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アルバイト書店員の雑感

「文学はダメ人間が9割」にもチラッと書いたとおり、書店でアルバイトをしています。働きはじめて、半年くらいになるでしょうか。兼業ライターは珍しくありませんが、専業から兼業になったので、友達には心配されました。そんなに仕事がないのかって。

 今年になってレギュラーは増えました。ありがたいことに、ライターだけでも食べていける収入はあります。かろうじて、今のところは。
 ただ、来年は50歳になるし、雑誌のカルチャー欄は縮小傾向にあるし、インボイス制度が実施されたらダメージは大きいし、老後には不安しかない。このままでは仕事が減って暇を持て余したとき、SNSで呪詛を吐いたりするようになってしまうかもしれない……そんなときにたまたま家の近所の書店の求人広告を見て、試しに応募してみたら受かったんですね。家から徒歩数分の場所で、バイト仲間にも恵まれ、なんとか続けています。

 勤め先はショッピングモールの中にある店舗。なにしろ20年ぶりにレジを打つので、最初はわからないことだらけでした。支払い方法はたくさんあるし、特典付きの本や本以外の商品も多いし。挟み込むのは無理でしょ、という厚みの付録もあり。いつのまにか手首に巻かれている輪ゴム、指の切り傷を見つけるたびに、わたしは本屋に戻ってきたんだなあと実感します。
 品揃えはチェーンの本部がほとんど決めているため、送られてきた本を並べるだけですが、わたしは児童書の棚を担当しています。あまり触れたことがなかったジャンルで新鮮です。この出版不況と言われる時代に、『パンどろぼう』(累計130万部突破)『ノラネコぐんだん』(累計250万部突破)など、ヒットシリーズがいくつも出ていて、ロングセラーの棚回転もよく活気がある。講談社青い鳥文庫の『人狼サバイバル』の最新巻を求めて発売日の開店時間に駆け込んできた小学生とか、本好きの子供とも出会えて楽しい。棚は毎日毎日それはもう、しっちゃかめっちゃかに荒れてますけども。棚整理は雑念が消えるから好きな作業です。

 本業はライターだと思っています。が、他にも居場所があるということは、一時期うつ病が悪化して苦しかったわたしにとって救いになりました。時給は最低ラインですが、社会保険完備。いいですねえ社会保険完備。
 シモーヌ・ヴェイユいわく〈人間は労働によって自己の周囲に宇宙をつくりだす〉。地味でもなんか面白い宇宙ができますように、と祈りつつ、今日も本を読み文章を書きながら本を売るのです。


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「文学はダメ人間が9割」よろしくお願いします。


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