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水にもぐれない子にはこの指導を 水泳指導が苦手な先生必見!

プールの水に顔をつけたり、もぐったりすることが苦手な子がいる。
特に低学年に見られる。
その後の水泳学習の充実を考えると、「顔をつける・もぐる」ことは、どうしてもクリアさせたい「水遊び」だが、苦手な子にとっては「遊び」どころではなく、かなり高いハードルになっている場合が多い。

この「水泳指導が苦手な教師のための指導の工夫」シリーズでは、例えばそんな子供に対する指導の工夫を紹介する。
スイミングスクールの教え方とはちょっと違う、元現場教師の実践的指導法である。


「顔をつける・もぐる」ことが苦手な子への指導は、以下の「運動遊び+3段階水慣れ指導」が効果的だ。

「顔をつける・もぐる」ことが苦手な子への指導方法
◯運動遊び

◯3段階水慣れ指導
①シャワー
②顔洗い
③もぐる

◯運動遊び

次の運動遊びを楽しく行い、水に慣れさせる。
・水につかっての水かけっこや「ワニさん」などのまねっこ遊び
・水につかっての電車ごっこ、リレー遊び、鬼遊びなど
・股くぐりやフラフープの輪を立ててそれをくぐる遊び
・石拾い

※これらは、指導要領の解説にも書かれているような典型的な<水遊び>である。
やられている先生方も多いだろう。
だが、「顔をつける・もぐる」ことが苦手な子は、こういう<楽しい>遊びも避けたがる。
例えば、水かけっこになると、背中を向けて顔に水がかからないようにすることが多い。だが、それでもいい。みんなで<楽しく水遊び>をする場を経験することがまず大切である。
だが、できればこの<水遊び>も、本当に「楽しく」やれるようになってほしいのが教師の願いだろう。
そこで、一斉指導で上の運動遊びを行った後、個別に次の「3段階水慣れ指導」をすることをオススメする。
水泳学習はきっと複数の教師による協業体制で指導をしているだろうから、「苦手な子」を集めて個別指導が可能だろう。

◯3段階水慣れ指導

①シャワー

まず、シャワーで水に慣れさせる。

・後ろ向きになって、シャワーの水に当たる
(水泳の基本的な指導は、「まず後ろ向き」だ。例えば、プールに入る時、特に大プールに入る時など、プールサイドから後ろ向きに入水することは常識だ。)
初めに後頭部から水を浴びさせ、徐々に下がって頭頂部から水を浴びるようにさせていき、最後に顔を上げて顔面に直接水を浴びるようにさせる。ゴーグルを使用して構わない。
プールに顔をつけることができなくても「顔面シャワー」のできる子供は案外多いが、怖がる子に急に無理にやらせる必要はない。
3段階水慣れ指導」の大原則は、<少しずつ>である。

・シャワーの水で顔洗い
シャワーの水を手にすくって顔を洗わせる。掌に溜まっている水に顔をつけるといった方がより適切だろう。上記の「顔面シャワー」が苦手な子でも、これは慣れてくればできるようになる。

・掌の水を吹き飛ばす
指導要領解説にも、バブリングやボビングで、水中で息を吐けない子供には手のひらの水を吹き飛ばしたり、水の中で息を弱く吐いたりする指導方法が述べられているが、それと同様である。そしてこれが、この後のバブリングやボビング指導に繋がるので、「ブーッ」とか「ブクブク」とか声を掛け、水が口元にあっても息を吐くことに慣れさせたい。

②顔洗い

・プールにつかって顔洗い
今、シャワーで顔を洗ったが、今度は、プールで水につかって顔を洗う。

同じではないかと思うかもしれないが、子供によっては、全く違う。
プールに入った途端、怖くなるという子が少なくないのだ。周りに水があることそのものが圧迫感を与えるのだろう。だからこそ、「顔をつける・もぐる」ことが苦手でも、先のような<楽しく水遊び>をする経験を重ね、水に慣れさせることが必要なのだ。
しかし、それだけでは、なかなか「顔をつける・もぐる」ことはできるようにならない。
恐怖を克服するしかない。そこで、この3段階水慣れ指導を並行して行うのである。

さて、「プールにつかって顔洗い」だ。
まずは、プールの中で、掌にすくった水に顔をつけさせる。
何秒間つけていられるか挑戦させるといい。

それに慣れたら次の段階である。

・手のひらをプールに入れてそこに顔をつける
プールの中で顔洗いができると、「今度は顔をもぐらせてみよう」と指示をしたくなる。
そこが早い。
もう一段階ステップを刻ませる。
顔を洗う形で手のひらを上に向けたまま水面から中に沈める。
そして、そこに向かって顔をつけさせるのである。
やっていることは、「顔洗い」であるが、実は水に向かって子供の方から顔を近付け、水の中に入れていくことになる。
これが、いざやらせると躊躇してしまう子が少なくない。
そういう時には、教師が手を入れ、子供が「これならできる」という高さまで手のひらを上げて、その掌の水に顔をつけさせる。そして、何度もそれを繰り返しながら、徐々に手の位置を下げていく。

・水を吹く
シャワーでやったように、手のひらにすくった水を吹き飛ばす。
上の「手を水に入れた顔洗い」の要領で手を水中に入れて、その水を吹き飛ばさせる。
指導要領解説のように、水に浮かべた物(アヒルの玩具とか)に息を吹きかけて移動させることをしてもいい(この時は、手のひらは使わない)。

③もぐる

いよいよ3段階水慣れ指導の最終段階である。

・水の中で息を止めて顔の上下
プールにしゃがんだ状態で顔を下げて水の中につけさせる。
口が全て入れられたら、大変立派である。
鼻をつまみたい子にはそうさせるといい。水を怖がる理由の一つは鼻から水が入ることであるという子は、少なくない。
水に入れるのは口まででいいので、息を止めて顔(頭)を上下させる。
やがて、ボビング風に小さくジャンプしながら移動できるといい。
ここまでできるようになれば、みんなと一緒にボビングをする時にも「できない」ことがほとんど目立たず、一体感が味わえる。それが一層の向上につながる。
子供は協同的な学びで育つ。個別指導だけでは技能も高まらない。

・水の中で息を吐く
息を止めて口まで水に入れられるようになったら、水の中で「ブーッ」とか「ブクブク」と息を吐かせる。そして、上に上げさせ、さらに「ブハッ!」と強く息を吐かせる。
ボビングの前段階である。
水の中で息を吸わない、つまり水を飲まない、鼻から吸い込まないという呼吸の仕方を体で覚えさせるのである。
これも、みんなと一緒にボビングすることで一層向上するだろう。

ちなみに、この水の中で息を吐くことは、どの子にもできるようにさせたい内容だ。その後のクロール学習で必ず役に立つ。

・できるだけ深く頭をもぐらせる
この段階に至れば、水に対する抵抗感はかなり取れているはずである。
「鼻までつけてみよう」「目までつけてみよう」「水泳帽子まで…」と、徐々にレベルを上げて挑戦させていけばいい。

子供によってはここまでの指導にひと夏かかるかもしれない。
それでいいではないかと考えるがどうだろう。焦って指導すると、次の水泳の時間から休むようになる子もいる。本末転倒だ。

なお、この3段階水慣れ指導を保護者に協力していただき、家庭での入浴時にも取り組むという方法もないわけではない。
だが、経験的には、「風呂ではできてもプールではできない」という子が案外多かった。
やはり、プールの場合は、水の圧迫感が桁違いなのだろう。
また、教師の熱意が、子供や保護者に「できない」ことを過剰に意識させてしまうこともあることを肝に銘じておいた方がいい。