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第8話 社名に込めた想いと、ほんの少しの遊び心。

2022年の2月末に現職を辞めて、会社をつくることにした。
企業のIR資料を中心とした制作会社だ。
本作は、リアルタイムで創業を目指すそんな僕自身の物語。

第3話から第7話にかけて、僕がやっていこうとしている事業の大枠について書いた。
今回はいよいよ会社の名前を発表しようと思う。

まぁそれなりに考えはしたけれども、こうやって公表することに正直どこかこっ恥ずかしさもあるというのが率直な気持ちだ。

自分の思考プロセスやセンスみたいなものを覗かれる恥ずかしさ。
みんなでボクサーパンツ or トランクスの論争をしているのに、実は白ブリーフ履いてました、みたいな。違うか。

現職を辞めて起業することにした流れや、登場人物(僕と友井)、事業領域決定の経緯についてはこれまでの記事を読んでくだされー。

社名を決めるという超重要タスク

9月初旬、会社の設立に向けて僕と友井はタスクの洗い出しを行っていた。
「会社の立ち上げ」と「事業の成功」に向けて、何をすべきか。
その中に当然、社名を決めることも含まれていた。

会社名は、企業の象徴である。
しっくり来なかったら会社を立ち上げた後でも変更できるけど、やはり納得感のある社名にしたいという想いは当然持っていた。

社名について「こんな方向性をイメージしている」と互いの考えを少しだけすり合わせ、僕らは1カ月かけて社名の候補案を考えることに。

方向性としてはざっくりとこんな感じ。

・領収書に書いてもらうときに恥ずかしくない
・長ったらしい/意味が分かりづらい英文は×
・語感は大事にしたい
・ほんの少しでも遊び心を入れられたらよいね

1カ月の間、それなりに考えたし、途中途中で友井に聞いてみて感触を確かめたりもした。
供養のためにも、結局採用しなかった案をいくつか書いていく。

●IR&Creative株式会社
最後まで残った案だ。自分たちが何者か、しっかり打ち出していく社名である。ただ、途中で自分たちでCreativeと名乗るのに僕が恥ずかしくなってしまい却下した。
ちなみにCreativeを略して「IR&C」とすることも考えたが、どこかで見た気がしたのでやめた。

IR&C…!!!

●イチレン株式会社
スタートアップ企業の多くは語感のよい4文字のカタカナだ。むしろ語感のよいカタカナ4文字でなければ会社を立ち上げてはいけないくらい、一般的になっている。
そこで僕らがカタカナ4文字にするなら何かを考えた。それがイチレン。
一蓮托生のイチレン。一連の工程のイチレン。IRのIchiRen。

「お客さまのパートナーとして一蓮托生で、IRの一連の行程をワンストップで提供する」という意味も込めたら結構ありだなーと思ったが、イチレン+僕の名前(拓)+友井の名前(翔太)=「一蓮托生」となるのがいずれ恥ずかしくなる気がしてやめた。
あとカタカナ4文字が”正”という空気感に追従するのもなんか嫌だった。

イチレン+僕の名前(拓)+友井の名前(翔太)=「一蓮托生」
さすがにこれを名乗るのは、ちょいハズかった。

さて、そんな感じであれこれ議論を繰り広げた結果、僕らの会社の名前は決まった。
それが“株式会社イチロクザンニ”である。


会社名「イチロクザンニ」の由来

「イチロクザンニ」と聞いて、ピンと来る人も、ハテナを浮かべる人もいるだろう。そりゃそうだ。

由来を聞かれると正直困る。
というか、やっぱりなんか恥ずかしい。

そんなわけで、「イチロクザンニ」の由来や込めた想いについて、真実の由来/表向き用/ボツ案の3パターンつくってみることにした。

せっかくなので、皆さんにもどれが”真実の由来“なのか、ぜひ考えてみてほしい。

由来①:「IRを、クリエイティブに。」を数字に。

僕らの事業コンセプト、それは「IRを、クリエイティブに。」である。
クリエイティブの力で現状のIRの常識を変え、日本の投資環境をもっとワクワクするものにしたいという意志を込めたフレーズだ。
明確な情熱と想いを持っているのだから、会社の名前にも当然反映させるべきではないかと僕らは考えた。

しかし事業コンセプトをそのまま社名にするのも難しいし、味気ない。
そこで僕らは「IRを、クリエイティブに。」を数字に変換してみることにした。

「IR」は間違いなく「1」「6」だろう。
「クリエイティブ」は頭文字から「9」
「に」はそのまま「2」

並べると「1692」。イチロククn……。
少しばかり下2桁が怪しい語感なので、「IRを、クリエイティブに。」を「IRを、斬新に。」にちょいと意訳。
「1632」
そう、これがイチロクザンニの由来だ。

IRを、クリエイティブ(斬新)に。

由来②:「空山一路」という四字熟語を、少し捻って。

僕には好きな四字熟語がある。
「空山一路」という言葉だ。
人の気配のない静かな山の中に、一つの道が通じていることを指す。

この都会ではなかなか見られない情景が、とても好きだ。
侘しさ。ゆっくり流れる時間。そして続く一本道。
静けさの中に、覚悟や信念を感じさせる。そんな言葉だと僕は勝手に捉えている。

だからこの言葉を社名にしたいと僕は友井に提案した。
「空山」の中に、自分たちの手で「一路」を敷くんだという、ひと匙の情熱を添えて。

一路を、空山に。
イチロクザンニ。
これが僕らの情熱だ。

静かな山の中に、一本の道を。

由来③:覚悟を持った一手を。自分で決める腕力を。

僕と、共同創業者の友井はお互い無類の麻雀好きだ。
こう言ってしまうと多くの方に、僕らがギャンブルが好きでだらしない男たちという印象を与えてしまうかもしれない。

しかし僕らが好きなのは、賭け事としての側面ではなく、頭脳と運のバランスが絶妙な麻雀のゲーム性にある。
賭けるものはプライドさえあればいい。とにかく頭脳と運をめぐるこのゲームを楽しみたいだけなのだ。

そんな麻雀において僕が一番好きな役が「七対子」である。読み方は、チートイツ
麻雀の話をすると敬遠する人もいるだろうし、どうしても長くなるので適当に書いていくが、基本的に麻雀はマークや数字が同じ、もしくは数字が連なる牌(手札)を3つずつ集めるゲームだ。
集めた牌の組み合わせで「役」を作り、相手から点数を奪っていく。

その役の中で一際異彩を放つものが「七対子」である。
3つずつ集めるのが常の環境の中で、同じ牌を2つずつ、7組を自力で集めなければならない。これが結構難しい。
そして点数の計算方法も少し特殊だ。

では、なぜ僕は七対子が好きなのか。
理由は3つある。

1つ目は、そのイレギュラー感。
3つずつ集めなければならない麻雀において、コイツだけ2つずつでいいのだ。
そのはみ出しものな感じが、たまらなく僕の好奇心をくすぐる。

2つ目は、牌を重ねていく高揚感。
麻雀牌は全部で36種類、同じ牌が山に4枚ずつある。その中で誰が何の牌を持っているのかを想定しながら、山に残っている牌から、自分の手札にある牌と被りそうなものを探さなければならない。
自分の推理力と肌感覚を信じて突き進む感じは宝探しに似ている。

3つ目は完成目前の牌の形が不安定だから。
麻雀は14枚の手牌で役を作り、アガリを目指すゲームだ。13牌持っている状態で伏せられた牌の山から1枚引き、手札と入れ替えて1枚捨てることを繰り返す。
この過程で7種類×2牌の組み合わせを目指すわけだが、七対子の完成が目前に迫ったとき、必然的に最終形はほしい牌一枚が宙ぶらりんになった形になる。
この不安定さがたまらなく好きだ。
意志を持ってアガリに行く勇気が求められる。自己責任、決断、無防備。確率論ではない。崖っぷちだから、美しい。

この不安定さがたまらなく好き

今、僕は一世一代の戦いの場にいる。

相手は強敵。戦いは山場。

6種類揃った。あと残すはこの1枚を重ねるだけ。
不安定な状況。当然、他の人に持たれているリスクもある。
でも僕はこの1枚を信じている。
覚悟を決めて、リーチ。

当然周りも黙ってはいない。
親からの追っかけリーチも入る。ピンチ。

敵の猛攻を運だけで躱しながら、牌の山に手を伸ばす。

指に引っかかる手応えの感触。
アドレナリン、ドバドバ。飛ぶほど気持ちいい瞬間。

僕は手牌をゆっくり倒す。
「ツモ」

リーチ、ツモ、チートイツ。

僕は興奮を隠しながら、小さめの声で点数を伝えるのだ。
「イチロクザン二」

子の支払いは1600点、親からは倍の3200点をもらう。
通称、16・32。そう、イチロクザンニだ。


……突然のオリジナル麻雀小説に驚いた方もいるかもしれないが、「イチロクザンニ」は麻雀の点数の呼び方である。
登場頻度はそこまで多くないが、現れるときは決まって”何かしらの決断”を伴うことが多い。
リーチをかけたチートイツ、暗槓や么九牌の明槓、または三暗刻。

そしてまた、ツモアガリ――すなわち自力で最後の牌を引いてこない限り、この点数は出現しない。

思い切りのよさと、自分で完成させる腕力。

これらが求められる「イチロクザンニ」という点数こそ、僕らが名乗るべき社名だと思った。
運がよけれな裏ドラが乗って3000・6000となるが、今はこれくらいの点数がちょうどよい。

前述したように、チートイツはペアをつくる役である。
僕らと、お客さま企業。お互いがしっかり手を組み、社会の発展=役の完成を目指す。
そんな意志を込めて、僕らは会社をイチロクザンニと名付けることにした。


「イチロクザンニ」の由来、いかがだろうか。
この中に真実の由来/表向き用/ボツ案がある。
圧倒的に最後の由来だけボリュームが多くなってしまったが、特に意図はない。

正解は、あえて伏せておく。
もしどうしても気になるようであれば、このページのURLでも見てもらったら大体想像がつくはずだ。


ほんのちょっとの遊び心を入れるつもりが、だいぶふざけた社名になってしまったような気もしなくもないが、当面僕らはこの社名とともに生きていく。

信頼が必要な業種で、「ふざけすぎ」とリスク要因になるのか。
はたまた、IR担当者やその上の経営陣との共通の話題として、取っ掛かりとなるのか。

僕らのギャンブルはまだ始まったばかりだ。

TN


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