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至高の刻を味わう私のお酒じかん


ついね、むしょうに飲みたくなるんですよ。そんな瞬間があるんです。何かのタイミング(きっかけ)があって、ふと学生の頃を懐かしく思い出す……そんな刻がね。そんなときは、学生の頃によくお店で作ってもらったカクテルが飲みたくなる。


もうどのくらい前かなあ…なんて長い歳月の流れを確認するかのように記憶の時間の泉を遡ってみたりして。小田急線の駅名にもなっている東京都町田市にある学園に進学して、一人暮らしを始めたばかりの頃だった。部活の先輩から初めて連れていってもらったカクテルBARがある。大人の世界にめちゃくちゃ緊張した。懐かしすぎて、思い出すと今でも一人で笑ってしまう(笑)

お店の名前は、cocktailBAR渋谷 門(もん)。
東京都渋谷区のセンター街にあって木造の平屋建てにびっくりした。まだ昭和現役の頃だったから今の令和の時世に使われている“昭和感”なんて言い方などではなくて、戦後の復興期を彷彿とさせるといったレジェンドを感じさせるような感覚だった。そんな年季が入ってる風格の店構えに、学生が飲みに来るなんて場違いなのではないだろうか?とさえ思いつつ、先輩に誘われるままお店の中へ足を踏み入れたものだった。


お酒といったら、ビール、日本酒、ワイン、ウヰスキー、ブランデーという単語くらいしか知らなかった私。「カクテルってなんすか?」という問い掛けに先輩は大笑いしたあと、マジメ顔で「ハマるぞ、世界が広がるから。飲んでみろ」


いや飲んでみろと言われても、メニューらしきものを見たところで私にとってはギリシア語くらいにチンプンカンプンな単語しか目に入らなかった。ただレモンというワードに少し藁を掴めたような気休めを感じて、先輩に「レモンが入っているものでカクテル初心者にも美味しいと思えるものってありますか?」と訊ねた。


先輩は私のそのリクエストをそのままカウンターの中の店員さんに伝えた。ここは敢えてバーテンダーという言葉を避けよう。私の当時のド素人丸出し感を出そうと思うので(笑)
そして私の目の前に出てきたものはやや白濁で、その液体の中に微細なキラキラしたものが浮遊していたように見えた。その店員さんは40代半ばか後半くらいの若見えする男性で、渋くかっこいいと思うような微笑みを浮かべながら「口当たりがとても良いかと思います」と、自信と優しさが混ざったような落ち着いた口調で説明をつけてくれた。


先輩に飲み方を注意されながらチビチビと舐めるように少しずつ口の中に流す。初めてのカクテルの味。感動したことだけはしっかり覚えている。自分がどういう表現で飲んだ感想を言ったのか忘れたけれど、それに対して店員さんが「それはクリスタルキュンメルが入っているからです。個性のあるリキュールですよ」と説明してくれた。

お店を出るとき、私が飲んだカクテルの名前を聞き忘れたかもしれないと思って、作ってくれた店員さんにカクテル名を聞いたところ「シルバーブレットです」と教えてくれた。


以来、私は常連になった。一人でも飲みに行くようになった。月に一度は訪れるようになって、一杯目は必ずと言ってよいほどシルバーブレットを頼んだ。1年も経った頃ぐらいだっただろうか、ほかの常連客の方々からもまるでニックネームのように「シルバーブレットの学生君」と呼ばれたりしたものだった。

Silver Bullet made at home


小説を読んでいたり、あるいはドラマや映画などの配信サービスの動画を観ていてカクテルを美味しそうに飲むシーンとかに出会すと、そんな遠い過去の懐かしく楽しい思い出が甦ってくる。
頭の中でイメージとして思い出すだけでは飽き足らず、思い出のシルバーブレットを自分で作って飲みながら、ゆっくりと、ゆったりと楽しかった思い出に耽る。そんな時間が私にとっては些細ながらも心を豊かにしてくれる至高の刻なのです。

#いい時間とお酒

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