Artist: Adam Matschulat
Title: Formosa
Label: Calling Cards Publishing
Genre: Experimental, Field Recording, Musique Concrete
Format: LP
Release: 24th March 2023

イギリスのロンドンに拠点を置く、ビジュアルとサウンドのアート性について焦点を置くレーベルCalling Cards Publishingより、ブラジル出身のサウンドデザイナー兼作曲家Adam Matschulatの第3作目のアルバム。

心の奥底に確かに存在する心象風景を音楽の世界で表現した内省的な本作。
作家本人がフォルモサとは「ここは私が故郷と呼ぶ場所です。」というように、心の一区画に安らぎを感じることができる場所を具よりどころ体音により構築したドキュメンタリーのような、そんな作家本人が心の拠り所とする作品に思える。

死生観をテーマとしているであろうA面では農作業中の農場、テーブルの会話、羽虫の羽音、夜の虫の鳴き声、ドイツ歌曲、賛美歌など、平和な家庭の日常をテーマとしているであろうB面ではボウルにゆで卵を入れる音、電話の音、シンク、皿、ジャガイモなどの音が、泡沫のように浮かんでは消え、作家の記憶の走馬灯の一部を追体験できる。フィールド録音や物音の最たる特徴の一つは、音としての性質以外にも一般生活における共通認識としての生活状況を明確にイメージしやすい点にあることも追体験を加速させる要因になるのであろう。

刺激を求める音楽がありあふれているように、小説やドキュメンタリー映画のようにある人物の人生の一部分を切り取った音像を見せる音楽はここにある。フォルモサはきっとジャケットのような、都会の喧騒とは無縁な静かな場所なのだろう。