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コラム_自然ガイドとして「ことば」と向きあう

こんにちは!森から庭まで、まちの色んなところで自然ガイドをしている、おおくまですm(_ _)m

noteでは自然ガイドのしごと内容の紹介や、さんぽが楽しくなる自然観察のコツなどをご紹介しています。


みなさんは、誰かと話をするのはお好きでしょうか。
おおくまは子どもの頃から人と話をするのが好きで、いまも自然ガイドをする中で沢山の人とお話ができて幸せだなぁと感じています。

ある自然観察会のようす。写真左がおおくまです。

「これがいい香り?いやいや、くさいでしょ!」
「サクラの皮って、箱に張ったりするよね」
「赤色?これってオレンジじゃないの?」

・・・といった具合に、誰かと話をすると自分の中にはなかった感性や視点、知識が流れ込んできます。それがまるで、山の端から顔を出した朝日に全身がつつまれるように感じられて、浴びていてとても気持ちが良いんです😊

自然ガイドをする上で「ことば」はとても大切です。

なぜなら自然ガイドという仕事は、参加者の方に自然の味わいかたや楽しみかたを伝えたり、参加者みんなで感じたことを共有したりするなど、自然と人、人と人とをことばで渡す機会がとても多いからです。上手にことばを使うことができれば、相手に伝えたいこと、表現したいことを過不足無く渡すことができます。

「ウインナーって焼いたら弾けて裂けますよね。この木の裂け目も水分のはたらきで内側から裂けたんです」
「樹木を移植する時に、あらかじめ根の端を切ってほぐしておくことを"根回し"といいます」
「セミの子どもにとっては、地面の中が"世の中"なんです」
こんな感じです。

ただ、ことばはすてきで危ういもの。
ことばの選び方、速度、タイミング、載せる気持ちの強さを大きく誤ってしまうとたちまち誤解を生み、伝えたいこととは別のことが相手に渡ってしまいます。

「特定外来生物は人間の敵なんですね」
「おおくまさんはカラスが大好きなんですね」

いずれも過去に言われたことで、事実と異なることです。こうした誤解を「いかに少なくするか」は、自然ガイドにとって大切なテクニックのひとつです。

誤解を少なくするテクニックはいくつもあります。いろいろある中で、おおくまの話し方を大きく改善したことは次の2つです。

1.コミュニケーションは基本的に失敗するものだ、と覚悟すること
2.会話の中で相手が使ったことばを使うこと
3.ことばの限界をはっきりさせること

1.コミュニケーションは基本的に失敗するものだ、と覚悟すること
→ 人はそれぞれ日頃から触れていることばが違います。たとえば僕の家族と、あなたの家族が使う言葉は違うでしょう。また、熟語やことわざを日頃から使い慣れている方もいれば、「ヤバい」「エモい」という言葉のほうが通じ合えると思っている人もいます。話し手と聞き手とで聞き慣れている(扱い慣れている)ことばが違うのが普通です。だから、自分が言いたいことが一発で相手に誤解なく伝わるということはめずらしいです。というか基本的にないです。「コミュニケーションは基本的に失敗する」。あらかじめこう思っておくことで、話すことによる失敗への恐れが少し和らぎ、さらに丁寧にことばを選ぼうとする姿勢が生まれます。これは僕にとってとても大切なことです。

2.会話の中で相手が使ったことばを使うこと
→ これは1の発想を逆手に取った考え方で「相手がすでに言ったことばなら通じやすいんじゃね?( ^ω^)」という発想に基づくものです。パソコン風に例える相手のIME辞書に登録されていることばを使うという感じです(わかれ)。たとえば、過去にこんな事がありました。自然観察会のワンシーンで、乾いたコケに触れてその手触りを観察する時間があり、そこであるお子さんが「このコケ、おじいちゃんのヒゲみたいにざらざらしてる」と言いました(とても家庭的な、温かな感想で胸がほっこりします(*´ω`*))。その後にぼくから「じゃあ、こっちの木にくっついているコケも触ってみて?おじいちゃんのヒゲに勝てそうなコケだよ❗」と伝えました。すると、その子はコケに触れて硬さを確かめ、にへっと笑って「おじいちゃんのほうが強い」と答えてくれました。

ただ「このコケは硬いよ」と解説すると、痛いかもしれないと思って触るのをためらう子がいます。ここでは「おじいちゃんのヒゲ」を引き合いに出すことで、コケの硬さのレンジ(範囲)を示し、抵抗感を和らげる(先入観による誤解を解く)ことに成功しました。さらに、お子さんの頭の中にあるおじいちゃんのヒゲの感触を比較対象として使い、その子がコケのかたさを敏感に感じとる機会ができたのです。

少し似た例で、相手の属性に基づいた例え話をするというテクニックも有効です。たとえば、ギボウシという春の山菜の味をお子さん連れのお母さんに説明するときには「甘い小松菜みたいな感じです」というと、頭の中でイメージが結ばれて「へぇ~!」と言ってくれます。山菜に対する漠然とした不安を払拭できた瞬間でもあります。相手の中にあることば、すなわち相手にすでに備わっている経験や価値観を引き合いに出すと、話が通じやすい事が多いです。

3.ことばの限界をはっきりさせること
→ 人間、話をすることにエキサイトしてしまうと、ついついビッグマウスになってしまいがちです。そういう生きものです。でもそれは、ともすれば嘘を言ってしまうことにもなるので、褒められたものではありません。自然ガイドは随筆家ではないとぼくは思います。だから、自然ガイドは人を楽しませる事があっても、そのために事実を自分の解釈で歪めては「自然」ガイドとは言えないと思っています。たとえば「オオタカは最強の猛禽類です」と断定形で解説するのは良くないと思います。なぜなら、オオタカが最強の猛禽類であることは、一般的に明らかになっている事実ではないためです。オススメしませんが、どうしてもオオタカを「最強」ということばを使って解説したいのであれば「オオタカはぼくにとっては最強の猛禽類です」と、表現に限界を設けるべきです。「カラスは嫌われ者です」というのも良くはないとぼくは思います。全人類がカラスを嫌っているわけではないからです。言い換えるなら「カラスはヒトに疎まれがちな鳥です」といったところでしょうか。限界と書きましたが「形容詞や解釈の守備範囲を示す」と言い換えるべきかもしれません。

繰り返しになりますが、自然ガイドはとても"ことば"と関わりの深い営みです。整然とした文章に触れ、ことばを選ぶクセをつけることが大切です。なのでぼくは「良いなぁ」と思った文章にブックマークをつけて読み返せるようにしたり、ことばに迷った時にいつでも使えるよう卓上に国語辞典をおいています。日頃からのちょっとした備えが、よい自然ガイドの仕事をつくると信じています😌

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