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エッセイ | つれてまわってくれる

いとこが運転する車の助手席に座り、私は流れゆく景色を眺める。

「こんなところにお店なんてあったっけ?」と私はいとこに尋ねる。
「このお店は随分前にできていたよ。知らなかった?」いとこは前を見たまま答える。

「そうだっけ? 帰省してもこっちの方にはあまり来ないから知らなかったかも」私はなんとなく過去の記憶をあさってみるけれど、やはり思い出せない。

地元の変化を知れるとなんだかうれしくなる。どんどん進歩していっているのが分かる。それとは逆に、昔からあったものがなくなっていると悲しい。


「じゃあ隣の市にできたショッピングセンターへ行こうか? まだ行ったことはないでしょ?」と、思い出したかのようにいとこが提案してくる。

長い付き合いだから分かるが、これは私を連れていきたいのではなく自分が生きたいのだ。

「どっちでもいいよ」私が笑いながら答えると「じゃあ連れていってあげる」と恩着せがましく言ってくる。

そのショッピングセンターは何年か前にできたため何度か行ったことがあるのだが、そっちの方面に行ってみたかったので何も言わなかった。


「そっちにはカルディとかスタバとかもあるんでしょ? こっちはここまで来ないとダメなんだよね」といとこは羨ましそうに話す。

「カルディなんて近所に4店あるし、スタバも6店くらいあるよ」少しだけ大げさに私が答えると、いとこはさらに羨ましそうにしていた。

そう言いながらも、私が高校生の頃に近所にこんなお店ができていたらうれしかっただろうなと思った。娯楽などないところだったのに、気付けば娯楽があふれた街になっている。

自分が気づかないうちに「私たちが子どもの頃なんか……」と思う大人になってしまった。こう言っている大人はいつも楽しそうにしていたのに、いざ思ってみるとなんだか悲しいものなんだな。


「帰りは違う道で帰ろうか。新しい発見があるかもしれないし」結局私たちはいろいろなお店を見たがなにも買わず、1階のスーパーで飲み物を買って出てきた。

帰り道に初めて見るものはなかった。昔から知る街並みのためか懐かしさがあった。

「このショートカットってまだ使えるんだ」私が小学生の頃から知っている抜け道だ。ここを通るとワクワクしていたのを思い出す。
「新しい道もできたけど、やっぱりこの抜け道は優秀だよ」いとこは抜け道の優秀さを確認するようにゆっくりとつぶやいた。

久しぶりにこの道を通ったからか、それとも昔からあるものが今も変わらずに使われているからなのか理由は分からないけれど、なんだか少しだけ元気になった気がした。



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