水谷慎一郎

51歳。愛知学院大学卒。印刷会社、青果卸売会社、マット・レンタル業、 運送業。カメラマ…

水谷慎一郎

51歳。愛知学院大学卒。印刷会社、青果卸売会社、マット・レンタル業、 運送業。カメラマン。職業転々。7年間はドイツ、シンガポール生活。現在東京在住。WEB ライター&日雇い労働。既婚子供2人。写真作品→ https://sm721209.myportfolio.com

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  • 『ふたりのあいだに在る写真』(短編小説)

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「ふたりのあいだに在る写真」第1話

『note』創作大賞2024 応募作品 〜あらすじ〜 かつて趣味として写真を撮っていたことのある印刷会社に勤める男が、仕事を通じて知り合った活版印刷所の植字工の女性と付き合うことになった。ある日、その女性から「私の写真を撮ってほしい」と依頼され、彼は彼女のポートレートを撮ることになる。 好意を抱く人物に自分の写真を撮ってもらいたいという願いはむろん女性の本心だったが、しかしこの撮影を機に、打ち明けておきたい秘密が彼女にはあった。 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

    • あとがき 『ふたりのあいだに在る写真』 水谷慎一郎

      「note」に全5回にわたり投稿した『ふたりのあいだに在る写真』を読んでいただき、有り難うございました。 3万字を超える物語の執筆は初めての試みで、構成の面白さ・ストーリー全体の整合性や一貫性への配慮はさることながら、飽きさせず先に読み進んでもらう工夫・よどみ無くスクロールしていけるような文体にする等、SNS投稿プラットフォームならではの文章作成の大変さも今回、実感した次第です。 写真にまつわるリアルな文章 女性の美しさを丁寧に扱うこと 男と女の純情を描く 『ふたり

      • あとがき 『ふたりのあいだに在る写真』 水谷慎一郎

        「note」に全5回にわたり投稿した『ふたりのあいだに在る写真』を読んでいただき、有り難うございました。 3万字を超える物語の執筆は初めての試みで、構成の面白さ・ストーリー全体の整合性や一貫性への配慮はさることながら、飽きさせず先に読み進んでもらう工夫・よどみ無くスクロールしていけるような文体にする等、SNS投稿プラットフォームならではの文章作成の大変さも今回、実感した次第です。 写真にまつわるリアルな文章 女性の美しさを丁寧に扱うこと 男と女の純情を描く 『ふたり

        • 「ふたりのあいだに在る写真」第5話

          今日はもうこれ以上、写真を撮ることは止めにしようと思っていた。 上半身に何も身に着けないまま彼女は、ぼくの目の前にいる。両の腕を胸のあたりで組んで乳房を隠し、やや背中を丸め、俯き加減で椅子に座っている。目は虚ろで、こちらを見ていない。このままだと、彼女は泣き崩れてしまいそうだった。 花束を胸に抱いた自分を撮ってほしい ― その願い通りに、ぼくは彼女の姿を撮影した。36枚撮りのフィルム1本半ほどは既に撮り終えていた。買っておいたフィルムはまだあと3本残っている。だが、このあと

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        「ふたりのあいだに在る写真」第1話

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        • 『ふたりのあいだに在る写真』(短編小説)
          6本

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          みんなのフォトギャラリー用の写真です。

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          みんなのフォトギャラリー用の写真です。

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          「ふたりのあいだに在る写真 」第4話

          りょうからの連絡はすでにもらっている。 彼女を乗せた電車は、14時を少し過ぎたころに駅に着くようだ。 部屋のそうじは午前中に済ませてある。居間の淡いウグイス色の砂壁を撮影の際の背景として使うため、その周辺に置いてあった電気スタンドやTVボードは取り払い、その他の不要なものは全て押入れにしまっておいた。普段は出したままにしている座卓も座布団も、今日は片付けてある。 13時45分。りょうを出迎えるために、ぼくは家を出て駅へと向かう。 ぼくの住んでいるマンションは、工業地帯の近くの

          「ふたりのあいだに在る写真 」第4話

          「ふたりのあいだに在る写真」第3話

          「あなたの好きなように、ただ、私を撮るだけでいいから…」— 自分の姿を、1枚のプリントになった写真として見てみたい。そう願う彼女に、撮ってもらえないかと頼まれた5日前の夜 — あのときから、時間さえあれば、彼女のことばかりを考えるようになっている。 あの日、写真の撮影を頼まれ、少しのあいだ逡巡したが最後には、次の休みの日に撮ることにするよと、その場でぼくは返事をした。その約束の日がそこに迫っている。明日の14時に彼女 — りょうは、ぼくの部屋に来ることになった。 ぼくたち

          「ふたりのあいだに在る写真」第3話

          「ふたりのあいだに在る写真」第2話

          押入れの上の段に据えた、引出し式の衣類ケースの上には空間がまだ少しあって、そこには、今はもう要らなくなってしまったCDやDVDをダンボール箱に詰めてしまい込んである。写真機とレンズが入った半透明のプラスティック・ケースはその箱のとなりにあった。ケースの把手をつかんで引っ張り出すと、黒い一眼レフ写真機とレンズ3本が透けて見えた。 畳の上に置いてフタを開ける。 まずは写真機を取り出して、それから「標準」レンズを手にとる。ケースに入っていたレンズは、目の前のものを幅広く写すことので

          「ふたりのあいだに在る写真」第2話

          美しきもの の記憶

          日常の記録のためにカメラで写真を撮る人は今、ちまたに数多くいる。スマート・フォンのカメラ機能や手軽なコンパクト・カメラを使っている人たちがほとんどだが、その仕上がりに満足できず、一眼レフ式のカメラを用いて本格的に撮るようになったという人も中には沢山いるだろう。一眼レフ・カメラには、交換のできる様々なレンズが揃っており、写すことのできる範囲や画像の拡大性能によって「広角・標準・望遠」などと大別され、好みや用途によって撮影者はそれらを使い分ける。 レンズにはそれぞれに特性がある。

          美しきもの の記憶

          砂場で〇〇〇を掴んだら‥

          1980年代の後半にアメリカで出版され、のちに日本でも訳本が話題になった、こんな本がある。 ロバート=フルガム 著 『人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ』 訳者 (いけ ひろあき) 出版 河出文庫,河出書房新社 ※文庫版の初版は1996年。 ※フルガム氏のオリジナルの出版は1986年と1988年。 アメリカで、カウボーイ・歌手・IBMのセールスマン・画家・牧師など、さまざまな職業を経験し、やがて50代を迎えようかという年齢になったフルガムが、自分の身のまわりに

          砂場で〇〇〇を掴んだら‥

          まちにあるものたち

          大師線の鈴木町駅に停車しているあいだの車内で、自動ドアの開いている出入口の脇に立って出発を待っていると、さとう醤油を焦がしたような甘いにおいを外の空気から感じる。それは例えば、駅の近くの売店から流れてくるというような局所的なものではなく、もっと、この一帯に広く漂っているような感じで、におってくる。 京浜工業地帯の一角を担う神奈川県・川崎市。その中心にある川崎駅から多摩川の最下流に沿うようにして京浜急行電鉄の大師(だいし)線は走っている。 「鈴木町」(すずきちょう)は始点であ

          まちにあるものたち

          駅西口・路上の営業マン

          仕事の日は夜の9時から働いて、終わると朝の8時に自分のアパートに帰ってくる ― そんな生活を2年も続けていると、休みの日だからといって明るい時間帯に外を出歩くということが、段々と少なくなってくる。 東京・大田区の東京湾沿岸部にある青果卸売市場で、俺は、野菜の運搬の仕事をしている。夜間の肉体労働ではあるが、取り立ててキツい、というわけでもない。フォーク・リフトを操縦して 、全国各地から到着する野菜を、卸売市場内の出荷場に並べていくだけの仕事だ。休みは月に6日。毎週土曜の夜

          駅西口・路上の営業マン

          旦那は元犬に話しかける

          江戸の時代にあった話。 蔵前(現在の東京都台東区蔵前)の八幡神社に、境内を頻繁にうろついている1匹の白い野良犬がいた。体の毛に差し色が一切ない、ほんとうの白犬だった。その毛の美しさから、周囲の者たちには、たいへんに可愛がられていた。 この犬は、人間になりたかった。 江戸の当時の言い伝えでは「真っ白な犬は人間に生まれ変わる」とされていた。 だから、頭を撫でに近寄ってくる参詣の客たちから 《アンタは真っ白だから、生まれ変わったら、次の世は人間になれるよ》 《いつも八幡様にい

          旦那は元犬に話しかける

          松坂屋には、売ってない

          1 《松坂屋には、売ってない……》 《マツザカヤには、うってない……》 そう心の中でつぶやきながら、就職試験の小論文の問題に臨んだ。 「あなたが大学生活4年の間に読んだ本の感想と、そこから得られたものについて述べてください」(制限時間45分) これが与えられたテーマだった。 志賀直哉の大正時代の短編小説『小僧の神様』について僕は書いた。 — 東京で評判の、ある人気寿司店に行って、一度でいいから極上のトロの握りを食べてみたいとかねてから思っていた、商店の小僧・仙吉はあ

          松坂屋には、売ってない

          真澄ちゃん、元気ですか。

          ますみさん、お元気ですか。 私は今年、50歳になります。ですから、私たちが小学校の同級生だったあの頃は、もう40年以上も前ということになりますね。 あなたについての思い出を、少しお話しさせてください。 愛知県・名古屋市立六郷小学校に通っていた私たちは、あの日も、いつものように給食のあと次の授業が始まるまで教室で遊んでいました。 女子たちは窓際の隅に集まって、ワイワイとおしゃべりをし、男子は当時流行っていたプロレスの必殺技「四の字固め」の掛け合いをして遊んでいたと思いま

          真澄ちゃん、元気ですか。