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読書ログ:なぜ男女の賃金に格差があるのか ノーベル賞受賞者による読み応えある一冊

今年のノーベル経済学賞受賞者クラウディア・ゴールディン氏の「なぜ男女の賃金に格差があるのか」読んだ。

さすがノーベル賞受賞者、賃金格差の理由がわかりやすく述べられ、解決案のヒントまで提案されていて面白かったです。
理由もなんとなくはわかっていたし、解決は難しい問題であることもわかっているけど、その解決案のひとつが目から鱗で、なるほどねーと思いました。

男女間の賃金格差や家族の収入最大化などのトピックに興味がある方にオススメ。
本価格が高すぎるが、一読すれば十分なので図書館で借りるのがいいと思います。



女性にとって、時代はどんどん良くなっている

本書の特徴的な構成が、時代ごとに区分して男女間の賃金格差を読み取ろうとしているところ。100年ほどの時代を以下5つのカテゴリーに分類。

年代の古い順に、以下の変遷を経ていることがわかる。こうみると、まだまだ課題はあるにせよ、時代は良くなっていると実感できる。

1.家庭かキャリアか選択する時代。

2.仕事の後に家庭を持った時代。ある程度働くとマリッジバーにぶつかった

3.家庭の後に仕事。教師、看護婦等がマリッジバーが低く人気

4.キャリア優先。避妊法の発達により妊娠を遅らせてキャリア構築、但し子供なしが多い

5.キャリア優先。避妊法の発達に加え不妊治療のおかげで、キャリアも子供も得ている時代


賃金格差解消の鍵

賃金格差解消の鍵となりうるのが、自分の完全な代替を持つとの主張が面白い。非代替的な人材となることが自分の価値を高める手段と考えていた私にはとても刺激的だった。

代替を持つことが重要なのは以下の理由から。

オンコールでいつでも対応可能な仕事に対するプレミアムを減らすことが、格差是正の一つのキーだとしている。

弁護士、医者、CEOなどは、もちろん高度な専門知識を必要とする職種だが、それだけではなく24/7いつでもクライアント要望に応対可能という時間制限(オンコール)もその高収入の理由。

女性は能力的に男性と同じ専門知識を得ることは可能だが、社会構造的に仕事への時間コミットメントを育児期間に行うことが難しく、これらの職種でプレミアムを得ることが難しくなっている。

これを解消するひとつの手段が、自分の代替を持つこと。
薬剤師業界は比較的高収入で女性割合が高い。それは高度な専門技術を要しながらも、代替性が高いことによる。例えば医者や弁護士などは、「この人」に依頼するとの意識があるが、薬剤師は割と誰でもいいはず。その代替可能性はネガティブではなく、柔軟さを備えた効果的なシステム。女性にとって産休スタート、復帰スムーズに行える構造となっており、格差解消のヒントをくれる業界となっている。

そのほかの例でも、夜間の緊急時対応治療室が、病院とは別に設置されてオンコールがなくなってから、獣医の女性比率は劇的に上がった。アメリカでは、今8割程度の獣医が女性。

代替ってのが衝撃で、母業の多くの部分も外部代替や、父で代替できる部分はあるけど、母業の何が楽しいって、代替不可である特権を味わうことにもあると思っていて、代替不可だからこその楽しみがあるわけで。考えさせられます。


そのほか気になった部分 チャイルドペナルティとか

全ての人が、時間投入で報われる仕事や長時間での労働がしたいのかなぁとの疑問はある。

MBA取得しても(そのようなキャリア思考の女性でさえ)、13年後には男性比較で65%程度の給与しか得られていない。

結局は、夫婦収入の最大化のためには、女がキャリアを抑えるのが合理的な社会構造になっているのが問題。

チャイルドペナルティという言葉がもたらすネガティブな印象はちょっと違和感。
子供を持つことによる役割の変化が、従来とは違う視点をもたらせた実感があるから、必ずしもキャリアの側面でチャイルドペナルティーだけって言いたくない。例えば時間管理能力は一般的には子持ちの人間の方が上手だと考えられる。

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