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子供も楽しめる奇跡のホッコリ連続殺人鬼映画 マ・ドンソク主演『悪人伝』

韓国と言えば連続殺人鬼映画の聖地だ。
連続殺人鬼とポン引きのバトルを描いた『チェイサー』に連続殺人鬼と最強諜報員のバトルを描いた『悪魔を見た』そして連続殺人鬼と元連続殺人鬼のバトルを描いた『殺人者の記憶法』など、韓国の連続殺人鬼は様々な難敵と対決してきた。
そして今回、連続殺人鬼が相まみえるのは殺人鬼とはまた別の"暴"を持った存在。暴力団の組長である。それだけではない、その暴力団の組長を演じるのは、マ・ドンソクだった。

100点満点のあらすじとマブリーの存在感

というわけで『悪人伝』見てきました。滅茶苦茶いい映画でした。何がいいって、あらすじの時点で「連続殺人鬼に襲われたヤクザの組長が暴力刑事と手を組んで捜査する」という100点満点の内容なのがいいですよね。
そこにヤクザの組長をマ・ドンソクが演じるという5億点の内容が加わり、滅茶苦茶いい映画になっている。すごい。
さて、マ・ドンソクを知っている人が殆どだと思うけど、知らない人に説明するとマ・ドンソクは類稀なるガタイと愛嬌のある顔で本国では「マブリー(マ・ドンソク+ラブリー)」と呼ばれ、ハリウッド進出も控えている唯一無二のタフガイ・スターだ。
そんな彼は俳優としてはどちらかと言えば遅咲きのスターで、『新感染 ファイナル・エクスプレス(16)』で日本でもようやく知られるようになった印象だ。そんなブレイク以降の彼の役柄は、大雑把に言えば、心優しきハードボイルドなタフガイか、心優しきキュートなタフガイのどちらかだった。
『犯罪都市』では弁護士を呼べと叫ぶヤクザに「弁護士のスタンさんだ」とスタンガンを押し付ける心優しき暴力刑事を演じ、『ファイティン』では咄嗟に物陰に隠れるも腕が太すぎて全然隠れられてないちょっと天然な心優しきアームレスラーを演じるなど、ハードボイルドかキュートかの二択であった。
一方、本作でのマ・ドンソクの役柄はなんとヤクザの組長。そう、悪いマブリーなのだ。人間をサンドバックに詰めてタコ殴りにする序盤から暴力フルスロットル。良心の呵責0で人を殺す黒社会の雄。
本作のマ・ドンソクがマブリー度3としたら暴力マブリー度は100。そこに悪の精神が加わり今までにないデビルマブリーが完成したのだ。
しかし、デビルマブリーとはいえ良心が無いわけではない。基本的に堅気には手を出さないし、通すべき筋を通す。暴力を束ねる存在だからこそ秩序立った”暴”を持つ。そのことがハッキリ描かれている。
だからこそ、本作に登場する『無差別連続殺人鬼』という”無秩序の悪”がさらなる邪悪としてより存在感が増すのだ。

暴力刑事と連続殺人鬼

さて、本作はヤクザの組長と暴力刑事。混ぜるな危険の相反する二人が巨悪を倒すために手を組むというバディものでもある。バディを組むからには、当然その存在感がつり合っていなければならない。その点に関しては、まあギリギリ許容範囲だったと言えよう。
本作に登場する暴力刑事チョンは濃い目のマ・ドンソクに足しいてシュッとした薄目の見た目でバランスをとり、初っ端からマ・ドンソクの組織を突発的にガサ入れすることで狂犬ぶりを見事に表現している。
そんなチョン刑事もまた必ずしも善人とは言えないキャラクターだ。連続殺人鬼を捕まえたいのは基本的に出世欲。正義感も多少はあるものの、本作ではこれといって描かれていない。
まさに悪と悪がバディを組んで巨悪に立ち向かう、『悪人伝』らしい内容となっている。
一方、そんなヤバい奴らを相手取る連続殺人鬼が流石にかわいそうに思えてくるが、こちらも一筋縄ではいかない。
本作の連続殺人鬼は、まず車で追突して出てきた相手を殺すという手段を使う。一見、秀逸な殺害方法だと思われるかもしれないが、この手段にはある欠点がある。それはどんな運転手が出てくるか追突するまでわからないということだ。
本作でも語られるが、通常のサイコパス殺人鬼は女子供など、自分より弱い存在を襲う傾向にある。しかし、本作の殺人鬼は、車から出てきた相手なら老若男女問わず「殺す!」と思ったら即殺す。まるで連続殺人ガチャだ。それが堅気感0のスーツを身にまとったSSRマ・ドンソクであっても、「殺す!」と思ったので殺そうとする。当然返り討ちに合うが、そんなチャレンジ精神とガッツに満ち溢れた真の無差別連続殺人鬼なのだ。

奇跡の連続殺人鬼映画『悪人伝』

ヤクザと刑事と連続殺人鬼の三つ巴に100点満点のあらすじ。強烈なキャラクターにガッツのありすぎる連続殺人鬼。本作を特筆すべき点は数多く存在する。
しかし、自分が本作を見て感じたことは面白さ以上に「奇跡の連続殺人鬼映画」であるということ。
何が奇跡なのか。それは連続殺人鬼映画にあるまじきスゲェ安心感だ。なにせ、連続殺人鬼のターゲットがマ・ドンソク。まあ絶対死なないだろうなという安心感がある。マ・ドンソクを主演に据える。それだけで今までの連続殺人鬼映画にない安心感が生まれてる。
無論、だからと言って連続殺人鬼のバイオレンスが半端なわけではない。連続殺人鬼が無辜の人を殺すシーンは悲惨だし、ヤクザ映画なので連続殺人鬼に関係ないところでたくさんの人が死ぬ。
しかし、それらを含めてなお本作は凄惨な連続殺人鬼映画という枠の中に驚異のホッコリ感がある。そう、ホッコリ感だ。
人が沢山死ぬのに。凄惨な映画なのに。ホッコリする。奇跡のホッコリ連続殺人鬼映画なのだ。
正直映画を見終わった直後はあまりの衝撃にクラクラした。連続殺人鬼映画なのにホッコリするという未知の味わいに困惑したのだ。
何故ここまでホッコリ感があるのか調べてみたら、なんと本作のレイティングはG。つまり、全年齢対象の連続殺人鬼映画なのだ。
そう、赤ちゃんでも見れる連続殺人鬼映画ということになる。すごい。抱っこdeシネマでの上映も可能な連続殺人鬼映画だ。
つまり、作り手は意図してこのホッコリ感を作り出しているということになる。恐らく、タフでラブリーなマ・ドンソクを主演に据えたのもこのホッコリ感を出すためだろう。
普通、「連続殺人鬼映画を作ろう」と思ったら凄惨でサスペンスフルな映画にしようと思うはずだ。そのためにはグロテスクでバイオレンスなシーンは容赦せず徹底的に描写し、最低でもR15の映画にするはず。
しかし、本作の映画監督は違った。「マ・ドンソクを主演にして安心してホッコリ見れる連続殺人鬼映画を作ろう」と思ったのだ。
とはいえ、年齢対象がどうあれ、「ママ、連続殺人鬼映画を見に行きたいよ」と思う子供は、流石にいないと思いたい。
「連続殺人鬼映画」と聞いて映画館に向かうのはどんなレイティングにも引っかからないボンクラな大人どもばかりだろう。
だが、それでも『悪人伝』を全年齢対象にしたのは言うまでもない。本作のメインターゲットは他でもない子供だからだ。マ・ドンソクという大人気スターをダークヒーローに据え置くことで子供を誘い一夏の連続殺人鬼映画を味わわせるのだ。
そう考えれば、この連続殺人鬼映画で味わえるホッコリ感に納得がいく。
実際、ジブリ映画を思わせるワンシーンがあるので、悪人伝が子供をメインターゲットにした連続殺人鬼映画なのは間違いない。

オススメです

というわけで『悪人伝』が子供向けの奇跡のホッコリ連続殺人鬼映画であるということをお伝えしました。
恐らく韓国という肥沃な連続殺人鬼映画の土地だからこそ悪人伝が生まれたんでしょうね。
もしかしたら普通に全年齢対象の連続殺人鬼映画は珍しくもなくそこらへんにあるのかもしれないけどその辺りは各自で調べて判明したらコッソリ教えてください。
少なくとも本作のホッコリ感は自分にとって未知の味わいでした。
連続殺人鬼映画でホッコリしたい方、デビルマブリーを見たい方、そんな人々はすぐさま映画館にダッシュだ。

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