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冬の手

偶然に写真に写り込んだ自分の手を見て、ああまるで大人の手のようだなと思う。ほどほどに節が立って骨が見え、直線的な凹凸がある。そして赤い。私の冬の手はいつも赤い。

しもやけと言っても、わかってもらえる人は少ないかも知れない。出会って間もない人には、「手、どうしたの?」と驚かれたりする。今は赤いだけだが、年明けにはさらに膨らんで、切れて血の出ることもある。暖かくなると直り、毎冬傷を得る手は年を寄るのも早かろうが、それでも、春から次の冬までは、霜焼けの跡形もない普通の手となる。

今年は2週間ほど前から指が膨らんできて、指輪ができなくなった。常にしていたものをせずに外出するのが寂しくて、かろうじて指輪の通る薬指に指輪をしてみたりする。もう随分前、左の薬指から指輪が消えた時には、指の周りに風が吹くのを感じるほど寂しかった。がやがて慣れた。手洗いに次ぐ手洗いに明け暮れた昨春は、全く指輪をしなかった。リングごと泡だてて洗うようになったこの冬も、そのうちに空虚な指周りに慣れ、そして春がくるだろう。

運動をして血の巡りが良くなれば、と期待した時もある。しかしジョギングを習慣にしたくらいでは何も変わらなかった。しもやけにはビタミンEが効くと読み、アーモンドをよく食べるようになったが、どうやらこれもたのしい気休めでしかない。もはや充分な大人となり、角張った手が、やわなままの心を支えている。野菜を洗って切り、お椀を受け、床を拭いて植木に水遣りをする。父の腰を支え、母と洗濯物を干し、そうだった絵を描いて、手は休む暇もない。
よく働く赤い手と、これからあと何回の冬。




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