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オールの小部屋から① 自己紹介

 文藝春秋の小説雑誌「オール讀物」をご存じでしょうか。
 7月より、この雑誌の編集長をしている石井一成と申します。よろしくお願いいたします。
 いま、お盆休みで静まりかえった会社の隅で、「第169回直木賞」を発表するオール9・10月合併号を校了しています。
 オール讀物という小説雑誌が、どんな編集部員によって、どのように作られているのか。その舞台裏の一端をお伝えできたら……と思いたって、小文をしたためていくことにしました。
 まずは、私の自己紹介から。
 2000年、新卒で文藝春秋に入社しまして、最初の配属は「週刊文春」編集部。4年間、週刊誌記者をやっていました。事件取材は苦手でしたが、登記簿を調べたり、政治資金収支報告書を読んだりするのは好きで、政治家のスキャンダル、政局、選挙などの取材を主に担当しました。自分自身が法学部出身ということもあり、なんとなく今後ノンフィクションの仕事をしていくのかな、と思い始めていた矢先、人事異動の内示があり、2004年の春、エンタメ小説を刊行する第二文藝部に移ることになります。正直、意外な異動でした。
 後から聞くと、これには社内の事情があったようです。2004年当時、文藝春秋のエンタメ部署は、遅まきながら新本格ミステリ分野への進出を期して〈本格ミステリ・マスターズ〉という叢書を刊行し始めていました(歌野晶午さんの『葉桜の季節に君を想うということ』など。noteに政宗九さんの記事があります)。

 この叢書は、ミステリ好きの先輩編集者Aさんが長らく準備し、作家の方々と親交を深め、原稿を書いてもらって、ついに刊行が始まったところだったのですが、文春はとても異動の多い会社で、長いあいだ第二文藝部にいたAさん(8年くらいいたのかな?)がついに部署を離れることになってしまった。一部の作家からは「Aさんが異動するならこの企画は続けられない」といった声も上がったそうです。
 じつは私、昔からミステリが好きで、学生時代は、京都大学推理小説研究会に所属していました。綾辻行人、法月綸太郎、我孫子武丸、麻耶雄嵩さんら多くの新本格ミステリ作家を輩出した大学サークルです。
 私自身はマニアでも何でもなく、文春に入社後もミステリを仕事にしていこうという気持ちはあまりなかったのですが、異動が決まった先輩のAさんが「京大ミステリ研出身の若者が文春に入ったので、彼に引き継ぎます」と作家のみなさんに話し、私を後任に引っ張ってくれたみたいなのですね。
 前置きが長くなりましたが、そういう経緯で、週刊誌記者から一転、ミステリ編集者として本をつくる仕事をすることになりました。いわば偶然、めぐりあわせで小説の世界に足を踏み入れることになったわけです。そこからオール讀物、別冊文藝春秋、オール讀物、週刊文春(あの「文春砲」の時代です)、文藝春秋、オール讀物……と、時折ノンフィクションの仕事もしつつ、現在に至ります。

7月19日、芥川賞・直木賞受賞者会見のあとの記念撮影(©文藝春秋)
左から『木挽町のあだ討ち』の永井紗耶子さん、『極楽征夷大将軍』の垣根涼介さん。
そして『ハンチバック』で芥川賞を受賞した市川沙央さん。

 オール讀物編集部には合計で約9年いましたから、編集長になってもそんなに変化はないかな、と思いきや――。7月には直木賞の選考会があるのですが、その司会を、新任の編集長がやることになっているのですね。新たなメンバーで雑誌の校了をしながら、並行して司会の準備をする。これがけっこう緊張するものなんです。直木賞が無事に決まり、特集号がほとんどできあがったいま、ようやくホッとひと息つけている。そんな状況です。
 まもなく発売されるオール讀物9・10月号の紹介を兼ねて、直木賞のお話をしようと思っていたのですが、自己紹介が長くなってしまったので、続きは次回に!
〈本格ミステリ・マスターズ〉という言葉に「おっ、懐かしい!」と思った〝ミステリ者〟のみなさま。多くの作品が文春文庫で出てますので、久しぶりにぜひチェックしてみてください。そして、ミステリ好きが編集するオール讀物を、どうか応援していただけたら嬉しいです。

(オールの小部屋から① 終わり)

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