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ビリー・ジョエルと、サバイバーと、ロッキーと

 ビリー・ジョエルの新しいコンピレーション『ジャパニーズ・シングル・コレクションーグレイテスト・ヒッツー』が売れているらしい。日本で発売されたシングルをまとめた、日本独自の企画アルバムは、当時を知るファンのノスタルジックな記憶を呼び起こすこと必至のアイテムだろう。かくいう自分も当時の記憶を反芻しては苦々しい思いをあらためてかみしめている。

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 このコンピにはMV集のDVDが付いている。そこで、いままで不覚にも見ていなかった「マイ・ライフ」のMVを初めて見た。

 曲に入る前の映像はとある街角の風景。バスケットボールコートにいるビリーがバンド仲間を引き連れ、歩道を歩いていく。途中、リッチー・カナータも加わり、一行は地下鉄の駅に入る。スタジオに到着した彼らはコンソール・ルームに入り、ビリーはブースの中に目をこらす。ブースの中には「マイ・ライフ」を演奏する彼らがいる……。​

 これを見ていて、サバイバーの「アイ・オブ・ザ・タイガー」のMVを思い出した。このMVも「マイ・ライフ」と同じような展開で進む。夜の街を歩くヴォーカルのデイヴ・ビックラー。そこにバンド・メンバーが次々に加わっていく。全員が揃うとガレージのような場所に入り、それぞれが準備を終え、「アイ・オブ・ザ・タイガー」を演奏し始める……。

 ビリーがどういった経緯で「マイ・ライフ」のMVを作ったのかはわからない。しかもこのような滑稽な演出をなぜしたのか? 一方、「アイ・オブ・ザ・タイガー」は、サバイバーの活動を端的にあらわそうという、バンドのギタリスト、フランキー・サリヴァンのアイディアが基になっているという。なんの接点も感じとれないビリーとサバイバーだが、個人的にはふたつのMVの類似になんとも奇妙な符合を感じずにはいられない。

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 前々から自分はビリーとシルベスター・スタローンの顔、特に目がそっくりであることが気になっていた。他のパーツがあまり似ていなくても、落ち窪んでいて大きく見開かれたタレ目は、自分のなかで両者を密接に結びつけていた。
 スタローンといえば『ロッキー』のイメージが強いが、ビリーも以前はボクサーだった。そして、あらためて言うまでもなく、サバイバーの「アイ・オブ・ザ・タイガー」は『ロッキー3』のテーマ曲である。「マイ・ライフ」「アイ・オブ・ザ・タイガー」それぞれのMVの間にはなんの関連もないが、自分のなかのイメージはボクシングをキーワードとして見事にハマった。

 話しはここで終わらない。スタローンがサバイバーに”ロッキー・シリーズ”の最新作のテーマ曲を依頼する、そのきっかけとなったのは、サバイバーの2枚目のアルバム『Premonition(予戒)』だった。リリース当時、『Premonition』は一般的には知られていない、いわゆる”売れなかったアルバム”だったが、スタローンはこのアルバムを聴いていて、サバイバーの音楽が気になっていた。そして、このアルバムの音楽が『ロッキー3』のテーマ曲を依頼する決め手となった。そんなアルバムのなかの2曲のミックスを手掛けたのは意外にもビリーと深い関係にある人物だった。

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 その人物、アーティ・リップはミュージシャンとしてのビリーの活動最初期に契約し、売り出した男だ。のちにビリーが稼いだ金を不当に搾取していたとされ、契約を解除されたが、彼はビリーと別れたあと、なんとサバイバーとも接点をもっていた。ただし、そこには業界的な理由も隠れていたようで、リップはバンドにあてがわれるかたちでレコーディングに参加していたようだ。結局、リップはアルバムの一部に関わっただけで、しかも彼が手掛けた2曲のミックスは採用されなかった。彼はビリーのデビュー・アルバム『コールド・スプリング・ハーバー』のプロデューサーとしても知られているが、このアルバムがもたらした害悪を知っていたバンドの中心人物ジム・ピートリックは、リップのミックスを破棄し、自分たちで最終ミックスを仕上げたという。(そもそも自分たちの音楽に割り込んできたよそ者にいい印象をもっていなかったという側面もあっただろう) 結果的に、そして幸運にも、リップが関わっていない音源を聴いたスタローンは彼らの音楽を気に入り、白羽の矢を立てることになるのだ。

 はからずも「マイ・ライフ」のMVをきっかけに、ビリー・ジョエル、サバイバー、シルベスター・スタローンがどういうわけかなんとなく自分のイメージのまま結びついてしまった。これは評論でも批評でもなんでもない、どうでもいいことだけれども、でもそんな楽しみ方でコーフンするのもまたいいものだ。今年も大いに音楽を楽しもうと思う。


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年末に出たビリー・ジョエルのムックにも寄稿しております。こちらもよろしくお願いいたします。

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