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人の心にイノベーションの火を灯す場所- 【Innovation Quest】vol.4 IHI i-Base

2021年度秋より、イノベーション現場のリアルを知るべく、i.school生がアクセラレーションプログラム/イノベーションセンターを展開する企業へインタビューを行う連載企画【Innovation Quest】をスタートしました!
今回はvol.4として、IHIさんにお邪魔しましたので、その様子をお届けします。

連載企画の趣旨はこちらのnote記事にてご覧いただけます。


■i-Baseについて

i-Baseは、デザイン思考やアート思考を活用して、顧客の課題発見から解決のためのソリューションを生み出すために、2019年5月に設立された。

■プロフィール

岩本 浩祐さん
技術開発本部 技術企画部 企画推進グループ長

鈴木 拓也さん
技術開発本部 技術企画部 連携ラボグループ 主査

石場 舞さん(オンライン参加のため、写真なし)
技術開発本部 技術企画部 連携ラボグループ 主査

■i-Base設立の経緯

ーまずはじめに、今回このi-Baseが設立するにあたって、デザイン思考やアート思考といったものがIHIの推進するオープンイノベーションの文脈と相性がいいと考えられた、会社内での経緯をお聞かせください。

岩本さん:i-Baseを設立する前に「つなぐラボ」という場がありました。
2014年に開設して2019年までに1万5千人くらいの方に利用いただきました。その中でいろいろな方とお話しさせていただきましたが、そこから何かこうと言える成果が生まれませんでした。

「つなぐラボ」では技術マッチングという形で、「この問題はこの技術で解決できますね」とその場ですぐに事業部門に引き渡して課題解決することを目指しましたが、ほとんどの場合、そのように都合よく問題を解決できませんでした。

単なる技術マッチングではなく、お客様の課題に対して「それってどういうこと?」「それってなんだろう?」というそもそもの課題の深掘りや課題の抽象化をしながら、どのように課題に取り組んでいくのかをお客様と一緒に議論しないと先が見えないことが多くありました。

ということで、このi-Baseは、お客様の単なる課題解決ではなく、社会課題やお客様の課題の奥にあるものを一緒にディスカッションしながら、どのようにそれらを解決していくことができるかを考える場を作ろうとして出来上がったものになります。

インタビュー場所のi-Base

そのため、i-Baseには、お客様の持つ課題がどのようなものなのかを考えるディスカッションのためのスペースから、解決のためのソリューションを実際に手を動かして作り上げていくスペースまでが一通り揃っています。
例えば、ガレージと呼ばれる手を動かす場所があり、そこでMVPやCADで作ったモデルを用いて実際の製品のアイデアを検証し、方向性を考えていきます。

もう一つの大きなi-Baseのコンセプトは、IHI社内メンバーのみで使うスペースではなくて、お客様と使うことが前提となっているということです。i-Baseに入るための出入り口も、今はコロナの関係でセキュリティがかかっていますが、基本的にお客様は自由に入ることができます。

今まで、IHIグループの人間だけでやってきて、何も生まれてこなかった。そうであれば、外部の知を積極的に入れていこう、という上の考えがあって、外向きな場所として作ってきた、というのがコンセプトになります。

まとめると、オープンイノベーションのように、社外の人と事前に一緒に組んで何かをやりましょう、というよりも、お客様と課題を見つけるところから始めて、課題を解決するために足りない部分を外から呼んできて、いろいろな方々を巻き込みながら進めていっているのがi-Baseの仕事の仕方ですね。

■課題解決型から課題発見型への転換

ーお客様が持ってきた課題を解決する、という形から、お客様と一緒に課題を発見するところからスタートする、という取り組みに転換されたとのことですが、この転換をするにあたって、社内で工夫したところをお教えください。

鈴木さん:どうしても、お客様からご相談いただいた課題を解決するだけでは一社の課題解決で止まってしまいます。課題解決は確かにお客様の信頼やロイヤリティにつながりますが、ビジネスとしてはそこで止まってしまう可能性が高いと感じています。

そうではなく、一社の課題を社会課題として俯瞰して捉えて,一般的な話に広げていける形にしようと努めています。具体的には、少し課題を抽象化したり、社会課題の解決として事業が膨らむ可能性を考えるように工夫しています。従来のように課題をお伺いする姿勢から、共にディスカッションできる形へとやり方を変えています。

ーデザイン思考やアート思考といった言葉はその文脈で出てくるかと思うのですが、具体的にこの施設内で、アート思考やデザイン思考を使った取り組みはどういったものがありますか?

鈴木さん:i-Baseにはプロジェクトブースと呼ばれる四つの部屋があります。基本的にはそれぞれの部屋に一つのプロジェクトが入って、短期集中で技術検証や事業検討をやり切ることにしています。

その開発プロセスのスタイルとしてデザイン思考を使っています。私を始めとしたi-Baseのメンバーがプロジェクトに加わり、デザイン思考を使いながらプロジェクトに伴走して支援しています。

事例として、石場が担当する感染症対策の事例について紹介します。

石場さん:ブースで回しているプロジェクトの一つに、グループ会社のIHI物流産業システムと我々が連携しながら進めている感染対策デザインラボというプロジェクトがあります。

感染対策デザインラボは去年の10月から活動を始めています。IHI物流産業システムがもともと感染症対策製品を扱っており、新型コロナウイルス感染症が流行したことをきっかけに、さらに感染症対策の価値を見直そうとしたことが背景になって立ち上がりました。

感染症対策という指標だけだと、社会活動ができないというお客様自身の課題に手が当てられていないという状況がありました。

感染対策の知見を持ちつつも、本来の社会活動を復活させるために何ができるのか、どういった代替手段がソリューションとして考えられるのか、ということをお客様と一緒に議論しながら、各業界のソリューションを作り上げていくという活動がこちらのプロジェクトのコンセプトになっています。

i-Base内のプロジェクトエリアの様子

先ほど、鈴木も申し上げましたが、IHIだけで何かを解決できるとは思っていません。お客様をi-Baseにお呼びして、お客様の知見が深い業界や感染症を起点とした現場の課題を、お客様に語っていただきディスカッションすることで、異なる視点での課題抽出を行っています。そこから今後どういう姿に向かっていきたいか、それに対してどういったソリューションが必要か、ということをお客様と一緒に作り上げていく活動内容になっています。

仮説を立てて、それに対する価値検証を行い、必要な時には前のステップに戻るという形で進めています。

デザイン思考やサービスデザインの手法を取り入れ、お客様と一緒にビジョンづくりから、仮説検証を経てソリューションや商品へ落とし込むというプロセスを行いました。

活動内容としてはデザイン思考とサービスデザインをかけ合わせたようなプロジェクトとして進めていますね。

感染対策デザインラボでは、「車両、大型商業施設、オフィス、高齢者施設、観光・宿泊施設、教育関連」といった業界を中心に活動しています。

この感染対策デザインラボの活動自体に共感いただくことは多くて、ここにまだ描き切れていないほどのお客様が結構いらっしゃるというような状況になっています。

感染対策デザインラボの紹介をする石場さん

鈴木さん:ブースプロジェクトの伴走では,デザイン思考だけでなにかやろう、というわけではなく、サービスデザインや未来洞察といった様々な方法を組み合わせています。

IHIのビジネスには特殊なものが多く、B2Cのところはあまり多くありません。だからこそ、世の中にある手法をそのまま取り入れるのではなく,IHIに合うような事業の作り方を中心にディスカッションしてきました。

i-Baseのブースでお客様と我々でディスカッションしている様子を見てみると、普段スーツを着てがっつり会議していらっしゃる方々が、3時間も議論しているうちに、疲れてみんなジャケットを脱いで座り方も楽になってしまうんですね。そのくらい、議論し尽くしているのが印象的です。

何かテーマを探しましょう、というより、お客様と一体になって仮想チームのような形で議論する感じになっています。

ーチームという話題が出ましたが、i-Baseを立ち上げてから、予期せず違う会社同士の人が仲良くなった等、もともとは想定していなかった成果ができることはありましたか?

鈴木さん:なかなかそこまでは至っていないですね。
我々とお客様の間でいろいろなやり取りはありますが、そこにもう一社が入って三社で一緒にというところまでは行けていないかもしれないです。。

お客様の課題をしっかり聞いて、求めるものを一緒に作っていくスタイルだと、なかなか三社のやり取りに発展していかないといいますか。そこは今後の課題だとは思っています。

複数社で何か新しい取り組みはできないのか、ということで、i-Baseではなくて、つなぐラボを中心にして仕掛けたこともありましたが、やはり複数社でやりましょう、という話になると難しいんですよね。

理由としては、その技術は欲しいんだけど、そのメーカーさんでなくても良いといったように企業同士のミスマッチが生まれてきます。はじめに、この製品はこのメーカーで、ということを決めてしまうと、実はそれって後になると制約になってしまうんですね。

そうではなくて、少しずつ足りない機能を増やしていったり、ステークホルダーを巻き込んでいくスタイルのほうが結果的にはうまくいくのかなと思っています。

横田さん:私もすごい納得感があって、お互い本気でプロジェクトに臨んでいると、今おっしゃったような衝突が必ず発生するし、そういう衝突が見えてくると、本気になり切れずにとりあえずお付き合いしよう、っていうことが起きてくる。

結局、衝突するか、お見合い状態になるかのどっちかに落ち着いてしまいそうなんですよね。やっぱりそこはやり方を変えないとまずいんだろうなと思っています。

新しいことへのチャレンジを促進するi-Baseの場の力を語る鈴木さん

■i-Baseがもたらした社内外の変化

ーi-Baseができてから、社内の雰囲気がこう変わってきた、こういう意識ができてきた、という変化はありましたか?

鈴木さん:そうですね。一つ場所があることによって、そこに来た人たちはある種、何をやってもいいというような気持ちが芽生えた気がします。

i-Base外の執務室で同じようなことをやろうとしても、発散しきれないことがあると思いますが、i-Baseの活動の一部としてやることで、少し距離を置いて、気持ちも前向きになってちょっと試してみようか、ということができると思っています。

いろいろな実験をやっていますが、徐々に今までできなかったような新しいことにチャレンジしたい、っていうことができているので、場の一つの効果を感じています。

ーこのi-Baseの運営の方はどういったところからリクルートしているのでしょうか?

岩本さん:もとは、こういう場所でファシリテートができる人材を集めよう、という感じでした。

やっぱり、人前で思っていることを伝えられないといけないし、それを人に納得させて腹落ちさせた上で動いてもらう必要があります。そうしたことができる人をリストアップして、この組織に来てもらうことが多いですね。

ー人材の集め方としては、やりたい人に手を挙げてもらうという方式もあると思うんですが、それはしなかったんですか?

岩本さん:そういう話も確かにありました。
社内でイノベーションを起こす施設で働きたい人を募集しよう、という風にしてしまうと、すごい人数になってしまうことも考えられたので手挙げ式にはしませんでした。

一方で、異動しないまでも、ここでやってきた新規事業の提案の活動とか、新たなチャレンジには多くの人に参加してもらいました。技術開発に取り組んでいる400人のうち、20~30人はしっかりと経験をしてもらっているんですね。

なので、そういう形でi-Baseの活動に参加して、デザイン思考のイノベーションプロセスを学んで、また自分の仕事に持ち帰るっていう人は増えているんじゃないかと思います。

これが加速すると、イノベーションのハードルが下がって、全社の雰囲気とか、風土も変えられるんじゃないかなと思いますね。

社内のイノベーションプロセスの推進について語る岩本さん

ーi-Baseで活動をされた方が職場に戻ってみて、雰囲気が変わったとか、こうしたことが起きた、といったエピソードはあったりしましたか?

岩本さん:そこは今我々の課題になっています。i-Baseでの活動もそうですし、デザイン思考研修というIHIグループ全体に行う研修があるんですけど、研修を通じて、ユーザー視点を強めるやり方を学んでいるんですね。

そうすると、職場に帰った時にいざデザイン思考を実践しようとすると、周りを説得したり、言い換えると周りを巻きこんで、ということが必要になります。多くの場合は職場は説得しないと動かないわけですね。

この、人を説得するという取引コストが結構発生してしまっていて、それをどうにかしないといけないっていうのは全社の取り組みとして問題視しています。

4月以降は、実際に手を動かせる人材と同時に、職場の雰囲気とか、新しいことに対する理解を加速させようという話をしています。

だから、キチンと手を動かす人を育てると同時に、プラスその人たちがちゃんと動けるように職場を変えるための普及活動も同時にやらないといけなくなっています。今この瞬間にポジティブな影響が生まれているかというとそうではないです。

ちょうど今後何年かで、出口イメージとして手を動かせる人材や理解者をどれくらいの人数育てるべきなのか、ということを議論しているところで、長い目でやっていかないとだめだと思っています。

ただ、デザイン思考研修を受けたメンバーが我々にメールや電話で質問してくることは増えていて、コネクションができている節はあります。コネクションがどんどん広がっていくと、ポジティブな変化につながっていくんじゃないか、という期待はありますね。

ー社内でも認知度は上がってきているが、まだ全体として広がりきってはいないという感じでしょうか。

岩本さん:全社で3万人いるので、そのうちの例えば10%に活動を理解させようとすると、3000人に活動を理解して貰う必要があるわけですね。3年でその人数にアプローチしようとすると、年に1000人デザイン思考研修を受けてもらうことになるので、結構な作業になります。

去年と今年度で100人くらいに研修を実施したんですが、その人数でも運営側が足りませんでした。それが1000人となるとなおさら大変だと思います。

そうすると、手を動かして実際になにかできる人と、理解して応援してくれる人、その両方がいればいいのかなと思います。

また、全員が完璧に理解して何かをやれる必要もないと思います。
ご存知だと思いますが、日立さんが2023年までに全社員にデザイン思考のレクチャーを行う、という計画を数年前に出されていて、結果はどうなっているかまだわからないんですけど、なかなかチャレンジングな計画だと思います。

ー組織内で実際に手を動かせる人と、理解して応援できる人を増やすこと、というのが大事なことだと思うのですが、そういう人たちを増やすために、i-Baseのモデルを他の場所で利用することは考えていますか?

鈴木さん:我々みたいな製造業のイノベーションって、なかなか違ったものを生み出せないんですけど、お客様と一緒に活動して、その環を広げていけたらいいなとは思っています。ただ、まだまだできていない部分は多いと思います。

ーネックになっているのはどういった部分でしょうか?

岩本さん:やはりオンラインで込み入った議論をするのは難しい、ということがありますね。対面でお話させていただくと、この人はここに興味を持っているなとか、ここには関心はないんだな、と思いながら議論できるんですけど、オンラインだとそこまではわからないので突っ込んだ議論が難しい。

ただそうはいっても、様々な業種の方がいらっしゃる中で、「IHIさんこういうものも作っているんだ!うちもこういう物を作りたいんだけど、どういうことをやっているか教えてくれませんか?」というふうに伺っていただくことがすごく多いんですね。

だから我々が一緒になってなにかやる、というよりは、我々の活動をご紹介して、あとはメーカーさんに実装していただく、という形ですね。

そういう見学を通して、なにか持ち帰っていただけているのかなと。
我々はうまく行ったこともうまく行かなかったことも含めて何も隠しはしないので、包み隠さず様子をお伝えしていますね。


■オンライン化がもたらしたスピード感

ーコロナの状況でなにか変わったことってありましたか?

鈴木さん:最初はこの場に集って、新規事業提案とか、アイデアを創出するということをやりたかったというのはあったんですが、2年目からコロナの状況になって、バーチャル上の場でそういったことをどういうふうにやるかに注力してきました。

弊社ではTeamsを使っていますが、新しいアイデアを提案してもらうときに、チームごとにチャネルを立ててやり取りをしました。
自身のアイデアを投げ込んで、壁打ちできるような場を用意することで、考えたものに対してみんなでコメントを一気につけたりとか、「こういう事業はどうですか?」という意見交換をする場は割と進んできたかなと思っています。離れた場所にいる人もそこに合流してチャットがすごいことになっています。

そういったコミュニケーションが成り立った上で、ここに来てもらうことが濃いディスカッションにつながっているんじゃないかとは思います。

1年目に比べて、2年目・3年目は深堀りしていくようなコミュニケーションが多くなっています。

なにより、オンラインだとファーストコンタクトが楽になったので、お客様に課題を伺うことは前よりも進んでいる気がします。

ー今まで、プロジェクトを何本か走らせてきて、こういうプロダクトがうまく行った、こういったアイデアが実装まで至ったといったエピソードはなにかありますか?

石場さん:先程の感染分野のお話で、第一号のお客様が車両業界のお客様なんですね。
そのお客様と次世代の新しい車両を作ろう、ということでi-Baseまで来ていただきました。

初めて来ていただいたのが11月で、12月が初回のディスカッションだったんですが、それから2回ぐらいのディスカッションを経まして、1ヶ月後には車両業界の方と我々で、車両の空間に対してこういったソリューションを作りましょう、という案を作り上げてしまいました。

その後には、どのようなコンセプトがユーザーに受け入れられるのかを展示会を使って検証し、そこに導入する試作を同時に作っていき、今まさにその試作評価っていうところまで進んでいますね。

つまり3ヶ月位でソリューションを作り上げるところから試作検証まで行い、評価が進んでいけば5ヶ月位で商品のソリューションを全部提供する形での商品化まで進むようなスピード感で進めているという感じですね。

これはお客様にもおっしゃっていただいていますが、i-Baseの中がグラフィックレーコンディングのように、同じ一枚の絵を見ながら一気に案出しをしていくのが良いのではと思っています。

1日で出るアウトプットがそれまで会議室でやっていたような会議とは違ったスピード感で進められたことが良かったのではないか、と実感しています。

お客様からも、あの環境だと意見を言いやすいとか、集中して一つのものを見ながらみんなで案を出し合うだけでこんなにアウトプットの仕方が違うんですね、ということをコメントいただいていて、スピード感を持ってアウトプットを出していくことが大きく影響しているのかなと思いますね。

また、グループ会社と一緒に製品を作るところまでやっていくと、試作を作るところで、今までだったら何回も評価レビューを重ねて作るところを、その一部を適切に省略して一気に作ってしまいます。その影響も受けて、グループ会社の開発プロセスみたいなところも変わりつつあるかなと思いますね。

i-Base内のアート作品

ーi-Baseでの開発が、通常の商品開発や製品開発と比べてどのくらいの速さであるのかの比較材料として、通常の場合だとどのくらい製品開発に時間がかかるのでしょうか?

岩本さん:大型インフラだとそれこそ何年間もかかったりします。その他多くの場合でも、構想を作っている段階で、その構想が本当に社会に受け入れられるのかというマーケティングをしているだけで普通に数ヶ月はかかりますね。

今回の場合はステークホルダーや、お客様と一緒に作り込んでいるので、そのマーケティングが同時並行で進んでいることが大きい気がします。

そもそもお客様と一緒に作っているので、出来上がったものはお客様も重宝するというわけですね。

PDCAじゃないですけど、どうしてもPlanの部分が長くなってしまう。
プランの正当性をレビューする作業という話がありましたけど、そこの時間が圧倒的に短縮されていることが今回違うところかなと思います。

もちろん、いままでの検証のプロセスを全て無くしていいというわけではなくて、例えば今話題になっている脱炭素をいかに加速するか、という問題は今までと同じようなプロセスで競合の分析や将来の社会動向の把握を行う必要があります。

きちんと手間を掛けるところはかける一方で、お客様と組むことによって進められるところは一気に進めていますね。

鈴木さん:始めたときは、目の前のお客様のために課題を解決しようという風に考えていたんですが、そこから展開して大きな課題につなげていくことが非常に難しいところだったと思います。そこに重点を置き始めたのは、ここ一年ぐらいかなと思います。

世の中も急激に変わっていく状態が続くので、お客様の中にも、漠然と地球には悪いけど、私として何かしたいと思っていないとか、どうしたらいいかまだ分からないという方も多いのですね。なので、こちらから絵を見せることで、そのためのソリューションを描いて、社会を巻き込んで一緒に作っていくというスタンスに変えていく必要を感じています。

もちろん、目の前の課題を解決することがないと一歩を踏み出せないので、対応できなくなってしまうんですけど、一歩を踏み出しつつも、大きい戦略につなげる道筋を描いて、中長期的に進んでいくことに比重を置いてきたのかなと思います。

最初のころはやっぱり課題を解決したいという気持ちが先行してやっていた部分もあるので、少し考えも整理されてきたかなと思います。

あとはツールが増えたかもしれないですね。
グラフィックレコーディングもそうですけど、こうやったら議論が進むよね、というノウハウのようなものがi-Baseのメンバーの中で蓄積されている感じがします。

当初はデザイン思考で進めていたんですけど、振り返ると目の前のお客様にしか当てはまらない課題を解いていることが多かったと気付きました。そうしたとき、どうしたらいいかを考えると、上流にサービスデザインなり、未来洞察っていうのを少し加えたりして、そこが我々製造業に必要なツールが増えた部分ですね。

相手に応じてアプローチは変えて、一緒に作っていこう、というスタンスでやっています。

i-Baseのメンバー同士でこういうプロジェクトで、今はこういうプロセスで進めている、でもこのやり方はダメだったとか、そういうのも含めて情報共有してもらっています。

自分がやっていることだけではなくて、他のメンバーがやっていることも含めてやり方を増やしていく方が、スピード的にもメンバーの成長は早いのかなと思いますね。

企業が視座を上げるための未来洞察についてレポートするi.lab横田

横田さん:私は製造業の方とお仕事する機会も多いんですけど、それこそ担当者の方とお話をしているなかで、IHIさんってどういった特徴があるんですかね、という話をしていたら、結構オーダーメイド的なものになりがちだっていうことがあったんですね。

オーダーメイドに対応できる技術力・対応力っていうものはいいんだけど、ビジネス的には成長しづらいものになりがちではあるので、非常に印象に残っています。

今のお話のように、目の前の方が困っていて、その人を助けようというときに、デザイン思考ってすごく相性がいいんだと思うんですね。

しっかり顧客に寄り添って、その背景は何ですか?と深掘りしていく。
でも方法論としての弱点として、拡大しづらいものになりがちであるっていうことがある。

こうしたときに、一般化して社会を大きく変えるような現象にしていくっていうのは、御社のような存在感のある企業にとっては使命だと僕は思っているんですね。

そうしたときにどうやって視座を上げていくのか、っていうことを考えなくちゃいけないときに、未来洞察がすごくいいツールだと思っているんですね。

未来洞察以外にも、未来を考えるツールっていくつかあるかなと思うんですが、何か使いやすい手法のようなものってあったりしますか?

石場さん:サービスデザインの一つの考え方として、ステークホルダーを巻き込んで整理しましょうという視点もあったりするんですね。

人間的な話としては、ここにいるメンバーはチームの中に入り込んで一緒になって作っていくんですけど、チームに入りながらチームを一歩引いた目線で、第三者的な視点で見れるっていうことがあります。

いろんなプロジェクトをやっていると、結局ピポットできなくなってしまう、ということがよくあって、今までの技術開発とは変わらなくなってしまいます。

i-Baseに入っていると、そうした第三者的な一歩引いた目線で言える人材になるということですね。

横田さん:i.schoolでワークショップなどを研究しているときに、プロジェクトが進行している時に没入することは大切なんだけど、メタ的に見て全部ひっくり返す役割も大事なんですね。i-Baseの場合だと、お客さんの巻き込んだメンバーは推進力として前を向いているんだけど、ここに少し引いた立場から見れる人がいることが必要になるっていうのは本当に思いましたね。

ー今後の抱負として取り組みたいことはありますか?

石場さん:区切りがない組織に変わればいいかなと思います。
IHIの中では、エネルギー・航空宇宙・産業機械・社会基盤という4領域があるんですけど、その4領域の境界をなくす意識を持って活動していけたらなと思います。

鈴木さん:非常に手前味噌な話なんですけど、私たちの会社は新しい技術で社会を根本的に変えることができることができる会社だと思っています。イノベーションによっていろいろなものが加速されていくんですね。
i-Baseのiというのはignitionのiなんですけど、今はまだ火が付いた段階だと思っています。その火をどんどん後世に伝えて、火を絶やさないようにしたいなと思います。

岩本さん:こういうところで新事業を仕掛けようとすると、全社的に見たときに規模的には小さくなるんですね。一方で、IHIグループの中で、i-Baseのようなイノベーションのやり方が認知されるためには、既存事業の中で成果をあげていく必要があるんですね。

人によっては既存事業とイノベーションは交わらない、という風に言うかもしれませんが、私はグループとして同居している以上はそこは一体であると考えています。

そういう意味で、既存の事業領域が目指している大きな潮流の中に貢献しながら、イノベーションという新しい社会の意味を付け加えていくようなことをやっていかないと、本当の意味でIHIグループが社会に貢献しているということにはならないかなと思っています。

まだ今のところは新しいものを作っていくことがメインですけど、もっと大きいところの仕掛けも含めて融合していけたらいいのかなと思っています。

左からi.lab マネージングディレクター横田幸信、i.school修了生松谷春花、i.school修了生豊嶋駿介、株式会社IHI鈴木拓也さん、株式会社IHI岩本 浩祐さん

インタビュー対談は感染症対策のため、写真撮影以外はマスクを着用し、ソーシャルディスタンスを保って実施しました


インタビューを終えて

今回は製造業のイノベーションに取り組む、IHIさんのi-Baseを取材させていただきました。

従来の製造業が長い時間をかけて製品開発のプロセスを経るのに対し、グラフィカルなイメージを用いて短期集中的にプロジェクトを進めていくi-Baseの取り組みは、閉塞的な産業の中にチャレンジングな風を吹かせるモデルケースになるのではないでしょうか。

引き続き、イノベーション創出に取り組む日本企業に突撃取材します。
次回もお楽しみに。

メインインタビュアー・ライター/豊嶋 駿介(とよしま しゅんすけ)
2021年度 i.school 通年プログラム修了生、現 i.school インターン
東京大学教養学部教養学科超域文化科学分科現代思想コース3年

サブインタビュアー/松谷 春花(まつや はるか)
2021年度 i.school 通年プログラム修了生、現 i.school インターン
東京大学文学部人文学科美学芸術学専修課程4年

撮影:i.lab佐藤邦彦(さとう くにひこ)

デザイン:i.lab井上麻由(いのうえ まゆ)

<企画・運営>

【Innovation Quest】は、イノベーション教育プログラム「i.school」とイノベーション・デザインファーム「i.lab」の共同プロジェクトです。

i.schoolとは

i.schoolは、東京大学 社会基盤学専攻教授・堀井秀之が2009年に始めたイノベーション教育プログラムです。社会の価値観を塗り替えるイノベーションを本気で起こしたいと考える学生が、アイディア創出法を体系的に学びます。単位も学位も出ませんが、毎年優秀な学生が幅広く集まっています。修了生は200名以上にのぼります。

i.labとは

i.lab は、イノベーション創出・実現のためのコンサルティングファームです。東京大学i.school ディレクター陣によって2011 年に創業されました。i.lab は、東京大学i.school が世界中のイノベーション教育機関や専門機関の知見を発展的に活用しながら独自進化させてきたアイデア創出やマネジメントの方法論を活用して、コンサルティングサービスを提供します。



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