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【投資】米国ハイイールド債の魅力〜機関投資家の矛盾

ハイイールド債券とは、信用格付けが低い分(倒産、デフォルトの可能性が高い分)、利回りの高い債券のことで、通称"ジャンク債"とも言われます(なので、上の画像は"ジャンク"ってことで選んでます^^;)。具体的には、信用格付けがBBB格以上を投資適格債、BBB格未満(BBとか、CCCとか)をハイイールド債(投機的格付債、ジャンク債)と区分されます。

"ジャンク"とか"投機的"とかって言われるので、「なんだか危ないもの?」って思われがちなハイイールド債、実は結構魅力的な投資対象であり、個人的には結構好きです。今回はそんなハイイールド債の魅力について書きたいと思います。


魅力的なハイイールド債のリターン

ハイイールド債の魅力は何よりもそのリターンにあります。以下の表は各資産クラスの代表的なファンドの過去のリターンを見たものです。

iシェアーズファンドのリターン比較(マネックス証券より)

同期間のSP500には到底及びませんが(これは良過ぎ!)、安全性の高い投資適格の国債を中心に運用するファンドよりは高いリターン、そしてシャープレシオを示しています。10年で86%の騰落率、つまり年率にすると約6.4%のリターンです。株と高格付け債券の間くらいの特性と、ほぼ想定通りの結果です。

とはいえ…同期間の株のパフォーマンスが良すぎるので、「株の代替となりうる」と言えるかというと、そこまでの説得力はないですね(笑)来年からスタートする新NISAを想定すると、自分にとっては「まあ、普通に株でいいんじゃね?」って結論にはなりそうです…

ハイイールド債の特徴

そんな株と高格付け債との間のリターン特性をもつハイイールド債ですが、以下のような特徴があります:

  • 高格付け債と比較しても満期までの期間(残存期間)が短いです。投資適格ではない、つまり信用力の低い会社の場合、満期までの期間が長い債券を発行して資金調達をするのは困難です。結果として、信用力の低い会社が発行する債券、ハイイールド債の満期は短めです。

  • 残存期間が短いということは、デュレーション、つまり金利リスクが低いということになります。債券は一般的に金利が上がれば価格が逆に下がる特性がありますが、金利が上がったとしても、価格の値下がりへの影響が少ないのがハイイールド債の特徴です。

  • またハイイールド債には(通常の高格付けの社債もそうですが)国債の利回りに上乗せされるスプレッドというものがあります。そのスプレッドは、信用リスク(倒産リスク)に応じて大きくなるのですが、ハイイールド債は当然ですが、高格付けの社債に比べても高いスプレッドが乗っており、高い利回りを提供してくれています。

  • そのスプレッドですが、金利とは逆の動きをする傾向があります。具体的には、まず景気拡大期、金利は上昇傾向にありますが、ハイイールド債のスプレッドは、景気がいいので倒産/デフォルトリスクは低下、その結果スプレッドも縮小傾向になります。結果としてベースの金利の上昇は価格にはマイナスに働きますが、逆にスプレッドは縮小するのでその分は価格にはプラスです。逆に景気後退期、ベースの金利は低下、価格にはプラスに働きますが、景気後退を受け倒産/デフォルトリスクは拡大、その分スプレッドも拡大、価格にはマイナスに効きます。要は金利の影響とスプレッドの影響が打ち消し合うので、余計に金利の上下の影響を受けにくい、価格が安定した債券であるといえます。

ハイイールド債を避ける機関投資家の矛盾

そんなハイイールド債ですが、機関投資家からはあまり投資されておりません。もちろん、上記の特性を理解したうえで、分散の一貫、そして利回りスプレッドというリターン源泉の拡大を狙い、ポートフォリオにハイイールド債を組み入れている機関投資家もいます(そういう機関投資家、最近は増えてきているのかな?)。しかし多くの場合、「投資対象の格付けは"投資適格(BBB格)"以上」という投資ガイドラインを設定し、ハイイールド債を投資対象から除外しています。

ハイイールド債は債券ですので、発行企業の立場からすると返済順位は株より上位です。投資した金額が倒産した際に戻ってくる可能性は、ハイイールド債ではあっても同企業の株よりは高くなります。つまり、株よりも安全な債券、ハイイールド債ですが、なぜか機関投資家は、株の投資はOKなのに、ハイイールド債は投資適格未満だから…と投資対象から除外する、そんな矛盾が存在します。

例えば、ソフトバンクグループ(9984)。例が適切かどうかはちょっと微妙ですが、そのソフトバンクグループの長期債の格付けはBB格、つまり投資適格未満の債券、ハイイールド債です。2023年5月、大手格付け機関のS&Pが、同社の格付けをBB+からBB に引き下げてちょっとニュースになりました(どっちにしても、投資適格未満ですが)。そんなソフトバンクグループも機関投資家の株のポートフォリオでは普通に買われています。株よりも安全な債券が投資対象から除外され、株の方は問題なく買われている、そこは大いなる矛盾です。

その矛盾をうむのが、行動経済学で言うところの"メンタルアカウンティング"かなと。"メンタルアカウンティング"とは、「心の会計」とも呼ばれ、お金を全体としてとらえるのではなく、自分の心の勘定科目によって色分けし、その勘定科目の範囲の中で損得を判断するため、時に不合理な選択をする傾向があることを表します。例えば、苦労して得たお金は慎重に使おうとするが、投資やギャンブルで儲けた利益はあぶく銭と考えて、簡単に使ってしまうことなどがそれにあたります。

機関投資家のハイイールド債に対するスタンスも同じです。通常機関投資家は、個別の銘柄選択の判断をする前に、自身の資産全体を株にどれだけ、債券にどれだけ配分するか(資産配分)を決定します。それぞれの資産クラスにはそこに資金を配分する目的があり、株であれば「リスクをとってリターン追求」、債券であれば「安全にインカム狙い」みたいな感じで色分けされます。この段階で、株と債券では"心の勘定科目"が違うということです。その結果としてハイイールド債は、機関投資家の"心の勘定科目"から抜け落ちてしまう投資対象となっています。

機関投資家は"投資対象の分散"と"リターン追求"の観点から、かねてより"代替資産投資"、通称"オルタナティブ投資"を増やしてきました。たとえば、ヘッジファンドや、プライベート投資(未公開株や不動産など)。日常は売買されない、流動性リスクの高い投資対象ですが、その分リターンも高めというものです。「プライベートものは時価評価しなくていいから」という不純な動機もなくはないのですが、個人的には、例えば株のリスクを減らしつつリターンを安定させたいのなら、急にオルタナティブ投資なんて行かずに、ハイイールド債でいいんじゃないの?とは思っています。実際現役の頃に、お取引先の金融機関の機関投資家向けセミナーで同様の主張をしたことがありますが、予想通り手応えはなかったですけどね(笑)

ハイイールド債の投資機会・使い方

これまでハイイールド債の魅力(リターンの高さや、機関投資家が積極的に参加するマーケットじゃないこと)についてツラツラと説明しましたが、ではどう言う時にハイイールド債に投資をすればいいのでしょうか?そこは人それぞれで違うかもしれませんが、自分なりのハイイールド債の使い方について以下リストしてみます。

  • 基本当方は株好き、不動産好きですので、自身のポートフォリオの大部分は不動産と株です。もうちょっと保守的に行きたい場合は、そこから債券に分散するのではなく、面倒なのでキャッシュにしてしまっています。おそらく自分にとっては、ハイインカム系の資産クラスは不動産で十分に取っているって感じです(メンタルアカウンティングですね)。

  • ただ、過去に「リスクは取りたいけど、ちょっと心配」って時がありました。2008年から2009年のリーマンショックの頃、2015年のチャイナショックの頃でしょうか。あと最近ではコロナショックですかね。株価は大幅に下落、当然、自身のポートフォリオでも株も拾って行くんですが、100%の自信はない、であれば株と同時にハイイールド債も拾っていこうと。こういうショックの頃は、ハイイールド債のスプレッドも大幅に拡大、平時の株並みの10%程度の利回りになることもあります。そうなると、ダウンサイドリスクの大きい株よりも、ある程度ダウンサイドが限られる(なにせ債券ですから)ハイイールド債も大変魅力的に映ります。史上全体が大幅に下落している時、「本当は株を買っていきたいけど、そこまでの勇気はない、でもなんか投資したい」って感じであれば、このハイイールド債はいい選択肢だと思ってます。

  • また2024年からスタートする新NISA。これまで全く投資経験がなく、何かしないとなって思うものの、いきなり株っていうのも抵抗があるな、と思ったら、まずはハイイールド債から始めてみるっていうのもアリですかね。なんなら、私にとってのソフトバンク(9434、前述のソフトバンクグループとは違います)のように、定期預金代替でもいいですね。

新NISAも睨み、皆が株、株ってなっている中、あまり話題に取り上げられないハイイールド債を取り上げてみました。個人的には、多くは投資をしていませんが機関投資家があまり投資していないという点で好きな投資対象ではありますね。もうちょっと評価され、個人投資家の投資対象として話題になってもいいのかなって思ってます。

今回は為替のリスクは無視して議論しました。ハイイールド債は基本、米国のハイイールド債ですので、為替リスク(米ドル)はあります。もちろんそれをヘッジしている商品はありますが、超長期でみれば為替リスクも平準化されるかなって考えてます。

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