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ジェットコースターのような幸福感の形容:陳浩基『見えないX』

推理小説を読んでいて、その展開の美しさに思わず涙した。

華文ミステリの新星・陳浩基による中編『見えないX』終盤からの引用。

記憶のなかのすべての場面、すべての言葉が、その真相と合致し、符合して、完璧な形を作りあげた。推理小説を読んでいるとき、真相が明かされる瞬間に身体がぞくりとするというけれど、現実で似たような状況に身を置くと、その感覚は言葉にできないほどに強烈だということに僕は気づいた。

クールな主人公「コーヒー」、前線でリードする「ハンチング」、斜に構えながら切り込む「パンダ目」。この作品では何一つ『事件』が起きないのに、ルールと推理の積み上げだけで、登場人物の個性は鮮やかに描かれる。ひとりひとりの推理が、見えていなかった筋道を少しずつ明らかにしていく。

最近発表された、習作を含む短編集『ディオゲネス変奏曲』の巻末に、中編『見えないX』は収録されている。実は本作単品のKindle版があるので、今回が2周目になる(ファンとしては、短編集収録によって読まれるチャンスが増えるのが嬉しい)。

1周目は、結末に素直に驚いて「めちゃくちゃおもしろい、うまいな」と思った。けど涙するほどではなかった。

いま、2周目の「真実に触れる」シーンにたどり着いたとき、著者の緻密なヒントの配置、明かす情報と明かさない情報の巧みさが本当に綺麗だと思った。

言葉が織り重なって、美しいイメージを描き出す。文学っていいなと改めて感じた。


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