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天泣/あのとき、優しい雨が天使のようにきらめき舞っていたので。

()見出し画像は、Paxton Wulfric様のPinterest よりお借りしたイラストです。

天泣(てんきゅう)とは。
「天気雨」とか「狐の嫁入り」とも言われている。
上空に雲がなく晴れているのに雨が降っている状態の天気をいい、雨が上空から落ちるあいだに上空の強い風によって雨雲が遠くへ移動したり、遠くの雨雲から舞って運ばれたりすることで見られる不思議だけど優しくも思える光景。

こちらのYouTube動画の類稀なる箏曲《天泣》を流しながら、この私の忘れがたい大切な思い出の言葉の数数に目を通してもらえたら、とても嬉しいです。


先日の土曜日(3月2日)のことでした。
私の住む新潟市中央区では、珍しく雪花(雪華)が舞っていました。お昼過ぎに近くのスーパーまで買い物に出掛けたのですけれど、家を出るときは風も強く雪を吹き付けてくるので、自転車はあきらめて歩いていくことにしたんです。

家を出て10分くらい歩いてきたとき。
距離的にはスーパーまであと50mあるかないかというところまで来た所で、急に空を覆っていた雪雲が晴れてキレイな青空を覗かせました。
ビニール越しに見上げるその青空だけでも気持ちいいなあと思って、しばし立ち止まっていました。
すると左斜め後ろの方向から輝かしいほどの陽の光が射してきました。そんな晴れ間を知らせる強い陽射しにも負けることなく、むしろのその光の波に乗って、ゆっくりと舞うように降っている花びらのような雪がキラキラと輝いていたんです。

安モノの透明のビニール傘を差しているのが間違っているかのような光景でした。そのキラキラした雪花の舞うなかで私は傘を閉じました。残りの50mほどの距離が創り出す限られた空間で、快いお天気の贈り物を愉しむように、年甲斐もなくスキップしたくなる気持ちを抑えつつ、周りを見回しながらゆっくり歩いていました。

すると、何かが体のなかに入ってくるような感覚……
というより体のなかで言葉にできない感情が生まれてくるような感覚がありました。
表情では笑顔を作っていたはずなのに、頬をつたうものがありました。いつか見たような懐かしい気持ちが込み上げてきて……


……ああ、あのときと同じだなあ。


小学二年生のときの不登校になった頃に出会った新潟市立図書館の司書さん。人を信じられなくなっていた私が家族以外に信じることが出来て、友達になってくれたオトナの人。
結婚のために退職されるまでの3年間、血の繋がりもない赤の他人の私に心から寄り添ってくれて、私の人生を変えてくれた人。
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小学五年生の夏休みに入る前。
「おと君。きみはもう大丈夫だね。私との約束、できればずっと覚えていてくれたら嬉しい。星の王子さまの本を手にしたときに少しでも思い出してもらえたらいいなあ」

司書さんはそう言いながら、私と一緒に白山公園の裏通り(美由岐賀岡みゆきがおか口の通り)を私の通う小学校のほうへと雨の降るなかを歩いてくれました。

そのとき、たしか新潟県政記念館の手前辺りまで歩いてきたときでした。
ふと気づいてみると、雨はまるで雪のように軽く流れるように降っていて、見上げた空は雨雲ひとつなく青い空を見せていました。
右後ろの県民会館側から眩しいくらいの陽が射してきて、道に落ちて伸びる私の影が司書さんの影に重なって隠れてしまいました。

雨が降っているのに…と不思議な感じを覚えて、司書さんと一緒に思わず後ろを振り向いてしまいました。司書さんが優しく微笑みながら
「お天気雨だね。でも雨が優しく降っていて、なんかまるでおと君に〝がんばれ~〟って言ってくれてるみたいだよ」

子供だった私には、どうやって言葉を返したら良いのか、その言葉さえ見つかりませんでした。お天気雨のことを別名〝狐の嫁入り〟ということをそのとき知っていれば、司書さんにもっと気の利いた言葉を贈ることが出来たのだろうに。

「白石さん、3年間、本当にありがとうございました。たくさん、いろんな本を教えてくれて、一緒におしゃべりしてくれて、ボクの変な所もボクのものだよって認めて受け止めてくれて。すごく嬉しくて、甘えてばかりいたけど。結婚おめでとうございます」

私自身が言った言葉なのに、正確な言葉はよく覚えてはいないけれど、射してくる陽の光を背景にして傘を持って立っている司書さんを私はしっかり見つめながら、そんなような言葉を伝えました。

その司書さんの周りをまるで包み込むようにキラキラとした優しい雨が舞うように降っていました。私には天使たちが舞っているようにも見えました。
今なら言えます。司書さんのこれからを祝福する雨なんだって。司書さんと私にとっては別れの雨だったかもしれないけれど、〝さよなら〟の次は〝はじめまして〟なので。幸せがいっぱい待っているので。
司書さんには今もずっと幸せな人生を過ごしていてほしいのです。


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