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一度活字離れした若者が再び読書をするようになった話


もうすぐ29歳になる。

高齢化した生まれ故郷では私も十分に若者だろうが、都会ではもうその称号を手放さなければならないなと、昨日渋谷を歩いていて思った。

タイトルにある若者とは、今よりもう少し若かった頃の私のことだ。具体的に言うと15歳から27歳までの、東京でも若者と言い張れる年齢だった頃の私だ。

12年間、私はほとんど本を読まなかった。

高校時代はmixiとアニメと音楽で忙しかったので、教科書と参考書以外は1冊も読んでいない。

大学時代は、6年間で4冊。(大学を変えたり留年したりで6年間通ってました)

社会人になって、最初の3年は0。恋愛リアリティーショーとアイドルのオーディション番組を観まくっていた。

12年で通算4冊。

こんな人は私以外にもたくさんいるだろうし、むしろ多数派なんじゃないの?と思っているけどどうだろうか。

みんな言わないだけでもっと本を読んでいるのだろうか。


12年間で4冊しか本を読まなかった私も、中学生までは自他共に認める読書家だった。

実家には大小様々な本棚が10個はあり、壁は本で埋め尽くされていた。親から本を読めと言われた記憶はなく、気づいたときには自ら手に取って本を読んでいた。

小学校の図書館では本を毎日借りた。当時は、本の背表紙の裏に図書カードを挟む「耳をすませば」方式だった。図書カードに借りた日付と名前を書くのが好きだった。

特に読んでいたのは、江戸川乱歩の少年探偵シリーズだ。読書感想画にも選んだ。表紙の絵が暗くて怖い雰囲気だったのを覚えている。

夜遅くまで毎日本を読んでいたから、母親に早く寝ろと言われる始末。それくらい本が好きだった。

小学6年生でアニメに出会った。涼宮ハルヒの憂鬱が流行っていた時代だ。その頃から読む本はライトノベルに変わった。毎日夢中になって読み漁った。

中学2年生になって、離島に引っ越すことになった。人口130人ほどの島では、インターネットもまともに繋がらなくてアニメを観られなくなった。ライトノベルを買う本屋もなかった。

仕方なく学校の小さな図書館の本を読むようになった。難しい本を読んで、そこに出てきた難しい漢字を読み書きできるようになるために練習をした。賢くなった気分になって楽しかった。

島には高校がないので、本土の高校に進学した。

インターネットが繋がる喜び。アニメを観まくる日々。mixiやホムペで同級生と繋がるのが楽しい。SNS時代の走りである。

ネットの世界が楽しくて、あっという間にライトノベルも本も読まなくなった。

本を読まなくなったら、親や教師から本を読めと言われるようになった。読めと言われると読みたくなくなった。

大学生になり、ちょうどその頃iPhoneが普及し始めたから、私も例に漏れずiPhoneを買ってもらった。

iPhoneを買ってすぐTwitterをインストールした。140文字の軽い言葉たちに慣れきった頃には、もうブログの文字数にすら耐えられなくなっていた。

絵に描いたような活字離れ。

あんまり〇〇離れという言葉は好きじゃないけど、活字離れだけは実体験があるから肯定できる。

私の脳は文章を拒絶した。うえっ、ながっ、何を書いてるのか分かんない、つまんない。

「大学時代に読んでおくべき本」をたまに調べてみたりもしたけど、どう考えても読める気がしない。

しかし、昔は読書家だったという妙なプライドのせいで、大学生なんだし読むなら歯応えのある本だよなと思って難しい本を買った。

でも、ブログも読めないんだから、本なんて当たり前に読めなかった。大学に入って最初の3年間で、文字をまともに読むことができなくなってしまった。

読めないくせにプライドだけはあるもんだから、周りには「結構本読むよ」と虚言を吐き、タイトルだけ知っている本をお勧めしていた。恥ずかし!

大学生活も後半になった頃、ラジオでオードリーのオールナイトニッポンを聞くようになった。オードリーが好きになって、その延長で若林さんの書いた「ナナメの夕暮れ」をAmazonで買ってみた。

いままでは1ページ読むだけで吐きそうになっていたが。

ペラ…

ペラ…

…読める。

なんて読みやすい文章なんだ。

7年ぶりに本を読み切った。

続けて、山里亮太さんの「天才はあきらめた」を読むことにした。……やっぱり読める!芸人さんの書いた文章は読める!

しかし、このまま他の本も読んでみようかな?とはならなかった。

芸人2人の本以上に読みたいと思える本はなかったし、アニメ、ドラマ、SNS、YouTube、音楽にゲーム、スマホには楽しいものがなんだって揃っている。ベッドの上でゴロゴロしながら時間を消費する日々を過ごした。

そんなある日。バイト先のキャバクラでお客さんから1冊の本を勧められた。宮部みゆきの「長い長い殺人」だった。

勧められたのだから読まなければという私の持つ元来の真面目さが出て、ブックオフで文庫版を買った。表紙が暗い雰囲気の推理小説。江戸川乱歩の少年探偵シリーズとどことなく似ていた。

読んでみた。語り部が「財布」だった。複数の登場人物の財布目線から、一つの事件の真相を描くという奇抜な設定。

あっという間に読破した。感動した。この本自体にも、こんなに長い小説を読めた自分にも感動した。

面白かったです、とお客さんに感想を伝えると、今度は楡周平の「砂の王宮」を勧めてくれた。早速購入。読んだ。読めた。感動した。

こうして少しだが、読書ができる体力を身につけて、大学を卒業した。

社会人になった。社会人たるもの本を読むべしとビジネス書を上司に勧められた。

何冊か買ってみたけど、1ページ読んで本を畳む。読めなかった。精神的に疲弊している中で本なんか読めない。毎日12時間働き、休日出勤も当然の新社会人に、本を読む余裕なんてなかった。

一方、動画なら何も考えなくても観ることができた。

ストーリーがあるものは観ていても仕事が気になって集中できないから、恋愛リアリティーショーと、アイドルのオーディション番組を口を開けながらボケーっと見た。一生懸命頑張る人を、死んだ目で見つめた。

そんな生活が2年続いた。このままじゃいかんと、転職をした。休日出勤なんてもっての外、平日は7時間勤務のフルリモートワーカーとなった。その頃結婚もした。

心と時間とお金に余裕ができた。

すると、本でも読んでみる?という気分になった。

ツチヤタカユキの「笑いのカイブツ」を買った。またまたお笑いの本。すいすいっと、最後まで読めた。

そこから私は、noteで見つけた岸田奈美さんや幡野広志さんの本を読んだ。読みやすい話口調の文章。どんどん読めた。活字にも本にも抵抗がなくなった。

今なら難しい本やビジネス書も読めるかな?と、買ってみた。

やっぱり読めなかった。難しい言葉への拒絶反応は続いていたし、興味のない本は途中で読むのをやめてしまう。

私は自分のプライドを折ることにした。もう、難しい本を読もうとしなくてもいいや。昔読書家だったことに拘らなくていいや。別にどんな本を読もうと、年間何冊読もうと、誰に自慢するわけでもないし。

そこから心が楽になった。本屋に行って、図書館に行って、とにかく読みやすそうで面白そうな本を読む。1ページ読んで頭が拒絶したものは買わないし借りない。難しい文章を読めることはステータスにならない。



最近は、スマホを手に取っても、ホーム画面を眺めて「やることないな」と閉じることが増えた。生活の基盤になりすぎて手放せないけど、この小さな画面で無駄に時間を過ごすことも減った。

それよりも本を読むのが楽しい。

これってスマホ離れというんじゃなかろうか。

本って著者がけっこう言いたい放題言ってても、本という閉じられた世界での発言だから、拡散しにくくて炎上もしにくい(と思う)。そういう、自由があるところも好きだ。

アニメやドラマも引き続き楽しんでいるが、本を読む時間が圧倒的に長くなって、今年に入って1ヶ月半で10冊の本を読んだ。

誰かに読めと言われるわけでもなく、「社会人が読むべき20冊」の中から選ぶわけでもない。

ワクワクするからゲームをする。
好きだから推しを応援する。
気持ちいいからサウナに行く。

そんな感じで本を読むことにしたら、あれも読みたい、これも読みたい、がどんどん広がって、小学生の頃に図書館で感じていた気持ちが蘇ってきた。

今はとにかく本を読むことが楽しい。

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