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[#44] ホストマザーとの思い出

私のホームステイ先は、当時78歳だった元気なおばあさんと猫1匹が暮らす家で、留学生3人が滞在していました。
ホストマザーはホスト歴15年以上の大ベテラン。これまで100人以上の留学生を受け入れきた人です。

はっきりと聞いたことはありませんが、2人の息子を育て上げ、軍に勤めていた夫に先立たれた後、空いた部屋の有効活用をしようということでホストマザーを始めたのではないかと思います。高級住宅街と言われているホーヴ Hoveに持ち家があるので、おそらくミドルクラスかアッパーミドルクラスの人で、ホスト業は収入源でもあり、趣味か、あるいは暇つぶしだったような感じでした。

とはいえ金銭的な管理はしっかりとしている方で、水の使い過ぎは厳禁(シャワーは7分以内で1日1回まで)、ティッシュも使い過ぎると「自分用を買いなさい」と言われ、朝ごはんのパンのおともは、マザーはバター、留学生はオリーブオイルスプレッド(オリーブオイル原料のマーガリン状のもの。向こうでは安い。)、ティーもマザーはいい茶葉、留学生はやっすいティーバッグ、コーヒーもマザーはエスプレッソマシン、留学生はインスタントコーヒーでした。

(オリーブオイルスプレッドってこういうのです。)

普段の会話も得する話が大好きで、やれ友人と食べに行ったランチは何£だったけど値段のわりに美味しかっただの、やれどこかでいいものを安く買えただの、ロンドンまで行く電車はこの方法が一番安いだの、旅行に行くなら早く安い航空券をとりなさいだの、日常会話はとにかくお金の話が多かったです。

これだけいうと非常にケチケチしたおばあさんのイメージになりますが、無駄に損するのが嫌いなだけなようで、パーっと使う時もありました。
近くに住んでいる肉屋の息子さんが、庭でBBQをやる時はお酒を振る舞ってくれたり、いいお肉が手に入ったから今日のディナーはステーキよ、って出してくれたりと、気前のいい時もありました。

彼女の一日はスケジュールが決まりきっていて、
AM 6:00 起床
 晴れていたら海でひと泳ぎ
 曇りだったり肌寒い日は庭の手入れ
 雨の日は読書
AM 7:00 留学生たちの食事の準備
 基本はセルフサービスなのでお皿出すだけ
AM 8:30 掃除
 留学生を送り出したら家のお掃除
AM10:00 庭の手入れか洗濯
 イギリスは週に1〜2回しか洗濯しません
AM12:00 家か外でランチ
PM 1:00 買い物
PM 3:00 ディナーの支度
 うちのマザーのディナーは90%手料理でした
PM 5:00 休憩
PM 6:30 ディナー
 原則、夕食は全員揃って食べる
PM 7:30 ディナーの片付け
PM 8:00 テレビの時間
PM10:00 就寝

マザーは絵に描いたような憧れのリタイア生活を送っていました。
そして78歳とは思えないくらいパワフルで、気がつくと友達と国内外問わず旅行に行っていたり自由な人でした。

きれい好きな人だったので、おかげで家の中はいつもスッキリ整理整頓されていたので、日々を心穏やかに過ごすことができました。

マザーは料理が得意で、よく手の込んだものを作ってくれました。
定期的にサンデーローストも作ってくれましたし(なぜか火曜日だった)、ウサギ肉のミートボールなんかも美味しかったです。
私以外に台湾からの留学生がいたときに、アジアっぽい味付けの野菜炒めとタイ米っぽいご飯を出してくれたことがあり、ちょっと惜しいけどその心意気がありがたくて、素直に「嬉しい!」と伝えたらマザーも喜んでいました。

当時存命だったエリザベス女王のプラチナムジュビリーの時は、家の玄関に国旗を飾り、テレビ中継をちゃんと全編観ていた人。
フランス料理とイギリス料理は親戚みたいなもので、イギリス料理だって負けてない、って大真面目な顔で言っていた人。
ビーフ、ポーク、ラム、ウサギ肉は美味しいけど、チキンは食べても楽しくないから嫌いって言っていた人。
アラビックは食の制限が多くて料理の作りがいがないから受け入れないことにしてるのって言っていた人。
飼い猫を溺愛していて、猫とすれ違うたびHello babyっていつも話しかけていた人。
性格悪いっぽいこと言っている日もあれば、留学生が喜びそうなこともしてくれる、基本的には面倒見のいい人。
お世話になる初日に日本のお土産だよって渡した緑茶のティーバッグを、私が帰国する日まで未開封なまま同じところにずっと置きっぱなしにしていた人。(別にいいけど。)

そんなマザーでした。

今は連絡もせずすっかり疎遠ですが、元気にしてるといいなあ。

ではまた。

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