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香港LGBT映画「FOREVER 17」 (推開世界的門)

主演: リー・ジュン(李骏)、リャン・チュンロン(梁進龍)
2019年 短編映画(約35分)
いしゃーしゃ的オススメ度:★★★★★
(写真=嘎嘎台より)

先日から2021年に香港初のBLドラマシリーズが出る!と話題になっている。しかも日本のドラマ「おっさんずラブ」のリメイクらしい。”はるたん”が広東語でどう呼ばれるのかとても気になるところだが、そう言われてみれば、香港のBLドラマって聞いたことがないなと思って、調べてみた。確かにドラマシリーズというのはないようだが、短編映画がいくつか見つかった。というわけで「華流ドラマの合間のBLドラマシリーズ」第3弾は香港(っていうか、早く中国ドラマを片付けようよ)。正確にはBLドラマではなく、LGBTQというテーマのものだが、正味約30分の短編映画なので、すぐ観れてしまったのだ。

なお、私はLGBTQの当事者ではないので、あくまでも一人のドラマ好きの視点から見て書いているだけだということを断っておく。

2029年 香港

これはタイムスリップする物語ではない。2029年に香港で同性婚が合法化されたという仮定のもとに展開する物語である。
リー・ジュン演じるロジャーとつきあっているリャン・チュンロン演じるリッキー。リッキーは家族に男性とつきあっているとカミングアウトするのであった。
それまではなんとなく周りに自分たちの関係を知られないようにしていたが、2014年の雨傘運動(詳細はこちらのWikipediaのリンクを参照)にLGBTQの自由を求めて一緒に参加したときに、初めて公の場で二人は手を繋ぐ。歳をとったリッキーが思い出から想像する、”スライディング・ドア”的な二人の結婚生活の物語が始まる。

晴れて合法的な“ライフパートナー”に

湾仔の教会で三組のLGBTQのカップルの結婚式が行われる。その一組はロジャーとリッキーだ。神父から祝福を受け、家族達からも祝福を受けて、三組ともとても幸せそうである。
なぜ結婚したのか?レズビアンのカップルはこう質問されて、”妻”は以前”夫”が入院した時に付き添いが出来ず、病院で二人の関係性を問い質されてしまったエピソードを話す。友達?夫?妻?結婚していないから、家族以外は重病患者に付き添いができなかったのだ。
「私達はライフパートナーだよ」と”夫”が優しく言う。
結婚したことにより、正式に二人の関係が認められることになったのだ。

開けていかなければならない扉

カミングアウトし、晴れて結婚したリッキーとロジャー。しかし、結婚生活というのは男女の夫婦でも同じように、いつもいつも幸せな時ばかりではない。彼らに最初の試練がやってくる。リッキーがHIV陽性であることが判明したのだ。最初は誰にも言えず、自殺まで考えるリッキー。しかし、ロジャーは優しく彼に寄り添う。周りにHIV陽性であることを伝えるのは、彼にとって「二度目のカミングアウト」であった。

リッキーは何度も「なぜ自分はずっとロジャーと一緒にいるのだろう?」と問い続ける。喧嘩したり、浮気されたり、色々とあったが、やはり一緒にいたい。ライフパートナー、人生の伴侶とずっと一緒に過ごしていくためには、様々な問題にぶつかっていく。この映画の原題が示すように、その度に扉を開き、次への一歩を踏み出さなければならないのだ。

誰もが”シンプルに普通”でいられる社会

この映画の監督が言うには、LGBTQをテーマにした作品では、カミングアウトやいかに”普通”を勝ち取るのが大変であるかを示すものが多いが、ここではその後どんな形が理想なのかというのを見せたかったらしい。カミングアウトや結婚が決してゴールではないのだ。しかし、これは何もLGBTQに限ったことだけではなく、いわゆる”普通の夫婦”でも一生共に過ごしていくには、試練があり、努力も必要である。結局は誰もが同じように人生の伴侶を見つけて、ずっと一緒に過ごしていけるような、誰もが”シンプルに普通”でいられる社会にいつかなるといいのだろう。約30分という短い映画ながらも、非常に濃い内容の物語であった。

こちらは予告編。