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宇宙人ユーキチの妻の話。

宇宙人ユーキチの妻。
そう書いたのは、2013年の12月でした。
2013年10月20日、突然この世界から姿が見えなくなった主人。
何が起っているのか、何がどうなってるのか、わけがわからずでした。
元広告批評のスタッフの中でも、私たち夫婦のことをよく理解している数名、そして朝日新聞社の主人のコラム「天野祐吉のCM天気図」を担当してくださってた数名の方が、ただ茫然としている私に「伊佐子さんは何もしないでください。私たち(僕たち)でやりますから!」と支えてくれました。
10月20日、病院の安置室で横になってる主人を、すぐに家に連れて帰りたい!あんな白い着物なんか、オレ着たくねえ!って言ってたから早く脱がしてあげたい!あんなの祐ちゃんじゃない!
そう言ったのは覚えています。
お互い、死んだらどうしたい?という話はしてました。
私は、「私が死んだらハワイのラハイナの海に散骨して欲しい」と、主人に伝えていました。
そしたら主人も、「オレも散骨がいいやあ。死んだら無になるんだから、墓なんていらねえや。葬式もオレがいないのにしてもしょうがねえ。墓のない人生ははかないなあ〜笑」(←主人、このCM好きだったんです)。
親しいスタッフにも、葬式なんていらない。偲ぶ会もいらないぞ。でも、偲ぶ会を君たちが勝手にやるのならいいよと。
通夜、葬儀がないってことは、何もないんです。
主人がマンションに到着する前に、マンション側にいるスタッフが我が家にある布団を探しリビングに持っていくのだけど、どの布団にしていいのかわからないから私に電話が入る。
そして、主人が気に入ってる洋服を探すスタッフも、どれにしていいのかわからず私に電話が入る。
ドタバタわしゃわしゃ状態の中、主人と一緒に家に戻って、主人が最近気に入ってよく着ている洋服に着替えてもらいました。
布団も、天野家全員が寝てるベッドの布団をリビングに持って行きました。
祭壇も何もない。ただリビングに主人が寝てるだけ。
チワワンズ4匹も、何がどうなってるのかわからない感じでした。
でも、パパが寝てる?パパが帰ってきたの?と、主人の顔を見たり、ペロペロ舐めたりしながら確認していました。
4匹とも、主人が寝ている布団に寄り添って寝はじめました。
その日の夜、みんなが帰ったあと、私も主人の横でチワワンズと一緒に数日間寝ました。斎場に行くまで一緒でした。
お焼香もない、線香もない、祭壇もない。
慌てて駆けつけてくださった方たちも、一瞬、えっ?って顔をされるんです。
でも、説明をしたら、全員、「天野さんらしいなあ」って。
このあたりのことって、まだフタが閉じられているし、書く作業もキツいですね。今度ゆっくり書きますね。


「宇宙人ユーキチの妻」の話に戻します。


主人は、朝日新聞に1984年から2013年まで、当初は「私のCMウォッチング」、それからタイトルが変わり「CM天気図」というコラムを一度も休むことなく29年間、書いていました。
その中から、150余のコラムを抜粋して『天野祐吉のCM天気図傑作選』を、朝日新聞出版社の方が出したいとお声がけいただいたんです。
その150余のコラムを奥さんに選んで欲しいということでした。
1998年に主人と出会ってから、CM天気図を書く時はいつもそばにいたし、原稿ができたら一番に私に読ませて反応を見たり感想を聞かれていたので、そこからのCM天気図はよく覚えているんです。
この作業、3週間くらいしかなかったなあ。
でも、一つ一つのコラムに、主人のそのときの表情が見え、そのとき言った言葉が聞こえたんです。
いま思えば、もっと冷静になってから150余を選ベばよかったと思います。
この本の150余のコラムは、主人が書き終わったあと得意げにしてたコラムが多いんですね。
始まりは、橋本治さんが書いてくださった「CM天気図」に寄せて。


それから、抜粋したコラム。
そして、

クリエイティブディレクター、渋谷のラジオの理事長でもある箭内道彦さんが「面白がるセンス」を書いてくださいました。
締めくくりに、私があとがきを書かせていただきました。
最初は、ちゃんと書かなきゃいけないと思って、主人はどうたらかんたらで、誰々に感謝してとか、ああでもないこうでもないと悩みながら書いてたんです。
そのとき、主人の声が聞こえました。
「伊佐子、もっともらしいことを書くんじゃないよ」と。
あっ!そうだ、そうだった。私、カッコつけてた。
それから、スラスラ〜って、つまることなく書けたのが、「天野祐吉の横顔」なんです。
このとき、もしかしたら主人がかわりに書いてくれたのかも知れない(笑)。


祐ちゃん、宇宙人だったんだろうな。
今は、故郷の星にちょっと地球のことを報告しに行ったんだろうな。
私は、宇宙人と結婚してたんだ!って、そう思ったんです。

そして、最後に、宇宙人ユーキチの妻 天野伊佐子と書いたんです。
きっと故郷の星は遠い所にあるんでしょう。
だから、主人はまだ宇宙船の中にいると思います。
報告して地球に戻って来るのには、地球時間で計算すると何十年になるのかも知れません。
その帰りを待っているんです。
「ただいま、伊佐子〜!」って、ギュッと抱きしめてくれる日を待っているんです。

未亡人だけど愛する主人と一緒に、楽しく生きてまいります!渋谷のラジオ(FM87.6MHz)「渋谷の寡婦さん寡夫さん」では、サントリーのほろよいを必ず買って飲みながら番組やってます。できればサポートお願いします。ゲストのみんなのほろよい代に使います!