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「さようなら、私」(小川糸 著)

最近、小さな付箋がたくさん入っているしおりを使うようになりました。これが思った以上に良い。もともと記憶力があまり良いほうではないので、読んだそばから忘れていってしまうんです・・・。下手をすると同じ本なのに、終盤を読んでいる頃にははじめの方の話を忘れてしまっていたりする笑 同じ本を再読することはあまりないんですけど、それでも自分が心を動かされたところが後から振り返られる状態になっている、というのは安心感があります。

さて小川糸さんは、先日エッセイ集を読んで良いなあと思った作家さんです。この本でも、一つめの短編「恐竜の足跡を追いかけて」でエッセイ集で語られていたモンゴル滞在が主要な題材になっていて、広大な土地にたたずむってこんな気持ちがするものなのか、と思いを巡らせることができました。

・・・結局、頭使って生きてるのって、こういう原始的な暮らしを送っている人達のほうなんだよな。一見、俺達の方が先を進んでいるような気分になるけど。どう考えても、俺らの方がアホ化している」

恐竜の足跡を追いかけて(小川糸)

これは屋久島の自然に囲まれたときにも同じような思いを感じましたね。都会にいると全てがお膳立てされていて、そんな中にいるとなぜか自分が何でもできるような錯覚に陥りがちですけど、全然逆なんだなと。

二つ目の短編「サークル オブ ライフ」、三つ目の「おっぱいの森」と、徐々に主人公が抱える闇が深くなっていくのがうまいなあと思いました。自分を保っていくのさえ嫌になるような混沌のなかでもがく主人公たち。それでも自分でなんとか一歩を踏み出し、少しずつ癒やされ前向きになっていく様子は、読んでいてとても勇気づけられます。

サクラちゃん、ここは決して、悲しみの背比べをする場所ではないのよ。
ここはね、人生の疲れを癒やして生まれ変わる、そういう場所なの。

おっぱいの森(小川糸)

この一節は泣きました。どうしようもなく傷ついている時、つらい悲しいと泣く時期ももちろん必要だけど、人を癒やすことを通じて自分も少しずつ癒やされて、生きるエネルギーを得ていく、そういうことは実際にもあると思います。必要なのは、大事なところで繋ぎ止めてくれる人、そっと見守ってくれる人の存在。私もいつかそういう存在になれるのかなあ、なれたらいいなあ、などと考えさせてくれる本でした。



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