感染症専門医が解説!「サル痘予防のための天然痘ワクチン」

サル痘は、ポックスウイルス科オルソポックスウイルス属のサル痘ウイルスによる急性発疹性感染症です。1980年に世界から根絶された「天然痘」に病態がとてもよく似ており、症状だけで、サル痘と天然痘の2つの疾患を鑑別することは困難といわれています。日本では感染症法上の4類感染症に指定されている感染症です。

2022年5月以降、欧米を中心にアウトブレイクが起きています。日本では2022年9月25日時点で5例の報告にとどまっていますが、WHOには2022年9月18日時点で、105カ国と地域で6万1753例の確定例、23例の死亡例(ナイジェリア6例、ガーナ4例、カメルーン2例、中央アフリカ2例、スペイン2例、ブラジル2例、スーダン1例、ベルギー1例、キューバ1例、エクアドル1例、インド1例)が報告されています [1]。

皆さんは、サル痘の予防方法を知っていますか?サル痘の予防方法のひとつに天然痘ワクチンの接種があります。この記事では明日からの診療に役立つ、サル痘予防のための天然痘ワクチン接種についてご紹介します。

日本で使用可能な天然痘ワクチンはLC16m8である

天然痘ワクチンは、サル痘ウイルスと同じオルソポックスウイルス属のワクチニアウイルスを弱毒化して作成したワクチンです。勘違いをされることがありますが、天然痘ウイルスを用いて作成はされていません。天然痘ワクチンは第1世代から第3世代に分かれます。

第1世代のワクチンは牛の皮膚を使用して培養され、天然痘根絶期に使用されました。第2世代のワクチンは、第1世代のウイルスを細胞培養したものを使用して開発され、弱毒化されていません。ACAM2000が第2世代の天然痘ワクチンに該当します。第3世代のワクチンは第1世代のウイルスを弱毒化したものを使用して開発されました。

日本ではヒトの体内で増殖性がある「LC16m8」というワクチンを使用します。一方、海外で使用されるワクチンは、ヒトの体内で増殖性がないMVA-BNというグループのワクチンです。MVA-BNの中で、欧州ではImvanex、米国ではJynneos、カナダではImvamuneが使用されます。

LC16m8は、日本では国家備蓄しているワクチンで、安全性が高く小児から成人まで使用可能です。接種する際は、二又針を用いた多圧迫法による1回の筋肉注射をおこないます。海外で用いられるMVA-BNのグループのワクチンは、いずれも皮下注射で、4週間あけて2回接種が必要です。

天然痘は1980年に地球上から根絶されたため、日本では1976年以降、天然痘のワクチン接種はおこなわれていません。

サル痘に対して天然痘ワクチンを接種することで曝露前後の予防効果がある

現在、世界でサル痘に対するサル痘ワクチンはありません。その代わりに、天然痘ワクチンを曝露前に接種することで、約85%のサル痘の発症予防効果があることが報告されています。また曝露後は、4日以内であれば感染予防効果が、4〜14日以内であれば重症化予防効果があります [2]。

2022年9月25日時点で、日本ではサル痘の曝露前に対するLC16m8の接種が承認されていますが、ワクチンは国家が備蓄しているため一般に流通していません。サル痘の曝露後におけるLC16m8の接種は、特定臨床研究で濃厚接触者を対象におこなわれています。

天然痘ワクチンは生産が難しく、天然痘に対して国家が備蓄しているワクチンでもあるため、使用できる数が限られているワクチンです。そのため、ワクチン接種をおこなう優先順位が大切です。

WHOは、中等度以上のリスクのある接触者に曝露後予防、サル痘感染者を診療する医療従事者やウイルスを取り扱う研究者等に曝露前接種を推奨しています [3]。英国における曝露前接種の優先度が一番高い対象は、医療従事者への1回目接種です。曝露後接種では、6歳以下の小児、免疫抑制者等、重症化リスクの高いグループを優先し、次に複数の性的パートナーを持つ男性と性交渉をおこなうMSM(Men who have Sex with Men)など継続的な曝露のリスクが高い者を優先しています [4]。

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