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デザインに必要な3つの力

前回、「デザインとは関係の構築である」という精神論を書いた所、たくさんの反響をいただきました。ありがとうございました。

その冒頭で、デザインに必要なのは技術だけではないと書きました。じゃあ技術以外に何があればいいのか、という話を今回はお伝えできればと思います。もちろん、私の考える精神論ですので、諸説ありという前提でお願いします。

私は、常々デザインに必要なもの3つあると思っています。まず一つ目は、当然「技術=Technic」ということになります。これはもう疑いようがなく、プロのデザイナーになるならば、前提条件として持っていなければならない最低限のスキルです。

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このTechnicは、学校で習ったり、本を読んだり、仕事の経験を積んだりすることで、身につけることができます。もちろん、人によって得意・不得意があるので、必ずしも「誰でも頑張れば身につけられます!」と簡単には言えないのですが、努力次第で身につけることのできるスキルではあると思います。

3つの要素をイメージしやすいように、例を考えてみます。たとえば、仮に「A!」(あ!)というブランドのロゴをデザインするとしましょう。

テキトーに考えたものなのであまり意味はないのですが、ともあれまずは「A」という文字と「!」という記号を、キレイにレイアウトする必要があります。このとき必要なのが、前回の話でいうところの「関係」をつくるためのTechnicなわけですが、これは言うなれば、表現物をキレイに整えるための「作る力」です。

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ロゴをデザインすると言っておきながら、お世辞にもキレイとは言えないようなヨレヨレの文字では、よっぽどの狙いがない限り、良いデザインとは言えないでしょう。

このとき、ある一定のTechnicを使うことで、見た目の良いものを作ることができます。それだけでも十分に「デザインした」と言えると思うのですが、前述の通りTechnicは多くの場合、方法論が確率されたものであるため、同じTechnicを駆使すれば、誰にでも同じようなアウトプットを再現することができてしまいます。

当然、つくる人によってアウトプットは微妙に異なるはずですが、どこにでもあるような凡庸なデザインでいいのなら、わざわざプロに頼む必要はありません。やはり、これだけでは何かが決定的に足りないのです。

そこで必要になるのが、「Idea」です。

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Ideaというのは、なかなか一言で説明するのが難しいのですが、ここでは企画創意工夫という言葉が近いかもしれません。このIdeaは、Technicと違ってハッキリと言語化しづらい、捉え所のないものに思えるかもしれません。おそらく、ここに苦手意識を持っている人は多いのではないでしょうか。

アイデアとは何か、どう発想すればいいのかについては、ここで簡単には説明しきれないのですが、これを敢えて先ほどの「A!」のロゴを例に当てはめて考えてみましょう。

先ほどの例のように「A!」という文字をキレイにレイアウトすれば、ロゴとしての機能は十分に果たしています。ただ、これだけではどうにも面白くありません。

面白くないということは「興味をそそられない」ということです(※詳しくは拙著「面白い!」のつくり方 をご参照ください)。企業や商品などの象徴としてのロゴであるはずなのに、誰からも興味を持ってもらえないのでは、やはり良いロゴであるとは言えないでしょう。

通常、あまり露骨なアイデアはよくないのですが、ここでは分かりやすさ重視ということで。例えば「A!」という語感のイメージから「A」の文字が「ビックリした人の口」に見えたとしましょう。そう考えると、「A」に目玉でもつけてやれば、ちょっとかわいいキャラクターのように見えるような気がしてきます。

アイデアというのは多くの場合、こんな風に他愛もない連想ゲームから生まれたりするものです。この例が本当にいいかどうかはさておき、アイデアを発想するのに必要なのはこうした「考える力」なのです。

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人間というのは不思議なもので、目玉をつけるだけで大抵のものはキャラクターのように見えてきて、グッと愛着が湧いたりするものです。文字だけの「A!」と目玉の付いた「A!」、どっちが興味をそそられるでしょうか?

もちろん、すべてのデザインにアイデアが必要かというと疑問なのですが、小手先の技だけではなく、ちょっとした気の利かせ方がデザインをより魅力的に見せてくれることは間違いないと思います。

ただ今回の場合、この「A」が「あ!」と驚いているというアイデアを思いついたのはいいものの、これだけでは必ずしもその真意が伝わらないような気もします。そこで必要になるのが「伝える力」、つまりは「Communication」です。

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せっかく思いついたアイデアを、どう相手に伝えるか。Technicを駆使して作り上げたデザインを、より魅力的に相手に伝えるにはどうすれば良いか。デザインには必ず解決すべき課題がある以上、伝わらなければ意味がないのです。

このCommunicationは表現上の話だけではなく、相手との会話においても重要になります。ただ表現するだけではなく、その良さを相手に伝えるための言語化スキルも必要になるでしょう。

これら3つの中で最も見落としがちなのが、このCommunicationかもしれません。TechnicIdeaに溺れてしまったがために、そもそも伝えるべきことがボヤけてしまう、ということは往々にしてあります。かといって、分かりやすければいいかというと、それはそれでつまらないものになってしまったりします。

すべては3つのバランスが大事なのです。

最も基本となる「Technic」を下支えする「Idea」と「Communication」。これら3つの関係性によって、見た目は当然美しく、多少ウィットが効いていて面白く、言いたいことがよく分かる。そんなデザインが理想的であると、私は考えています。

これも先ほどの「A!」に当てはめてみると、どうなるでしょうか。「A」が「あ!」と驚いていることを、より分かりやすくしてみましょう。

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うーん…自分で言うのもなんですが、例としてはどうなんでしょう(笑)かなりあざとい気もしますし、ロゴとしてはおよそ成立しなさそうですが、ここでの言いたいことは伝わるでしょうか。

何はともあれ、デザイナーに必要なのは、

「Technic」=「作る力」
「Idea」=「考える力」
「Communication」=「伝える力」

この「3つの力」なのではないかと思うのです。

いくら技術があっても、アイデアがなければ面白いものは作れません。また、いいアイデアがあってもそれを実現する技術がないのでは、形にすることができません。そして、そもそもそのアイデアや、技術に裏づけされた造形としての美しさが相手に伝わらないのでは、まったく意味がないのです。

逆に考えれば、デザインを見るときには、

そのデザインに「技術」による美しさはあるか。
そのデザインに「アイデア」はあるか。
そのデザインは「伝わる」ものであるか。

このような視点で見てみると、良し悪しの判断がしやすいかもしれません。

何てことのない、当たり前のことのようにも思えるかもしれませんが、この3つのバランスが悪く、テクニックに頼りすぎだったり、これ見よがしなアイデアに偏りすぎてしまっていたり、伝わりやすさを重視するばかりに説明的でつまらないものになってしまったりしているデザインは、世の中にたくさん存在しています。

もしもあなたが優れたデザイナーを目指すのであれば、単純に「作る力」だけを磨くのではなく、「考える力」「伝える力」も磨く必要がある、ということでもあります。

もちろん、エラそーに言っている私も、すべてを完璧にできるわけではなく、まだまだ修行中の身ですので、「3つの力」をそれぞれ意識的に鍛えている道半ばです。

特に「伝える力」は重要だと思っており、このnoteで精神論を伝えようとしているのも、その修行の一環であると思っています。うまく伝わっていればいいのですが…。

ということで、ちょっと長い精神論になりましたが、今回はこの辺で。また次回お会いしましょう。


↓ 前回紹介した「デザインの読み方」 

↓ ポートフォリオです。よかったらご覧ください。




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