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2020年映画ZAKKIちょ~ 27本目 『アンダードッグ』

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2020年製作/上映時間:276分(前編131分・後編145分)/R15+/日本
劇場公開日:11月27日
鑑賞劇場:丸の内TOEI
鑑賞日:12月12日(前編・後編 連続鑑賞)

飛び散る血と汗と涙!夢を捨てきれない男たちの熱き拳と拳の殴り合い!

【あらすじ】
それぞれの生き様を抱える3人の男たちが、捨てきれない夢を賭けてボクシングで拳を交える!

 女性ボクサーの生き様を描いた傑作『百円の恋』の製作陣が再び集結!というトピックで期待値が高かった。
そんな本作を撮った武正晴監督と言えば、2019年Netflixで『全裸監督』も撮られた御方。

「劇場版」と銘打った本作は前編・後編合わせて4時間半を超える大作。
この長尺を間延びせずにいかに熱い気持ちで観させてくれるのか、期待を込めて劇場へ足を向けた。

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○良かった点

1.激突!男たちの意地と夢と再起をかけた殴り合い!
2.日本の熱きボクシング映画の傑作がまたひとつ!

1.激突!男たちの意地と夢と再起をかけた殴り合い!

 本作は三者それぞれの意地と夢と再起の為のボクシングを4時間半を超える時間で見事に描き切っていた。

 本作の主軸と言えるキャストの森山未來は、本当にプロボクサーにしか見えないような説得力ある鍛え抜かれた肉体、プロとしての身のこなしを見せて凄い!
さらに、”かませ犬”から”負け犬”にまで落ちながらも世界チャンプという夢と、家庭との別離という現実の間に揺れる男を言葉少なに演じ切っていて泣かせるし、何よりも心を熱くさせてくれる。

ちなみに森山未來演じる末永選手の試合前の入場曲が意外な選曲で熱かった!

 「とんかつDJアゲ太郎」の名演も記憶に新しい、今や令和の邦画界を牽引していく俳優の一人となりつつある、ダンスロックバンド、DISH//のボーカルも務める北村匠海は、秘密の過去を負いながらも、”負け犬”ボクサーを挑発するように積極的に絡む新進気鋭の若手ボクサーを演じる。
若獅子のように勢いと気迫で相手に襲いかかる姿が凄い!

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 上記2人のキャストは実力、人気共にメジャーな存在で期待通りの演技を見せてくれるが、世間的には「元AKB48の前田敦子の旦那」と言えば聞こえが早い印象だった勝地涼が本作で異質な存在感を見せていて良かった。

大物俳優の二世タレントで鳴かず飛ばずの芸人をやりながら番組の企画で”負け犬ボクサー”とボクシングをする…という設定なのだが、本当のバラエティ番組のようなセットのスタジオで、芸人のようにギャグを飛ばす様を観てると、本当に芸人のようにしか見えないのが凄い!

森山未來にも泣かされるが、親の七光りで欲しい物や仕事は何でも手に入れていた男が、ボクシングを通じて、自分のやりたかったことを見つけ出していく姿はググッと心掴まされた。
バラティ番組の企画であるがゆえ、ボクサーとしては素人なのに、プロである”負け犬ボクサー”相手に身ひとつでぶつかっていく姿はハラハラもするし熱くもなる。

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 本作は、”負け犬ボクサー”の、「七光り芸人」との対決を前編、「若手ボクサー」との対決を後編という形でまとめていて、どちらもしっかりと山場が用意されており、まったく飽きることなく4時間半が過ぎていた。

 この3人を中心に物語が進むが、その3人を傍らで支えるキャストや、女優陣の身体を張った演技も見逃せない。
ボクシング映画というフィジカルな動きと人間の本能をむきだしにする作品には、セックスシーンがあるのとないのとで説得力が違う。
そうした表現も、R-15指定という映倫基準の中で逃げずに見せてくれる。

なお、この3人以外のドラマも更に掘り下げた群像劇であるバージョンが「ABEMAプレミアム」で2021年1月1日より独占配信される「配信版」とのことで、全8話357分「劇場版」よりも80分以上長い編集となっている模様。
どれだけ違った作りになっているのか、観てみたいところ。

 ちなみに、後編のオープニングで、森山未來と妻役である水川あさみが雰囲気の良い昭和っぽさ漂う喫茶店で話し合うシーンがある。
その喫茶店、今住んでる自分から徒歩数秒のすぐ目の前の喫茶店だったよ!

離婚届を持って水川あさみを追いかける森山未來のカットを観て、
物語的には悲壮感漂うところなのに「あ!いつも通ってるあの道じゃん!」とめちゃくちゃ嬉しくなってしまった。

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2.日本の熱きボクシング映画の傑作がまたひとつ!

 本作は、2010年代に公開された「百円の恋」「あゝ、荒野」に続く、2020年代最初の本格的なボクシング映画であり、上記2作品よりも、より王道のボクシング物としての純度の高さが極まった作りになっているように思えた。
(ボクシング物の純度という点では「百円の恋」は女性ボクシングを扱う、邦画では斬新過ぎる内容だったし、「あゝ、荒野」はたびたびボクシングからまったく離れる内容になってしまうのが惜しかった)

 それにつけても、ボクシング映画ほど、準備に時間もかかるし、手間もかかるし、ごまかしが効かず、キャストのストイックさが問われるジャンルも珍しい。
そうしてキャストやスタッフが努力して作っても興行が成功しないと報われないだろうし。
邦画であまりボクシング映画が製作されないのは、製作の苦労に対して、内容がどれだけ良くてもなかなかヒットに結び付けづらいのも原因にあるのかもしれない。

「でも、やるんだよ!」の精神が無いととても作れない気がする。

顔の傷などは特殊メイクで作れるが、キャストの身体の作り込み、動きなど、素人目で全方位で観ても違和感なく、かつ本物のボクサーに見せなければいけない。
過酷な減量を経て体重を絞るだけでなく、闘志を身体中に充満させて、説得力をもってスクリーン映えさせるという大前提がある。
キャスト側からしたら肉体改造までして別人になりきるというのは、演じ甲斐があるのかもしれない。

 本作のメインキャスト3人(森山未來、北村匠海、勝地涼)は作品世界に没入させるのにふさわしく、身体を作ってきており、三者三様のボクシングスタイルを見せてくれる。
森山氏はトレーニングで一番キツかったことをパンフレットのインタビューで下記のように語っている。

森山:僕は撮影の1年くらい前からトレーニングを開始しましたが、きっとみんなが一番キツかったのは糖質制限だと思います。筋肉の特質を利用したパンプアップ方法で、試合シーンまでの5日間程、まったく糖質を摂取しないようにします。しばらく制限して、そこから炭水化物ばかりを食べる。すると飢餓状態だった筋肉が一気に反応して、目に見えて筋肉が膨らむ。

-「アンダードッグ」 パンフレット 11ページより抜粋-

こうしたストイックな食事制限やトレーニングを経て、身体を追い込んでいるからこそ本物としか思えない迫力を感じられる。

森山氏は試合シーンについては「互いの信頼関係とリズムを合わせるように撮影した」とも語っていて、試合進行などは、どこでパンチをして、ジャブをしてどう動くかなど、殺陣が決まっているとのことだが、ただスクリーンに映る画は本当に試合をしているかのように見える。
ちなみにボディやショルダーには本気でパンチを当てていたとのこと。

ただ本当の試合のように相手の役者の顔を全力で殴ったらまずいし、さりとて緩めちゃうとリアリティ薄まるし…という撮影の苦労がキャスト3人の中であった模様。

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◆結論

 本作は、その熱く燃えたぎる純度の高さ、制作側の高い志などを感じ取る事が出来、20年代を代表する日本のボクシング映画として名を残すのは間違いない。
観終えて闘志に火が点く気持ちになる。
ボクシング映画は「ロッキー」だけじゃないという気持ちにもさせる。


出来たら、まずは初見でスクリーンで集中して「劇場版」を4時間半を完走するのが一番適した観方だとは思うが、群像劇としてよりドラマ性が高くなっているらしい6時間近い「配信版」も楽しみたいところ。


それでは最後にみんなで予告編を観てみよう。


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