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枻(エイ)出版社の文庫本:『旅するカメラ』渡部さとる

先日、枻出版社が東京地裁に民事再生法の適用を申請したことを知りました。私の本棚に枻出版社の文庫本が4冊並んでいます。渡部さとるさんの『旅するカメラ』シリーズです。どの巻を読んでも、カメラマンとしての経験とノウハウが凝縮された人生の記録になっています。4冊のうち、『旅するカメラ2』から印象的なところを紹介します。

「感度分の16」
渡部さん独特の露出決定方法。詳述しませんので、興味のある方は検索するとすぐにヒットします。この方法を知ると、露出計のない古いカメラでも撮影できます。私はニコンFで試してみました。次の万田坑の写真です。撮影したのは2014年で、翌年世界文化遺産に登録されました。建物の屋根がニコンFのペンタプリズムに似ているところが気に入りました。

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写真の露出値は難しいですね。単体の露出計やスマホの露出計アプリを使えば、適正な露出値を得ることができます。ただ、自分だけの露出感覚を身につけておくと、個性的な面白い写真が生まれ、写真の幅が広がるかもしれません。

「御巣鷹山」
1885年に日航ジャンボ機が群馬県上野村の山中(御巣鷹の尾根)に墜落しました。現場は標高約1700mで、当時は登山道もなく、救助隊がたどり着くには過酷な場所だったようです。

当時、新聞社の報道カメラマンだった渡部さんは、社の指示で現場に向かうことになり、ふもとから4時間かけて墜落場所に到着します。撮影を終えて下山する(3時間かかる)途中、ふもとまであと30分というところで、慰霊のため御巣鷹山に向かう僧侶に出会います。渡部さんは、自分はここに何をしにきたのか釈然としないまま下山していたようですが、僧侶に出会った時、自分が撮りたかったものを直感します。それから、僧侶の後について再び登りはじめます。

渡部さんが2度目の御巣鷹山で撮影した写真は本書でご覧になるのが一番でしょう。

一日に2度御巣鷹山に登るという凄まじいことをやってしまうわけですが、その代償は大きく、以後体調の異変に悩まされたり、写真に対する気持ちが萎えていくなど、人生のターニングポイントになってしまったようです。

最後に、
この4冊は写真に興味のある方に特におすすめです。単なる写真のテキストを超えた、写真家そのものが、本という印画紙にしっかり定着している、中身の濃い文庫本です。


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