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ITプランナーがなぜ必要なのか

一言で言うと、目に見えない成果物であるITの世界観・達成できる物事を描けるロールの人材がいないと、ビジネス側もエンジニア側もアンハッピーだからです。

システム開発や導入の手順として、一般的に大きく分けると「上流工程」と「下流工程」の2つに分けて語られます。上流工程は、何のためにどんなシステムを作るのかを決める工程。後者の下流工程は、描いたシステムをどう作るかを決める工程です。

簡単に言えば、注文住宅の購入によく似ています。どの場所に、どんな広さで、どんな間取りで、どういう生活ができる家に住みたいのかを決めるのが上流工程です。下流工程はデザインした家の図面を引いて、施工する工程になります。建築士さんとITプランナーは、よく似た仕事をしています。

ITプランナーが担当するのは、主に上流工程です。上も下もないのですが、間違いなく言えるのは、上流工程での失敗は下流で取り返すことは出来ないという点です。「まずい!この家に住みたくない!立て直せ!」という話は施工が開始されたら出来ませんので・・・

ITプロジェクトほど難しいものはない

仕事仲間である、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ(株)の白川さんの本「会社のITはエンジニアに任せるな!」にある一節です。

・誰も作ったことがない
・直感よりもずっと複雑で
・目に見えないものを
・利害の異なる人々が寄り集まって
・限られた予算内で
・決められた期限までに作る
だから、ITプロジェクトは難しい

特に難しいのは直感よりもずっと複雑で目に見えないものをデザインするという工程で、ITプランナーの主な役目としては、上流工程と下流工程を適切につなぐことです。実は、ソフトウェアを作るにあたって「何を作るか」と「どう作るか」の間には、結構な深さの溝が存在します。代表例を2つあげます。

1.  成果物が不定形なので、なんかよくわからなくなる
ソフトウェアは現物がないので、イメージで伝えるしかありません。建物と違って自由度が極めて高いので、イメージを固めるのが相当難しいです。今まで使ったこともないソフトウェアを「きっとこうやって使うのだろう」というイメージを元にデザインするわけですから、適切なやり方で行わないとにっちもさっちも行かなくなります。

もちろん何かしらの企画書を作るわけですが、構想を膨らませて形に落とすのは、結構難しい。箇条書きでこんなことがやりたいですと書いてあるだけですと、解釈の違いが発生します。かといって、イメージ図を作ってみてもそれらが独り歩きして、何が完成形かよくわからなくなるケースは思いの外多いです。

2. 仕様を決める為のインプットにならない
要件定義と同じぐらい馴染みのない言葉が「仕様」だと思います。

仕様というのは、プログラムをどうやって作ったら良いのかを定義したものです。プログラムは以下の3つの要素で構成されます。

・インプット→どんなデータを受け取ある必要があるのか)
・アウトプット→(どんなデータを生成or取得すればよいのか)
・プロセス→(どうやってインプットからアウトプットを作ればよいのか)

みなさんが「こんなITがほしい!」という要望は、最終的にこの3つの要素に分解されます。この3つの要素に分解されていて整合性が取れていないと、エンジニアはどんなプログラムを作ってよいか、判断ができません。その点を理解されているビジネスサイドの方が極めて少ないという印象です。

ITは皆さんの思っている以上に曖昧さを理解できない

ビジネスサイドの要望の上げ方で私が注文をつけるのは、「曖昧な言葉は使わないで欲しい」ということ。この曖昧さのレベル感がまるで違います。

例えば、売れ筋の商品ランキングが欲しいという要望があるとします。が、売れ筋という表現だけでは、どういう観点で分析したいのかという点が抜けています。「販売数量」「季節」「時期(前年比)」「カテゴリ」「地域」「価格帯」などによって、売れ筋を見る観点が異なります。

在庫という言葉もそうです。在庫という言葉には、私の経験上以下の文脈が存在しました。

- 倉庫にある実棚
- 倉庫別の実棚
- 商品別で良品と不良別の各々の実棚
- 注文によって引当済の数を抜いた、実棚(フリー在庫)
- 商品別の取置総数及び残数
- 将来入荷予定がある分も含めた在庫数(有効在庫)

どれを管理したいかによって、ITシステムのデータ構造や集計するプログラムのロジックが変わってしまいます。

営業の販路開拓などにおいても、例えば「アタックすべき顧客一覧がみたいんだ」というお話だけでは、ITに落とし込めません。例えば「最後に売上があってから3ヶ月間売上がない顧客。フォローアップが必要。」とか「商材Aを買っているけどBを買っていない顧客、クロスセリングが見込める」とか、これぐらいの粒度で落とし込む必要があります。アタックすべき理由を練り込んで、誰が聞いても理解できる判断基準を作らねばなりません。

IT企画を成功させるには「経営・業務側が適切な要望・要求を出すこと」と「IT側が要求に適切な要件を見出して、それに見合うITを提供すること」が車の両輪です。この両輪のバランスが整っていないと、ITプロジェクトがうまく立ち上がりません。そのために、ビジネスのことも対象となるIT技術やITシステムの仕組みのことも適切なレベルで知見を持つ、ITプランナーが間に入る必要があるというわけです。

注文住宅であれば、家のイメージを伝えれば完成形ができますが、ITの場合は得られる結果はデータなので、データの意味を共有することが大切になりますが、データをつなげてビジネスがデザインできるようになるには、確かな修練が必要です。

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