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「アイ・オブ・ザ・タイガー」の衝撃と純朴な音楽職人 / ジム・ピートリックを語る①

<はじめに。ジム・ピートリックというアーティストをご存知でしょうか? ロック好きでなければ”アイ・オブ・ザ・タイガーの人”とばかり認識する人が多いように思えます、が、そんな偏ったイメージを払拭すべく、ジムという素晴らしいアーティストについてこちらで取り上げようと思います。不定期シリーズですがお付き合い頂けましたら幸いです>

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映画『ロッキー』シリーズに使われた音楽といえば、多くの人は真っ先にビル・コンティのスコアを挙げるだろう。ロッキーのひたむきな姿とコンティが作ったあの勇ましい音楽はセットになって人々の記憶に焼きついているのではないか。

 ただし、ロック好きでヒット・チャートを追いかけていた自分にとっての『ロッキー』といえば「アイ・オブ・ザ・タイガー」である。サバイバーが放った「アイ・オブ・ザ・タイガー」はヒット・チャートを瞬く間にかけ上がり、やがてナンバーワンに。その後順位を落とすも、長期に渡ってチャート上位に居座り続け、年間チャートでも2位を記録(1位はオリヴィア・ニュートン。ジョンの「フィジカル」)。この曲が入っている同名アルバムも売れまくった。映画もヒットしたが、この曲はもっと売れ、いまや80年代のロック・クラシックとなった。

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 曲の作りはとてもシンプルだ。デイヴ・ビックラーのヴォーカルを前面に押し出し、バンドはそのヴォーカルに沿うことに徹している。演奏のアレンジはいわば完全無欠の歌伴である。そのため、ドラムとベースは単調といえば単調、特段派手な展開があるわけでもない。イントロはスリリングだが、バンドの聞きどころはそれくらい。そんなわけもあって、当時の自分にとって、この曲はなんだかパッとしない印象だった。

"これ、そんなにヒットするような曲かなぁ?"

ミュージック・ビデオを見ても、街角を歩くメンバーがぜんぜんカッコよくない。というか見てて恥ずかしくなるほどカッコ悪い。近所のロック兄ちゃんがスタジオ練習しているみたいな演奏シーンも地味で、物足りない。いくらヒット映画『ロッキー』シリーズの挿入歌といっても、なぜそんなに売れるのだろうか? そのメガ・ヒットぶりは疑問だらけだった。当時の自分はそんなふうに思っていた。


 ところが、それからしばらくしてこの曲はジワリジワリと自分に攻めこんできた。単調に聞こえていたドラムのビートが、ボクサーが闘っているときの"時間の流れ"に聞こえ始めたとき、そこにある張りつめた緊張感が急激にこちらに迫ってきた。

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