしたくない。
外科医3人でコミュニケーションを取りながら、細心の注意で操作をする。
そんな時間があったりします。

その時に、空気を読めずに、その瞬間には関係ないことを外から確認されると、、、
結構辛いものがあります。
集中が一瞬途切れるだけでなく、空気も少し悪くなります。

外回りの看護師も、今手術がどんな状況なのか、常に把握しておく必要があるのです。


どうですか?

手術に関わる人は、職種によって役割は違いますが、その目標は1つ。
患者さんの病気を治すためにベストを尽くすこと。

そのために、みんなで共通意識を持ち、必死に手術に取り組みます。

手術はすべて歯車。
1つ噛み合わなければすべてに影響が出ます。
だからこそ、それぞれがプロフェッショナルな仕事をこなします。

術前の準備が大変な難易度の高い手術、状態の悪い患者さんの手術などを、計画通り無事に終えた時、チーム全体として味わう達成感は、言葉に変えられません。


さらには手術後も

実際の手術中に関わるスタッフはそれほど多くありませんが、手術後にはもっとたくさんのスタッフが患者さんに関わります。

病棟看護師、理学療法士、若手外科医、内科医などなど。
みんなで術後の患者さんの状況を共有し、退院までをサポートします。

その時に、この患者さんがどんな状態で、どんな手術をしてきたのか、それがわかっていないと、適切な管理ができません。

手術そのものが上手くいったとしても、術後の管理で躓いてしまうと、結果的には患者さんの満足にはつながりません。
転んで骨折してしまった、肺炎を起こしてしまった、筋力が落ちて歩けなくなってしまった、、など、元気に退院をするまでが手術なのです。

そんな意識を持って、スタッフ全員が患者さんと向き合える病院が、本当に良い病院だと思います。


最後に問題です

漫画やドラマになった『医龍』では、麻酔科医や看護師も含めて、チームのメンバーが固定されています。
しかし、実際にはそんなことはなく、麻酔科医や看護師はそれぞれの部署での割り振りによって決まります。

でも、外科医からしたら、この先生がやりやすいのにな、、この看護師だったらスムーズなのにな、、、など、心の中で期待する人物がいることも事実です。

そんな時、外科医は他の部署に、この手術のメンバーはこの人で、と指定することができると思いますか?

ドラマとか見て検討してみてください。

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