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韓国文学読書記録【8】20240205-0211

東京に大雪が降ったので、表紙が吹雪いている『七年の最後』を読みました。

2月5日

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📖 The Last of Seven Years by Kim Yeon su
『七年の最後』キム・ヨンス/著、橋本智保/訳(新泉社)
📄P12-26
雪の日に読み始めるのにふさわしい本じゃないかと思って。伝説の詩人、白石(ペクソク)が筆を折るまでの7年間を描く。

今日は「一九五七年と一九五八年の間」という章の途中まで。ソ連の詩人ベーラとヴィクトル、白石をモデルにした主人公キヘンが登場する。

「一九五八年のキリン」。南北分断後、北朝鮮に留まったキヘンは、朝鮮作家同盟の建物にあるロシア語翻訳室に勤務している。キリンの詩を書いたことで、社会主義リアリズムが理解できてないと批判される。

「一九五七年のパラダイス」。朝鮮作家同盟に招聘されてキヘンに詩のノートをもらったベーラは、帰国後ヴィクトルに会い、バイカル湖沿いの「パラダイス」と呼ばれる村へ向かう。

D-492
https://x.com/ishiichiko/status/1754468534409920521?s=20

七年の最後

2月6日

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📖 The Last of Seven Years by Kim Yeon su
『七年の最後』キム・ヨンス/著、橋本智保/訳(新泉社)
📄P27-57
「一九五七年と一九五八年の間」を読み終わった。党の要望にそった詩が書けないキヘンの立場はどんどん苦しくなってゆく。

キヘンの詩を預かったベーラの周辺では不穏な出来事が。

翻訳の仕事が回ってこなくなり不安なキヘンは、友人の俊と酒を飲みながら語り合う。人に聞かれたら困るときは日本語を使うというところが印象的だった。

キヘンは作品総和会議で起こったことを話す。母牛を亡くした仔牛が寂しそうだという詩を書くことすら許されない。以下は会話が朝鮮語に戻ってからの俊のセリフ。

「いまのままじゃ、僕たちは二つのうちのどちらかを選ぶしかないな。”シバイ(芝居)”をするか、しないか。それこそが改造の本質じゃないかと思う。芝居ができる者は残れ、できない者は去れ。だから残った者は芝居をすることになるんだが、みんなが芝居をしたら、それは芝居じゃなくて現実になってしまう。新しい社会はそうやってつくられるんだ。こんな世の中でものを書くこともそうさ。自分を騙せるんだったら書けばいい」

『七年の最後』

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https://x.com/ishiichiko/status/1754853940355821782?s=20

七年の最後

2月7日

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📖 The Last of Seven Years by Kim Yeon su
『七年の最後』キム・ヨンス/著、橋本智保/訳(新泉社)
📄P60-101
「創作不振の作家たちのための自白委員会」の章を読んだ。なにも身に覚えがなくても、自白するまで許してもらえない文学者吊し上げ大会が恐ろしい。

昨日正しかったことが今日は糾弾される。党の幹部もいつ失脚するかわからない。翻訳室を追い出されたトンム(同務=友達や仲間を意味する)と、キヘンは食事をする。ふたりはパステルナークについて話す。トンムはモスクワにいたとき書き写したというロシア語の詩のノートを見せる。キヘンが詩を暗記しようとするところ、『華氏451度』を思い出した。

そのノートにハングルで書いてあった言葉。トンムが書いたものではないらしい。

時代という吹雪の前では、詩など、か弱いロウソクにすぎない。吹雪は散文であり、散文は教示するものだ。党と首領の言葉は、吹雪のごとく吹き荒ぶ散文である。峻厳で恐ろしく、緻密である。だが、詩は語らない。詩の役目は、吹雪の中でもその炎を燃やすところまでだ。ほんのいっとき燃え上がった炎によって、詩の言葉は遠い未来の読者に燃え移る。

七年の最後

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https://x.com/ishiichiko/status/1755233910500540677?s=20

七年の最後  背景は少しだけ残っていた雪

2月8日

✅13pages
📖 The Last of Seven Years by Kim Yeon su
『七年の最後』キム・ヨンス/著、橋本智保/訳(新泉社)
📄P104-153
「私たちがこの世の果てだと思っていたところ」の章を読んだ。詩人とは何か。

社会主義の建設に向けて一歩踏み出すのを拒むものは〈ない〉と証明するために、あらゆる職業の者が、党の提示する目標を超過達成するよう求められる。作家も例外ではない。

僻地の生産現場に派遣されることになったキヘンは、平壌に初雪が降った日、作家同盟委員長である秉道(ビョンド)の家を訪ねる。歩きながら、1957年にベーラ歓迎の晩餐に参加したときのことを回想する。

秉道は党が望む文学について〈りんごの木に実がならなくても、なったと書きゃいいんだよ〉と言う。絶望したキヘンが思い出す、ベーラの言葉。

夜は昼のように、昼は夜のように。水は火のように、火は水のように。悪が善になり、善は悪になる。それはまさに戦争、地獄の風景でした。そうして数か月後、消えるはずがないと思っていた火が消えたとき、都市は完全に廃墟と化したのです。その廃墟を見つめること、それが詩人のすることじゃないかしら?

七年の最後

展開は暗いけれども、秉道の家に居候する漫談家のアンナムが魅力的だった。キムチの名前をずらずら並べる漫談など面白い。

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https://x.com/ishiichiko/status/1755492195292102783?s=20

七年の最後

2月9日

✅13pages
📖 The Last of Seven Years by Kim Yeon su
『七年の最後』キム・ヨンス/著、橋本智保/訳(新泉社)
📄P156-207
「無我に向かう公務旅行」。キヘンに与えられた〈最後の機会〉と、自分の詩を書くことができていた1935年の記憶を描く。

僻地に派遣されて一年経ち、キヘンはスキー場のオーチェルク(ルポルタージュ)の執筆を任される。何もかも捨てて〈これまでの自分とまったく違った一人称の”私”〉で書くことを求められる。キヘンは初めての詩集を出そうとしていた1935年のことを思い出す。

川端康成や伊豆旅行の話が語られる。

キヘンは文字を書いたり読んだりすることで戦争が終わったのちも生き延びられた。〈自分を生かしてくれた言語と文字は誰のものだろう〉と問う。

本が燃やされたときのことを回想するくだり。

そこで燃やされる一冊一冊は、それぞれが一つの世界だった。当然、互いの主張は食い違い、志向するところも異なる。文体もみな違う。そうして世界は一つではなくいくつもあり、現実はその数限りない世界が結合したところだ。そこには美しい世界もあり、醜悪な世界もある。ごまかしが蔓延る世界もあれば、上品で誠実な世界もある。ある世界は地獄に近く、ある世界は天国に近い。これらすべての世界が集まって多彩で玲瓏たる光を放つとき、完全な現実になるのだ。だから、単に一冊の本が燃えてしまうのではない。詩人がひとりいなくなるだけではない。現実全体が没落するのだ。

七年の最後

そう考えていたキヘンが、友人に届かない手紙を書いたあとすることが悲しい。

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https://x.com/ishiichiko/status/1756416260446068902?s=20

七年の最後

2月10日

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📖 The Last of Seven Years by Kim Yeon su
『七年の最後』キム・ヨンス/著、橋本智保/訳(新泉社)
📄P210-235
読了。「七年の最後」とは、1956年から1962年。キヘンが詩人として生きた最後の7年のこと。白石の詩が読みたくなる。

1963年、すっかり農夫の生活が板についたキヘンのもとに意外な人物から手紙が届く。その手紙の中にある〈スクリーン〉という言葉、前章「無我に向かう公務旅行」の以下の文章を思い出した。ユリウス・フチークの『絞首台からのレポート』についてふれているところ。

広いホールに長い椅子が六列並んでおり、取り調べを待つ人たちが背筋を伸ばして座っていた。尋問に、拷問に、死に、呼び出されるのを待っている間、彼らは目の前の白い壁を凝視した。

七年の最後

〈白い壁に映し出される自分だけの映画〉をキヘンも見る。

キヘンは党の方針にそった詩や文章を書くように強いられ続けて、ついに何も書かないことを選んだ。キヘンが〈自然に発火してあっという間に森全体をめらめらと燃やし、木々をそのままの姿で炭にしてしまう〉天火をじっと見つめるラストシーンがいい。

詩人が詩そのものになる。

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https://x.com/ishiichiko/status/1756436423295856716?s=20


七年の最後

2月11日

✅13pages
📖 BAEK SEOK's poetry collection by Baek Seok
『白石詩集』/ペクソク著、青柳優子/訳(岩波書店)
📄P4-218
『七年の最後』を読んだら白石の詩を読みたくなったので。「焚火」「膳友辞」「わたしとナターシャと白い驢馬」「夜雨小懐」「許俊」「白壁があり」「南新義州柳洞 朴時逢方」が好き。

真っ暗な雨のなかに
真っ赤な月がのぼり
白い花が咲き
遠くで犬が吠える夜はどこからか 胡瓜の匂いがする夜だ

「夜雨小懐」

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https://x.com/ishiichiko/status/1756602240394297365?s=20


白石詩集

ジミンさんから旧正月の挨拶来た。


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