見出し画像

そのうねりが歴史を作る「天幕のジャードゥーガル」感想文

※本noteは「天幕のジャードゥーガル」に関するネタバレを含んでおります。


はじめに わたしの歴史レベルについて


わたしは歴史が好きである。
といっても頭がよろしくないので、本当に素人レベルなのだが。
その上興味があるジャンルが偏りすぎている。

たとえば、昨年の大河ドラマである「鎌倉殿の13人」は大変興味深く視聴した。理由は全く史実を知らないからである。
正確に言えば、源頼朝のことは教科書レベルで知っているし、その後息子の頼家、実朝が若くして亡くなったので頼朝の血筋が絶えたことは知識としてある。だがその詳しい部分を全く知らなかった。
なので詳しい人がX(旧Twitter)でいろいろ解説してくれて、大変ありがたかった。

逆に、現行放送の「どうする家康」は、戦国時代の知識がそれなりにあるので、「ここをどうするのか?どう描くのか?」という点で注意深く見ていた。とはいえ知識不足で知らない部分もあり(田鶴姫の件は恥ずかしながら伝承すら知らず……)、そういう部分は昨年同様に楽しんだ。
今後はわたしの推し武将である大谷吉継が登場予定で、大変楽しみである。もともと役者さんがハンサムなので僥倖と思っていたが、公開された扮装は美丈夫な文官という感じで、わたしの心に突き刺さった。

ある程度日本史なら知識があるが、海外に至っては全く駄目である。
高校時代の世界史はさんざんだった。名前が覚えられないのである。
なのでモンゴル史に関しては全く知識は皆無だ。
そんな私が読んでいるのは、「天幕のジャードゥーガル」という漫画である。

天幕のジャードゥーガル 1 (ボニータ・コミックス

全てをなくして

時は13世紀、学者一家の預かり奴隷となった少女・シタラ。彼女は美人だったので、教養をつけさせれば高貴な人のそば仕えになろうという奴隷商人の魂胆だった。
遠くに行くのは嫌だと脱走を試みるが、一家の息子、ムハンマドから「知識、勉学の大切さ」を教えられ、考えを改める。
奥様であるファーティマや塾を営むその兄、ほかの奴隷たちとも打ち解け、平穏な日々をくらしていた。
そんなある日、シタラの住む街をモンゴル帝国の皇子・トルイの軍隊が襲う。奥様・ファーティマを目の前で亡くし、捕虜としてモンゴルへ向かうことになったシタラ。その道中でファーティマの兄、さらには別の都市で勉学を学んでいたムハンマドも死亡したことを知らされる。ほかの奴隷仲間も亡くし、一人になったシタラ。
そんな中、トルイと一緒に行動していた少年・シラと再会し、トルイの妻・ソルコクタニの下で働かないか、と持ち掛けられる――――――。

ざっくりと一巻の途中までのあらすじを書いてみた。
ここまで書いてきて二連続で主人公が家族同然の存在を序盤で亡くす話じゃねえかと我ながら突っ込んでしまった。
でも物語というのは得してそういうものなのかもしれない……。
※ちなみにもともと天幕のジャードゥーガルの方を先に読んでいたのだが、この偶然の一致に思わず改めて読み返した次第である。

主人公シタラはのちのファーティマ・ハトゥン。
タイトルはそのまま彼女のことを指すのだろう。

歴史ものなのでネタバレもくそもない、とおもいWikipediaのリンクを貼らせてもらった。
何も知らないで読みたい人は上記リンクを踏まないこと。

運命の出会い

天幕のジャードゥーガル 2 (ボニータ・コミックス)

二巻で月日はシタラがモンゴルにたどり着いてから八年経過したことが明かされる。
ソルコクタニのもとに仕えていたシタラ改めファーティマは、トルイの次兄・チャガダイのもとへ潜入するよう伝えられる。
だがその途中で、皇帝となったオゴタイの妃・ドレゲネのもとにたどり着く。そこでドレゲネと秘密を共有しあい、モンゴルへの復讐の火を燃やしていく。

ファーティマとドレゲネがどのように出会ったのか、おそらく残された資料は少ないのだろう。
だが心の奥底でモンゴルへの恨みが消えぬ二人が結託するシーンは、胸が熱くなった。
その先に何があるのか、二人はまだ知らない。

可愛らしい絵柄で紡がれるモンゴルの歴史


トマトスープ先生の絵柄は、なんとなく絵本的というのだろうか。独特の可愛らしさがある。
その絵柄ゆえんか、モンゴルのことを何も知らなくてもすっと入っていける。これはなかなかできることではない。

そしてその可愛らしい絵柄で、味方から見れば勇壮な、敵から見れば恐ろしいモンゴル軍の行進が描かれる。その容赦なき蹂躙の様子も。
見せしめ的に捕虜を淡々と殺害していく様は、本当にサバイビーのスズメバチに近い。
外来からの敵による急襲、というのは変におどろおどろしくせず、淡々とする方がかえって怖いのだな……。
そのほうが、「絶望的な存在」としてインパクトが強いのかも。

ファーティマがイラン出身ゆえ、時折モンゴルの習慣に関して説明が入るのもありがたい。
掲載されているスーフルでは、「もっと!天幕のジャードゥーガル」というさらに詳しい解説が載っている。
ちゃんと読んで勉強しよう。うん。

そのうねりの果ては

現在、本作は三巻まで発売されている。
天幕のジャードゥーガル 3 (ボニータ・コミックス)

三巻ではさらに物語が動く出来事が起きる。
二巻終盤から登場したオゴタイの第一皇后のボラクチンとの出会い、彼女を利用してモンゴルを滅ぼす足掛かりとしようとするファーティマ。
だがボラクチンの方が一枚も二枚も上手であった。
この後宮の陰謀策謀というのは、歴史もののうまみと言える。日本でも平安時代なんかまさにそれが凝縮されている。来年の大河が楽しみである。
……閑話休題。
後宮の物語ゆえ、女性の登場人物も多い。
当初ファーティマが使えたソルコクタニの動向も気になるところ。

今はまだファーティマはうねりに翻弄されるか弱い存在だ。
だが上記の通りなら、ファーティマはうねりを生み出す側になる。
その時、彼女の本心はシタラのままか、それともうねりの果てに飲み込まれてしまうのか。

歴史ものはすでに最終回が決まっているようなものだ。だがそれゆえ、「そこにたどり着くまでに何があったのか」は紡ぐ人によって異なる。

ファーティマの歩む道はどうなっているのか、わたしは見届けたいと思う。

この記事が参加している募集

読書感想文

(*‘∀‘)いただいたサポートは有効に活用いたします!