『火定』

澤田瞳子
PHP 2017年

著者が何かの賞をとられた時にニュースを見て、面白い読み方の名前だなと印象に残っていた。今回は珍しくジャケ借り、というか、表紙がと題名が目について帯を読んで「面白そうだな」と思って著者を見たらこの方だったので、「読んでみよう」と思った次第。

全体の感想としては、とにかく読みやすい。
帯に【天平】【藤原四兄弟】とあったものの、平安くらいかなと思って読み始めたら平安よりも前の奈良時代だった。これくらいの時代は人の名前も馴染みが無さすぎる&長いので頭に入りにくいのだけど、たまたまなのか私の頭に入りやすい漢字と短さだったので混乱しないで済んだ。
また、疫病流行という非常事態に対してどうするのかと興味を持ちながら読み進められたし、数人の主人公の心情がしっかりと描かれていて感情移入がしやすい。物語としてよくできている感じ。

平安時代って、女房文化、十二単、きらびやか、知的、なイメージが表に出ている気がするけど、私は絶対にこの時代に生まれたくないと思っている。女性が外に出ていきにくい、恋愛も家で待ってるだけ、寒い、強盗が入っても何もできなさそう、衛生的でない、そして疫病が流行ってもほとんど対処できない。
そりゃ恋人の心変わりだけで病気になって亡くなるほどの腺病質になったり、六条の御息所みたいに生霊にもなるわって気がする。

この本の設定は、それよりも前の奈良時代。そういえば、藤原氏の有力者が高熱で次々に亡くなったと習った気がする。衛生面や病気への対象法などは平安時代と大差ないのだろうけど、とにかく「きつい」。人はすぐに亡くなるし、亡くなった後の表現なども読むと「確かに、こうなのだろう」と思える。現代は死が遠くなりすぎていると言われているけれども、こんなに身近にありすぎる時代もやっぱり嫌だ。
ボウフラが湧いた水を飲む、という場面もあって、それが特別な感じでもなかったので、実際にそういう状態だったのだろうしそれで体を壊すでもないくらい普通だったのだなと思うと「ある意味体が強かったのだな」とも感じる。

で、もちろん、今この本を読んで思うのは、現代の新型コロナウイルスの流行。それなりに効果がある薬ができて、ワクチンができて、科学の進歩ってすごいな。衛生観念ってすごいな。その知識を持つってすごいことだな。

現代の薬であっても、元々は昔から使われていた薬草の成分であることも多いと聞く。昔の人はどうしたら調子の悪さから回復できるのかと試行錯誤して、この本に取り上げられているような疫病の大流行の時などにも「どうしたら死なないのか、悪化しないのか」と悪戦苦闘した人がいて、その経験則から出来上がった結晶が現代に生きているのだと思うと、科学というのは一足飛びに出来上がったものではないと改めて思う。
今でもウィズコロナでいろいろ大変ではあるけど、今の知見がこの先に使っていけるのだろうし、人間ってのは賢くて愚かだからその両方が未来に役立つのだろう。

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