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百三十五話 戦争の極意

 実際の突撃では、突撃ラッパを吹いている余裕など全くなかった。弾が四方から飛んで来くるから、皆敵しか見ていられない。それは敵も然りで、彼らは後方に督戦隊が控えているからなおさらだろう。退くも地獄、進むも地獄。そうなれば前進しかないのだ。

 紛糾混沌、大乱戦の末、またしても日本は勝った。但し、このいくさで多くの中隊長を失う。

 中隊長になるには、大学を出て幹部候補生からなる者が多い。陸軍士官学校を出て叩き上げで中隊長になる者いるにはいたが少数派だった。
 今回、自ら第一戦に赴き、壮烈な戦死を遂げた中隊長は、大卒・幹候上がりがほとんどだった。
 一方、士官学校出の中隊長は、生き残った。無論、彼らが戦意で劣っていた、劣後していたわけではない。むしろ闇雲に出ない分、勘所では一気に出る。そこに、迷いや出し惜しみは一切なかった。
 好機が来るまで隠忍自重する。出る時来れば後先考えず全勢力で出る。まさに徳川関ケ原。つまり、実戦の処し方、闘い方、野戦の極意を心得ていたのだ。
 そういえば、陸軍士官学校では古今東西の戦術を学ぶ授業ケース・スタディがあると浅井は聞いていた。また、スパイ養成所の中野学校では忍術も教えていると小耳に挟んだことがある。浅井は、その噂を聞いた時、有料でもいいからその授業を受けたいと思った。

 兎にも角にも、気合だけでどうこうできる世界でない――弱肉強食、生存与奪。浅井は殺し合いを通じて、アマとプロの違いを初めて知る。 
 浅井にとって、戦争は究極の学び場だった。

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