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『格闘アクションスター』たちのアーティスト性についてのお話

格闘アクションスターの存在をご存知だろか。
映画界には格闘アクションスターというものが存在する。
幼少の頃から武術を修め、その鍛え抜かれた肉体と技術で身体表現を行う俳優のことだ。
古くはブルース・リーやジャッキー・チェン。そして現代ではドニー・イェンやマックス・チャン。そしてトニー・ジャーやイコ・ウワイスなど。
今なお格闘アクションの文化的遺伝子は脈々と受け継がれている。
はっきり言う。多くの格闘アクションスターは皆音楽的素養、すなわちアーティスト性を備えている。
それは歌やダンス、時にはピアノやドラムなど。
成功する格闘アクションスターのほとんどは音楽的素養を備えているのだ。
彼らの映画の魅力はまたどこかで語るとして、本記事では彼らの音楽的素養。アーティスト性に触れたい。

ブルース・リー

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伝説の男、ブルース・リー。
彼が武道を習う前にダンスを習っており、チャチャチャの名手であることは有名な話だ。そしてブルース・リーは師匠である葉問にダンスを教えたことでも知られる。そのエピソードは葉問を主人公にした映画シリーズ『イップ・マン継承』でも出てくる。
ブルース・リーの伝説的肉体表現は功夫のみにとどまらないのだ。

ジャッキー・チェン

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彼についての説明は不要だろう。プロジェクトAの主題歌やポリスストーリーの主題歌。時には出演していない映画にも。数多くの名曲を映画で生み出してきた。
さらに、ジャッキー・チェンは人気絶頂の時代、サモ・ハン・キンポーとユン・ピョウのBIG3と共に日本武道館でライブを行っている。
彼はアーティストとしてもかなりの成功を収めているアクション俳優だ。

トニー・ジャー

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トニー・ジャーは『マッハ!!!!!!!!』で世界中にその名を轟かせたムエタイの神である。
黒社会に追われたり出家したり紆余曲折を経たが今が一番脂がのっている時期なのは間違いない。
その超人的身体能力は未だ衰えず、同時に演者としては熟成しており、長らく本国での映画出演はないもののハリウッドから香港まで世界各国に引っ張りだこだ。
そんなトニー・ジャーがノリノリで歌って踊るミュージックビデオが『GROUNDBREAKING』である。

そのムエタイを組み合わせたダンスと元気いっぱいの歌唱は見る者を引き付ける。トニー・ジャーの個性とアーティスト性が発揮されたMVだ。ウィアライジン!

マックス・チャン

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武英級という中国で最高ランクの功夫称号を持つこの男はとにかく顔が滅茶苦茶いいんだ。ほんとうに顔がいい。それでいて40代。奇跡かな?
そんな彼は『グランドマスター』『ドラゴン×マッハ』『イップマン継承』などで大ブレイク。遅咲き俳優ではあるのだが、その色気と武英級の功夫は今なお多くの人を虜にしまくっている。
そんな彼もなんと一本のミュージックビデオを公開している。それが『東・西』だ。

これははっきり言ってR-18じゃないか。いきなりラップを披露したかと思ったらキレキレに踊って歌い倒す。色気の暴風雨だ。
V系メイクのマックス・チャンという時点でかなりやばいのだが、ついに上半身脱いで踊り出すシーンは明らかにR-18だった。
アーティスト性を語る以前に色気の話しか出てこない。でも間違いなくダンスはキレキレだった。
それにしてもこれ、YouTubeで見ていいやつなの?
年齢確認とかするべきでは?

余談だが功夫映画とHIPHOPの相性がいいのは歴史から見て明らかだ。
まず功夫映画からの影響を受けたHIPHOPグループといえばウータン・クランだろう。さらに最高のHIPHOPアーティストにして西海岸のキングであるケンドリック・ラマーは時にカンフー・ケニーを自称し、ブラックパンサーの『オール・ザ・スターズ』でコンビを組んだSZAと『Doves In The Wind』で功夫映画風のMVを披露している。
また、映画界最高の三部作映画と言えば『HIPHOPカンフー三部作』だろう。全ての作品にDMXが登場しており、三作目のブラック・ダイヤモンドではあの名曲『X Gon'Give It to Ya』を本作のために生み出し、ジェット・リーと共に鼻持ちならない悪党を暴力で打ち倒した。
ブラック・カルチャーに功夫映画が浸透しているのはかつてハリウッドは白人映画ばかりだったというのがある。黒人はわざわざ鼻持ちならない白人映画を見る気にならず(アトランタというドラマでは多くの黒人が『スティーブ・マックィーンって誰だよ』となるシーンがある)かといって黒人映画に予算が割かれるわけでもないので功夫映画に夢中になった…というのが有名な説だ。
だがまあそれ以前に功夫映画には多くの人を惹きつける普遍的な魅力があるので、功夫映画を見たキッズが大人になって功夫しながらHIPHOPするのは当然の理である。

ドニー・イェン

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さて格闘アクション界の音楽野郎と言えばこの男。ドニーさんことドニー・イェンだ。
ご存知の通り現代最高のアクションスターはドニー・イェンである。ドニー・イェンは太極拳のグランドマスターである母親から功夫を学び、新聞社の社員である父からピアノを教わった。
その腕前はドニーさん自身『映画の道に進むかピアノの道に進むか迷った』というほどだ。
そんなピアノの名手として知られるドニー・イェンは様々な場でその腕前を披露している。
その一つがスターウォーズシリーズ最高傑作として名高い『ローグ・ワン/スターウォーズ・ストーリー』だ。
『ローグ・ワン』でドニー・イェンはメインキャラクターの一人である盲目バトル僧侶ことチアルートを演じた。ドニー・イェンがストームトルーパーを棒でしばく姿を見れば、それがドニー・イェンのベストジョブの一つであることがお分かりいただけるだろう。
そんなドニー・イェンは本作の中国版主題歌『決絶的信仰』(日本以外でもそういうのあるんですね)でピアノを担当。台湾の実力派歌手ジャム・シャオの歌と共に華麗な演奏を披露した。
ローカライズ主題歌でその国のアーティストが全く関係ない曲を歌うのはよくあることだが、実際の出演者がローカライズ主題歌でピアノを演奏したのは恐らくドニー・イェンが初めてだろう。

他にも香港返還を祝う格式高い式典では功夫の演武のみに留まらず、度々ピアノを披露している。
香港返還20周年記念の際にはピアニストのラン・ランと天才少年リョン・チャンインと競演し、会場を大いに沸かせた。
ドニー・イェンの代表作『イップ・マン』ではわざわざ作曲家の川井憲次氏から楽譜をとりよせ、『マエストロのテーマ(イップ・マンのメインテーマ)』を撮影現場で弾いたりした。
だが、ドニー・イェンの音楽的素養はピアノだけにとどまらない。
歌だ。ドニー・イェンは多くの場で歌を披露している。
例えばドニー・イェンのファースト・ブレイク作品として知られるTVシリーズ『精武門』では主題歌を担当。20代のドニー・イェンがノリノリの歌唱を披露している。その若々しさと熱量極まる歌は妙な中毒性があり、一種の劇物と化している。
さらに映画『夜の珍客』では4人に分裂したドニーさんがゲスト出演し、名曲『シェリー』を披露している。

この映画でのドニーさんの出番は4人に分裂して歌を披露するだけなので、本当に歌うためだけに呼ばれたのだろう。それが歌手としてのドニー・イェンのポテンシャルの証左である。

さて、もうお気づきだろうが格闘アクションスターはダンスとの親和性が高い。その鍛え抜かれた身体能力と格闘センス。そしてアクションの撮影はダンスと通ずるものがある。
たとえばLDHが製作したアクションエンターテインメント『HIGH&LOW』シリーズ。
LDHと言えばご存知ダンス&ボーカル集団『EXILE TRIBE』を率いるグループだ。そんなLDHが製作したHIGH&LOWシリーズはアクション映画ファンからの評判も高く、実際にそのアクションは世界的に見ても非常にレベルが高い。
それは(邦画にしては比較的)潤沢な予算や、ドニー・イェンの現場でアクションを学んだ大内貴仁アクション監督の技術によるものが多い。しかし、やはりEXILEから排出したダンサーたちの身体能力があってこそ、その多彩で高クオリティのアクションシーンは実現していると言える(無論、雨宮兄弟などのボーカリストもヤバいアクションを見せてくれる)。
すなわち、ダンサーがアクションの適正が高いのならば逆もまた真なり。アクション俳優はダンサーの適正が高いのだ。
それはトニー・ジャーのMVやマックス・チャンのMVを見ればおわかりいただけるだろう。

そして当然、ドニー・イェンにもダンスの適正が存在する。
それを示すのがドニー・イェン主演第二弾『情逢敵手』だ。

見ての通り、今や世界的スターであるドニー・イェン最大の黒歴史作である。むせかえるような80年代的ダサさの中、若さ溢れるドニー・イェンがキレキレのダンスを披露している。
生ける伝説ユエン・ウーピン監督作である本作は残念ながら日本未公開。明らかな奇作怪作迷作、言葉を選ばずに言えば魑魅魍魎の類だが若は溢れるドニー・イェンがダンスを披露する様はファンにとってまさに垂涎もの。
是非ともいつかは日本で見れるようにしてほしい。
ピアノ・歌・ダンスと三種のアーティスト性が詰まったアクションスターはドニー・イェンくらいだろう。

まとめ

当然、ここで紹介したアクション俳優以外にも音楽的素養を備えているものがいる。
セガールと言えば歌とギターだし、ドルフ・ラングレンが歌と空手とドラムを披露する動画はTwitterでバズっていた。
またマックス・チャンと同様武英級である『SPL/狼たちの処刑台』のウー・ユエはその歌唱力の高さで有名だ。他にも『帝戦 BAD BLOOD』の蒋璐霞は戦争映画の超特大傑作である『オペレーション:レッド・シー』の主題歌で蛟竜突撃隊の一員として高らかに歌っている。
当然本職の歌手やダンサーの方がそれ一本で努力しており、いわゆる彼らのアーティスト性についてはスター俳優が主演映画の主題歌を歌うのと変わらない。
しかし彼らもまた武道という一本の道で血が滲むほどの努力をしてきた表現者であり、その特異な出で立ちは他のアーティストにはない魅力を醸し出している。
道は違えど彼らも立派なアーティストであることについて、最早言葉を重ねる必要はないだろう。

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